空も陸も、「愛知・中部地域」でモビリティ新産業が動き出す。海外スタートアップにも好機

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空も陸も、「愛知・中部地域」でモビリティ新産業が動き出す。海外スタートアップにも好機

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トヨタやデンソー、ヤマハといった日本を代表する製造業が拠点を構える愛知・名古屋および浜松を含む「中部地域」では、グローバルに活躍するスタートアップの育成や海外企業の誘致に向けた動きが活発化している。

この地域に優れた人材・技術・資金を呼び込むため、中部経済連合会や名古屋大学、愛知県、名古屋市、浜松市などが「Central Japan Startup Ecosystem Consortium(CSC)」を組織し、海外の都市と連携してグローバルなスタートアップ・エコシステムの形成を目指す体制を整えた。

東京ー名古屋間を40分で結ぶリニア中央新幹線の開業が2027年に予定されていることもあり、フランスとGDPが同等の巨大な経済圏が誕生する見通しで、期待感が大きく高まっている。ヘルスケアや農業などの分野で革新的な事業を創造するプロジェクトも推進されているが、特に注目されるのはモビリティ分野での新産業創出だ。

12月13日、愛知のモビリティ分野におけるスタートアップ・エコシステムを紹介するイベントが開催され、同地域で革新的なプロジェクトを推進する国内外のスタートアップが集結した。

参加者の関心は、モビリティ分野の新産業を創出するために官民一体となって推進する「空と道がつながる愛知モデル2030」プロジェクトに集まった。このプロジェクトでは、ドローンや空飛ぶクルマ(eVTOL)など「空のモビリティ」の社会実装の早期化や、自動運転車両と同時制御しながらの運用などを実現し、革新的なモビリティ社会を目指す。行政と大企業、そしてスタートアップが連携してスタートした世界でも前例のないチャレンジとなるため、愛知県や名古屋市は国に働きかけてルール作りを行う一方で、民間が持つテクノロジーを駆使し、新しいモビリティ社会の実現に向けて意欲的に取り組んでいる。

日本のスタートアップが県などの地方自治体に提案することで始まる新プロジェクトもあり、採択されればスタートアップにとって事業成長やブランディングにつながる。今回のイベントを主催したJETRO名古屋所長の平野氏や、名古屋市スタートアップ支援室長の鷲見氏らによると、今後は海外企業や外国人起業家も積極的に巻き込んでいきたい考えだという。

では、スタートアップから見て、愛知・中部地域でのチャレンジはなぜ魅力的なのか。また、同地域が持つ資源をどう有効活用すればよいか。押さえておくべき地域の特徴や動向について、実際にモビリティ事業を手掛ける3社に話を聞いた。

l  URBANCHAIN Group(香港) CEO Vitaly Pentegov氏

ハードとソフトを統合したスマート駐車場管理ソリューションを日本で展開。香港をはじめグローバルに事業を推進する。日本では愛知県やJETROの支援を利用して、名古屋鉄道と共同で実証事業を手掛ける。

l  株式会社プロドローン 代表取締役社長 戸谷 俊介氏

2015年設立の日本を代表する産業用ドローン開発企業。ハード・ソフト両面で独自のコア技術を持ち、革新的な機種を多数発表している。行政との共同プロジェクトを多数実施、海外のスタートアップとの連携も積極的に進める。

l  Crystal株式会社 代表取締役社長 蒼佐 ファビオ氏

2016年の創業で、車載システム開発支援をメインに、電動キックボードシェアリングサービス「su_i」を展開。愛知県の社会実装事業として、トヨタファイナンシャルサービスとの連携サービスを推進する。

URBANCHAIN Group(香港) CEO Vitaly Pentegov氏

モビリティ・スタートアップがなぜ中部地域で活躍できるのか? 

  • モビリティ産業に適した環境(場所・人材・チャレンジ精神・資本など)

モビリティ産業は、自動車やドローンなどハードウエアが関わる産業だ。これらのハードウエアを手掛ける企業にとって、広い土地や製造業に精通した人材が必要不可欠な要素となる。愛知・中部地域は、首都圏や関西に比べて安く土地が手に入る。また、トヨタやデンソーなど日本を代表する製造業の本拠地もあることから、優秀な人材が日本で最もそろいやすい。さらに、行政が政策面でも資金面でも積極的に民間のチャレンジを後押ししており、多くの新しい試みや実証が行われている。自動運転プロジェクトも複数の場所で実施されており、市民のリテラシーが高まっているという。

愛知・中部地域に限らず、日本では製造技術に定評のある大企業でも、デジタル化や人工知能(AI)など最新技術の活用が遅れている場合も多い。海外のスタートアップとの提携を希望する大企業が数多くあるため、海外企業にとってチャンスが多い地域と言える。

  • 参加者全員が、本気で、新しいモビリティ社会の実現に取り組む

蒼佐氏によると、この地域の行政やスタートアップ支援拠点の方々は、新しい産業を創出することに本気で取り組む熱意ある人が多いという。例えば、スタートアップの事業成長に役立つ情報を提供してくれたり、困ったことがあれば相談に乗ってくれる専門家も多い。Crystal株式会社は、愛知県の担当者が大企業とつなげてくれたことで自社サービスの成長に弾みがついた。大規模で事業展開する大手企業のサービスとの協業が実現し、自社で手掛ける電動キックボードのシェアサービス「su_i」の新規ユーザー獲得で大きな進展があったという。

戸谷氏は、海外と日本、大企業とスタートアップ、民間と行政、といった本来は交わりづらい立場の方々を、自らがハブとなってつなげる活動をしている。自宅を改築してバーカウンターを用意した。日々さまざまな人が気軽に立ち寄り、グラスを片手に新産業を興そうと会話を弾ませているという。今年はシンガポールなど海外政府の担当者も訪れた。バーカウンターでの交流をきっかけに、海外スタートアップとの協業の話も進んでいる。戸谷氏によると、愛知県は「日本最大の田舎」だという。経済規模は大きいが、東京に比べれば人情味ある雰囲気が魅力で、人と人とのコミュニケーションで話が進んだり、助けあったりできるのも、愛知・中部地域の魅力と言えるだろう。 

株式会社プロドローン 代表取締役社長 戸谷 俊介氏
  • 日本最大のスタートアップ支援拠点「STATION Ai」を中心に、外国人・海外企業を強力に支援

人とのつながりが大事だと言われると、海外のスタートアップや外国人はハードルが高いと感じるかもしれないが、そんな心配は無用だ。同地域では海外との連携にも非常に積極的に取り組んでいる。 

中でも、愛知県経済産業局が立ち上げたスタートアップ中核支援拠点「STATION Ai」は極めて大きな役割を果たす。STATION Aiは、国内外のスタートアップ・エコシステムのネットワークを融合し、国際的なイノベーション創出拠点の形成を目指す。同施設は、2024年10月に名古屋市昭和区鶴舞にオープンする予定で、有力なスタートアップの創出・育成・誘致・展開に加え、地元のモノづくり企業などとのオープンイノベーションを推進する。 正式オープンまでは、名古屋駅近くのWeWorkグローバルゲート名古屋内に2020年1月に開設した「PRE-STATION Ai」を利用し、起業サポートやスタートアップと既存企業との協業支援を行っていく。

Vitaly氏は、STATION AiやJETRO愛知などの後押しにより、名古屋鉄道の担当者とつながり、名古屋鉄道が所有するビルの駐車場をスマート化するプロジェクトを進めている。URBANCHAIN Groupの本社がある香港でも提携先を探すのは非常に難しいため、日本での困難も覚悟していたが、想像以上の支援を受けたことで日本進出後の活動は順調だという。

特に重要だったのは、STATION Aiをはじめ英語によるコミュニケーションが可能な人材が、同社の強みを理解したうえで、売り上げにつながるような大企業とのマッチングを支援してくれたことだ。愛知では、海外のスタートアップも、外国にルーツがある起業家も、海外展開したい日本のスタートアップも、大いにサポートしていくという。

24年10月には「STATION Ai」の全面運営が始まり、海外の投資家や大手企業の入居も決まっているという。このように、海外の起業家も巻き込む形で、愛知・中部地域は大きく変わろうとしている。今後の動向にぜひ注目したい。

(取材・作成:36Kr Japan)

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