「脱リチウム」で台頭、中国ナトリウムイオン電池に資金流入 関連企業が急成長

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「脱リチウム」で台頭、中国ナトリウムイオン電池に資金流入 関連企業が急成長

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ナトリウムイオン電池業界が春を迎えたようだ。自動車メーカーや電池メーカーが原材料の価格上昇とリチウム鉱石が確保できない状況に焦る中、ナトリウムイオン電池事業を始める企業が増えてきた。中国のナトリウムイオン電池産業の発展は2015年に始まり、それから数年間は眠ったような状態だったが、ここ2年は関連企業が急成長している。

ナトリウムイオン電池を開発する「中科海鈉(HiNa Battery)」や車載電池大手の寧徳時代(CATL)などナトリウムイオン電池の量産が間近に迫る企業に加え、設立1〜2年のベンチャー企業が数多く現れている。ある創業者は「今はほとんどの電池メーカーがナトリウムイオン電池事業を手掛け、それが大きなチャンスだと考えている」と語った。

業界に資金が流入

ナトリウムイオン電池が注目される理由は2つある。1つはリチウム鉱石の埋蔵量が限られ、コロナ禍や地政学的な要因によって価格が高騰しているためだ。データによると、中国の炭酸リチウム価格は2020年6月に1トン当たり4万1900元(約84万円)だったが、今年3月時点で50万元(約1000万円)に跳ね上がり、最近はやや下がったが依然として高止まりしている。資源価格情報調査会社「生意社(SunSirs)」のデータによると、5月20日の炭酸リチウム参考価格は1トン当たり45万元(約900万円)だった。

また、新エネルギーシステムの最も重要な原材料の供給が偏り過ぎることは市場や業界の発展に隠れたリスクをもたらし、特に中国のように高品質な電池に使える炭酸リチウムの埋蔵量がそれほど多くない国には脅威となる。これは中国のリチウムイオン電池メーカーや自動車メーカーがここ数年にわたり、海外で資源確保に奔走しているのを見れば明らかだ。

新エネルギー自動車やその他新エネルギー産業の発展に伴い、ナトリウムイオン電池の需要拡大が続いている。これが投資家や企業家の目をナトリウムイオン電池産業に向けさせた。

画像:天眼査(Tianyancha)のデータを元に36Krが作成

統計を見ると、ナトリウムイオン電池の起業が2020年に市場で注目され始めたことが分かる。今年1~5月だけでナトリウムイオン電池事業を手掛ける10社以上が資金を調達した。

大企業とベンチャーが一斉に進出

中国でナトリウムイオン電池事業を手掛ける企業は多いが、大きくはベンチャー企業と、リチウムイオン電池事業もしくは原材料生産に長く携わる既存企業の2つに分けられる。

例えば、新エネルギー材料生産の容百科技(Ronbay Technology)はナトリウムイオン電池に使うプルシアンホワイトと層状酸化物の正極材の技術開発および生産ライン建設を進めている。

鉱物資源開発などを手掛ける山西華陽(Shanxi Huayang)も、中科海鈉などと共に正負極材とナトリウムイオン電池セルの生産ラインを建設。うち電池セル生産ラインは今年初めに山西省陽泉市で着工したが、まだ生産を開始していないという。

最も注目されているのは寧徳時代だ。同社は昨年7月、第1世代ナトリウムイオン電池を発表、同年8月に正極、負極、セパレータ、電解液を含むナトリウムイオン電池の特許を取得した。そのエネルギー密度は160Wh/kgに上り、世界最高と言われている。

中科海鈉は2017年2月に設立されたベンチャー企業で、複数回の資金調達を経て企業評価額が50億元(約1000億円)を超えた。同社が過去5年に多額の資金を調達できた大きな理由は市場でのポジショニングにあり、自社をナトリウムイオン電池の総合サプライヤーと位置づけた。現在、正極、負極、電解液、電池パックを生産しており、自社開発および他社や政府との合弁による工場建設を進めている。

例えば生産ラインにおいて中科海鈉は、発電大手の三峡集団(Three Gorges Corporation)や地方政府と提携している。三峡集団の傘下で再生可能エネルギーを手掛ける三峡新能源(Three Gorges Renewables)は昨年末、中科海鈉や安徽省阜陽市政府などとナトリウムイオン電池生産ラインの提携契約を結び、量産が可能な大規模生産ラインを建設すると発表した。

これによって製品を普及させる早い段階で生産と供給の優位性を確立し、素早くシェアを獲得できるというメリットはあるが、大量の資金を費やすことにもなる。

中科海納と比較されるのは2018年設立の「鈉創新能源(Natrium Energy)」だ。中科海鈉より設立が1年遅い鈉創新能源は、ナトリウムイオン電池の正極材と電解液の開発および生産を手掛ける。関連産業の投資家は「今後、ナトリウムイオン電池分野の起業は電池生産よりも川上の原材料開発が多くなるはずで、それは創業の難易度によって決まる」と話した。

ナトリウムイオン電池の原材料開発を起業することに市場優位性がないわけではない。鈉創新能源は年内に年産能力が正極材3000トンと電解液5000トンの生産ラインで操業を開始する計画だ。

業界関係者は「もし、鈉創新能源が1年間に正極材3000トンと電解液3000トンを販売できれば年間の売上高は5億元(約100億円)前後に上る。現在の企業評価額などを考慮すると、同社は上海証券取引所のハイテク企業向け市場となる科創板(スター・マーケット)上場も可能だろう」と話す。

言い換えれば、正極材や電解液といった川上の原材料を生産するだけでも上場企業になる可能性がある。しかも、正極材の生産ラインの建設費は電池パックの生産ラインより大幅に安い1000万元(約2億円)前後にとどまる。

また鈉創新能源の生産状況を見る限り、川下からの需要は非常に大きい。同社は正極材の試験生産ラインを24時間稼働させており、川下の顧客に蜂巣能源(SVOLT)など電池メーカーも含まれているので、正極材はおそらく製品化と技術検証用として多くの企業に供給されている。もしそうであれば、川下の顧客は少量の正極材で製品化することはできないので、川上に対する需要が増えることになる。

寧徳時代や中科海鈉などが相次いでナトリウムイオン電池の量産を年内に実現する見通しを示した。しかし、ナトリウムイオン電池は性能が市場で大規模に検証されていないため、どの分野で使うのか、どのような市場戦略で用途を広めるのかなどが製品の実績とシェアに影響する。

寧徳時代はすでに「リチウム・ナトリウムハイブリッド電池パック」を発表した。このような製品は低速の電気自動車や乗用車にも使われそうだが、同社がそれ以外の分野にナトリウムイオン電池を単独で使う可能性もある。

他のナトリウムイオン電池メーカーは電動二輪車やエネルギー貯蔵市場に目を向けているようだ。中国だけでなく、欧米を中心とする各国の企業もナトリウムイオン電池の開発に取り組んでいる。知られているのは英国のFaradion、フランスのTiamat、スウェーデンのAltris、米国のNatron EnergyとAquion Energyなどで、日本のパナソニックや三菱ケミカルも動きを見せている。
(翻訳・大谷晶洋)

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