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米アップルのワイヤレスイヤホン「AirPods(エアーポッズ)」などを手掛ける電子機器受託製造サービス(EMS)大手「立訊精密工業(ラックスシェア)」は、電気自動車(EV)製造事業に乗り出す。
ラックスシェアは11日、持ち株会社「奇瑞控股集団(Chery Holding Group)」の株式を100億5400万元(約1800億円)で取得すると発表した。株主の「青島五道口新能源車産業基金」と合意した。ラックスシェアが青島五道口から奇瑞グループ各社の株式譲渡を受ける。取得するのは、奇瑞控股の株式19.88%、同社傘下の自動車大手「奇瑞汽車(Chery Automobile)」の同7.87%、新エネルギー車(NEV)メーカー「奇瑞新能源汽車(Chery New Energy)」の同6.24%。
取引完了後、青島五道口が保有する奇瑞控股株式の比率は26.89%に下がり、筆頭株主ではなくなる。ラックスシェアはまた、奇瑞新能源と合弁会社を設立し、NEVを開発・生産する。
深セン証券取引所に上場しているラックスシェアの投資家向け活動記録表によると、同社は自動車製造には関わらず、奇瑞のODM(相手先ブランドによる設計・製造)事業に参画する。向こう12〜18カ月に相次いで生産を開始できる見通しだ。新会社の主な顧客ターゲットは、海外の老舗自動車ブランドや中国国内の新興スマートEVブランドだという。
疾走中の方向転換
ラックスシェアは大きな岐路に立っている。
アップルのサプライチェーン(供給網)メンバーとしてトップクラスを誇るが、2021年は収益力にやや陰りが見えた。21年第3四半期の決算報告によると、1~9月の売上高は前年同期比36%増と好調だった一方、7~9月の実質ベースの純利益は同21%減と落ち込んだ。
ラックスシェアの粗利益率が低下するのは初めてではない。原材料価格や顧客企業の状況に左右されながらも、かろうじて収益を得てきた。同社の消費者向け電子機器部門は20年に売上高が前年比57%増だったが、粗利益率は逆に2%下がった。
ラックスシェアは17年、エアーポッズの組み立て業務を受注、その後、同製品のEMSとして世界最大手に駆け上がった。同社最大の顧客(アップルと見られている)からの受注額は売上高全体の7割を占めている。業績は当該顧客の恩恵を受けて毎年上がり続け、20年には純利益が前年比で53%も伸びた。
アップルからの受注は今も拡大し続けている。EMS世界大手の鴻海(ホンハイ)精密工業に取って代わり、アップルのスマートフォン「iPhone 13」の組み立てを受注。110億元(約1800億円)を投じて江蘇省蘇州市にサッカー場40個分の大規模工場を建設した。だが、大口の顧客1社に依存するリスクは誰の目にも明らかだ。真偽の定かでない情報が敏感な投資家の神経をとがらせることにもなる。
スマホ向けタッチパネルなどが主力製品の中国電子部品大手「欧菲光集団(オーフィルム)」を襲った悲劇を投資家は忘れていない。20年7月、オーフィルム子会社が米国当局の事実上の禁輸リストである「エンティティー・リスト(EL)」に加えられ、翌21年にはアップルのサプライヤーリストから消えた。オーフィルムの時価総額はたった1年で6割減少し、21年の損失額は19億〜26億元(約350億〜470億円)に上った。新疆ウイグル自治区を巡る人権問題に絡み、有力サプライヤーだったアップルから取引を打ち切られたことが影響したとみられている。
オーフィルムだけでなく、アップルのサプライヤーはいずれも瀬戸際に追い込まれている。短期的に同社と手を切ることができない上、既に過剰依存している中で余剰資金を他の事業や開発資源に振り向けるには、それなりの勇気も決断も必要となってくるからだ。ラックスシェアの事業は消費者向け電子製品事業が全体の88%を占め、依存度の高さは鮮明だ。エアーポッズの生産のほか、スマートウォッチ「Apple Watch」やワイヤレス充電器「Magsafe」の組み立て、「iPhone12」向けモーターなどの部品生産も含まれている。
こうした状況下で、他のアップルのサプライヤーと同じく、ラックスシェアも事業転換を模索している。21年7月には、登録資本金3億元(約55億円)で半導体製造の子会社を設立した。続く今回のNEV事業参入に当たっての100億元(約1800億円)という投資額に、同社の固い決意が見て取れる。
先行きは不透明
実際、多くのアップルのサプライヤーが方向転換を余儀なくされる中で、ラックスシェアは果断な意思決定をしたのではないか。
奇瑞はコストパフォーマンスのよい協業相手だ。21年のNEV販売台数を見ると、比亜迪(BYD)の59万3900台に対し奇瑞は10万9000台と、小鵬汽車(シャオペン)をやや上回っている。
自動車事業参入は、継続的に資金投入が必要な業界に足を踏み入れたことも意味する。自動車のEMSは携帯電話に比べ、製品の検証期間が長い。消費者向け電子機器は3カ月で済む半面、自動車は1年から1年半が目安だ。また、完成車製造には技術だけでなく、各方面での利益関係の調整も必要だ。
自動車事業の展開では、ホンハイがお手本になるかもしれない。
ホンハイは早くも04年に3億7000万台湾ドル(約15億円)で台湾の組み電線(ワイヤーハーネス)大手「安泰電業(AnTec Electric System)」を買収し、車載電子機器の製造に乗り出した。その後、米テスラや独BMW、メルセデス・ベンツ向けにダッシュボードのディスプレイや各種電子部品を供給するようになった。15年にはネットサービスの騰訊控股(テンセント)、同国高級車販売の「和諧汽車控股(China Harmony Auto)」と合弁で完成車メーカーを設立。同社は「拝騰(バイトン)」の前身となった。しかし、さまざまな要因が絡み合い、事業は順調に進展せず、ホンハイは1年も経たずに出資を引き揚げた。
とは言え、ホンハイは自動車製造を諦めたわけではなかった。20年には欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と合弁会社を設立。21年には再び拝騰と提携を決め、2億ドル(約280億円)を出資した。ほぼ同時期に中国自動車大手「吉利控股集団(Geely Group Holdings)」とも合弁を設立している。同年末には2億8000万ドル(約320億円)で米新興EVメーカー「ローズタウン・モーターズ」の組み立て工場を買収した。
ラックスシェアはホンハイと同様に、既存の自動車メーカーとの合弁により、自動車を生産する戦略を描く。ホンハイは自社ブランドを持つというさらに大きな目標を掲げ、すでに試作車も発表している。同社は25年までにEVの売上高を全体の5%に当たる300億ドル(約3兆4600億円)規模に育てたい考えだ。
ラックスシェアは今回、次の成長へ向けて舵(かじ)を切った。同社の創業者である王来春氏は最終学歴が中卒で、21歳の時にホンハイ工場の工員として入社。11年後に中国本土出身の従業員としては最高職位の課長に昇進し、その後独立して立ち上げたラックスシェアをホンハイの競合相手となるまでに成長させた。EV事業でも同じようなストーリーが再現されるかもしれない。
(翻訳・山下にか)
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