中国テック企業のIPO、JPモルガンは楽観的な見通し

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今年はユニコーン企業のIPOラッシュだ。世界の主要取引所はユニコーン企業に食指を動かしており、香港証券取引所も上場基準を大幅に緩和してユニコーン企業のIPOを後押ししている。

しかし、ここ数カ月、世界の株式市場は不安定で、撤退する投資家も増えている。年初以来、香港と米国で上場したテック企業の75%が発行価格を下回っている状況だ。

こうした中、36KrはJPモルガン・チェースのアジア太平洋地域投資銀行部門・TMT部門の共同責任者ジョン・ホール氏、同じく投資銀行部門・TMT部門グローバル統括責任者ジェニファー・ネイソン氏から、中国のテック企業を取り巻くIPO環境について伺った。

――ここ3カ月で多くの中国テック企業の株価が10〜30%下がっています。大手証券会社はさらなる下落を予測しています。こうした状況をどのように見ますか。

ホール氏 「グローバルな地政学的問題が市場のボラティリティに一定の影響を与えていると信じている。いまは経済成長の低下や特定のテック産業における規制介入などにより、一部の企業はうまく機能していない。しかし、多くの企業と接触して得た感触では、これは長期的な現象ではないと考えている」

ーー現在の市場には下げ圧力が働いていると思いますか。

ネイソン氏 「はい、ただし、こうした状況の下では、優秀な企業が頭角を現わすようにもなる」

「例えば、我々は最近2つの大型ディールでアドバイザーに就いた。ひとつはIBMのレッドハット買収(340億ドル=約3兆8400億円)で、もう一つはSAPのクアルトリクス買収(80億ドル=約9000億円)だ。どちらもクラウド技術を軸としたソフトウェア企業の買収だが、テック市場のボラティリティが高い中、買収プレミアムは、それぞれ63%、75%となった」

「レッドハットは特定の業界で最高の企業だと認められているため、このような市況でも、IBMは63%のプレミアムを支払ったのだ。市場が強気の時は優秀な企業と一般的な企業の評価は大差ないが、弱気の時は両者の評価に明確な差が出てくる」

ーー「シャオミ(小米科技)」と「美団点評(Meituan-Dianping)」が香港で上場しましたが、その後のパフォーマンスが思わしくないため、投資家は中国のテック企業はバブルかと疑っています。また、それが原因で他の企業もIPOを躊躇しているとも聞きます。こうした見方についてはどう思いますか。

ホール氏 「過去6カ月間、香港上場後に良好なパフォーマンスを発揮したテック企業はほとんどない。香港市場が直面している課題の1つは、こうした急成長企業に対する投資家の基盤が未熟であることだ。取引数、資金調達額、IPO後の業績を考慮すると、香港IPO市場はやや脆弱だ」

ーーシャオミと美団は、米国で上場した「愛奇芸(iQIYI)」や「拼多多(Pinduoduoo)」に比べて資金調達額は大きいのですが、上場後の平均取引量は愛奇芸や拼多多ほどではありません。こうした違いは、他の企業が上場する市場を決める際に、どのように影響しますか。

ホール氏 「現在は企業の動向を見守っている状況だ。今年初めに香港取引所がIPO政策を改革する前、中国のテック企業の90%は米国で上場していた。一方、改革後は90%が香港で上場している」

「しかしその後、香港がボラティリティ上昇の影響を受け始めると、一部の中国テック企業は米国で上場することを選択した。現在は約半数の企業が米国を選択している」

「アメリカは公募価格の決定や小規模取引の実施に関して柔軟性を持っている。米国では2億ドル規模の発行も可能だが、香港では不可能だ」

「全体的に見て、香港の投資家は米国の投資家よりも中国市場に関する知識が豊富である反面、テック産業に関する知識は比較的乏しく、高成長企業を評価した経験も不十分だ」

「しかし、香港での上場は依然として非常に魅力的で、テック企業の50%が香港での上場を希望している。 IPO後のパフォーマンスさえ改善すれば、香港上場を選択する中国のテック企業は70%に達する可能性がある」

ネイソン氏 「香港、米国、その他の地域を問わず、上場する市場の選定には細かいプロセスがある。企業の性質や技術、IPO後の取引、中国市場に対する理解度、投資家コミュニティの成熟度など、決定には多くの要因が関与してくる」

ーー「騰訊音楽娯楽集団(テンセント・ミュージック・エンターテイメント)」は米国でIPOを進めています。母体であるテンセントに倣って香港で上場しないのはなぜでしょうか。

ホール氏 「2つの理由が考えられる。まず、テンセントにとって、子会社が世界規模で資金獲得のチャネルを増やす機会になるということ。第二に、テンセント・ミュージックのビジネスモデルは、欧米の投資家にとってもなじみ深いものだということ。例えば「Spotify」や「Pandora」など、類似事業については、欧米の投資家は経験豊富だ」

ーーIPOを準備するテック企業が増えていますね。IPOを検討、計画している企業にはどのようなアドバイスができますか。

ホール氏 「1年前よりも伸び率は鈍化しているが、IPO待ちの中国企業は増えている。ただ、多くの大企業は上場時期を調整中で、2019年末か2020年頃まで上場を控えるのではないか」

「来年はAI関連企業のIPOが続く可能性が高く、規制環境が安定すれば、一部のフィンテック企業もIPOのスケジュールリストに戻ってくるかもしれない。来年上場予定の中国企業は、コンテンツ系、モバイルインターネット、ロボットなど実にさまざまだ」

ネイソン氏 「現在の市場環境でアドバイスするとすれば、来年上場する計画があるならば、上場するタイミングを逃さないために今からしっかりと準備・整理していく必要がある、ということだ。今後を不安視し、上場計画を早める企業も出てくることだろう」

「TMT(技術、メディア、通信)分野では、シェアリングモビリティ業とソフトウェア業が非常に活発になると思われる。米国の大手シェアリングモビリティ企業の何社かは、来年上場すると見込まれている」

ーー2018年は大規模なIPOが多かったのですが、この傾向は2019年まで続くと思いますか。また、2019年のTMT業界の見通しはいかがでしょうか。

ネイソン氏 「今年は世界的にTMT業界の公開買付け、プライベートエクイティファイナンス、M&Aが非常に活発だった。市場が不安定であるにも関わらず、依然としてIPOラッシュだ」

「2019年の見通しも楽観的だ。ファンダメンタルズは悪くない。我々は多くの企業と接触し、資金調達やM&Aについて話し合っている。今年、『双11』におけるアリババの取引額が過去最高の300億ドルを記録したが、消費意欲を測るのにこれ以上の例はない。市場のごく短期的な変動にとらわれる必要はないだろう」

ホール氏 「2019年の中国のテック市場について、慎重ながらも楽観的な姿勢だ。市場の混乱はいくつかの懸念を引き起こすだろう。しかし、中国には多くの大規模企業や成熟企業が存在しており、彼らは公募・私募に関わらず資金調達を必要としている。IPOの流れも続くだろう」

ーー中国のテック企業が米国で上場する場合、貿易摩擦の影響があると思いますか。

ホール氏 「米国で上場している中国企業には大きな影響はないと思っている。米中ともに技術開発を目指しており、知的財産分野でも引き続き買収や資金調達が行われるはずだ。しかし、中期的には、両国がテック分野でどのように協力することになるのか、観察したいところだ」
(翻訳・飯塚竜二)

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