【特集】自動車のスマート化、ヘッドアップディスプレイ(HUD)がなかなか普及しない理由

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【特集】自動車のスマート化、ヘッドアップディスプレイ(HUD)がなかなか普及しない理由

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ヘッドアップディスプレイ(HUD)はスマートコックピットの一部として注目されている技術だ。HUDを全車種に標準装備している中国電気自動車(EV)メーカー「理想汽車(Li Auto)」は以前、HUDを単なる補助的な装置ではなく、計器パネルの代わりに設置して、運転手が前方を見るだけで済むようにしたいと明言した。

しかし、スペックとコストが原因で、思うようには普及していない。

現在、オプションとしてHUDを追加する際の価格は5000〜8000元(約10万~17万円)とさまざま。HUDはダッシュボードに穴を開けて光学部品を取り付け、特殊なフロントガラスに交換する必要があるため、後付けは不可能だ。HUDの標準装備を選べない車種は、コストを優先して機能をカットしたと見なされる。

コストの問題に加えて、技術的にも成熟していない。車種によってはHUDの位置が適切でないため、運転手がHUDと前方の路面で意識的に視線を切り替える必要がある。ほかにも、HUDによるグレア(まぶしい光)や映像酔いを起こしやすい、解像度が低く表示がはっきりと読めないなどのケースもある。

HUDは各企業が独自に開発し、それを自社で検査して自動車に搭載しているため、体系的かつ客観的な評価と試験のシステムが欠けている。では、使いやすいHUDとはどのようなものだろうか。

鮮明な表示とゆがみのない画面

解像度はHUDで最も重要なポイントだ。中国の吉利控股集団(Geely Holding Group)が独ボルボと立ち上げたブランド「領克(Link&Co)」から92インチ大型HUDが売りの「領克08」が発売されたが、納車後にぶつかった最初の難関がゴーストとゆがみだった。実際の画像を見ると、駐車時に音楽情報を表示している状況で、画面左側のテキストにゴーストが確認できる上、文字が上下にがたついている。画面右側のテキストでは2つあるカッコの角度が異なっている。

領克08のHUD(画像:懂車帝のユーザー投稿)

領克08に搭載されているHUDは、現在最も主流なフロントガラス反射型HUD (WHUD)で、フロントガラスを媒体とする光学反射の原理に基づいている。フロントガラスの曲面は特殊で、ブランドや車種ごとに材質も異なる。このため適切なパラメータや角度にしていないと、HUDにゴーストやゆがみが生じやすくなり、情報がはっきりと表示されなくなる。

では、どのくらいの解像度があれば、日常的な使用に耐えられるのか。例えば、中国EV大手・比亜迪(BYD)傘下「方程豹(Fangchengbao)」の「豹5」は、日中の室内でもテキストがくっきりしており、十分な彩度の色で表示され、方向指示マークのグラデーションもはっきりと分かる。

右が豹5のHUD(画像:小紅書のユーザー投稿)

道路走行中、HUDに表示される赤や白、黄、青、緑の色が空や路面、雪道などの色に溶け込むことは避けなければならない。またHUDの赤色マークは、前方車両のブレーキランプよりも明るさを抑えて、情報の干渉を起こさないようにする必要がある。同時に、道路状況の確認を妨げない透明度と明るさも重要だ。透明度と明るさの設定は外部の明るさを考慮する必要があり、日中は太陽光に負けないよう目立たせるが、夜間は同じ明るさだとグレアが発生する。

解像度と色彩の問題に加えて、画像の表示距離も映像酔いの大きな要因になる。一般的に平面のHUDで、表示距離は2~2.5メートル先が最適とされている。実際の運転中に正常な車間距離を確保すれば、HUDは前方車両と重ならない適切な距離に表示される。

優れたHUDを開発するには、リリース前にテストを繰り返すことが必要になる。明るさや材質の異なる路面で、運転手の視力による見え方の違いも加味しながら、テストと調整を進め、最もバランスの良い状態にしなければならない。車種が違えば同じサプライヤーの製品でも使用感は異なる。

ブランドごとに異なる表示やレイアウト

ブランドや車種の個性が大いに発揮されるのが、情報のレイアウトや表示方法だ。理想汽車はHUDにメーター類もすべて含める方式で、さまざまな情報を大きく表示する。同社のHUDは、左側にナビゲーション情報として方向と詳細な地図情報、中央に車線と周辺環境の情報、右側に速度、制限速度、ギアポジションを表示する。アップデートされたバージョンでは、右側にエネルギー回生システムの情報も追加された。

理想汽車のHUD(画像:小紅書のユーザー投稿)

それに対して、中国EVメーカー「蔚来汽車(NIO)」が選んだのは計器パネルを残すシンプルな表示スタイルだ。画像から分かるように、計器パネルに表示される情報はかなり多く、バッテリーや航続距離、ナビゲーション、道路状況、速度、制限速度、ギア、消費電力、日付、温度など多岐にわたる。そのため、HUDでは速度・制限速度、ナビゲーション、運転支援情報を表示するだけだ。

蔚来汽車のHUD(画像:懂車帝のユーザー投稿)

そして新たなトレンドも見えてきた。ファーウェイと自動車メーカー「賽力斯集団(SERES)」が共同運営するEVブランド「問界(AITO)」のSUV「問界M9」は、ファーウェイが開発した拡張現実型ヘッドアップディスプレイ(AR-HUD)を搭載、蔚来汽車が発表した「ET9」も計器パネルの代わりにAR-HUDを搭載している。HUDはより長い表示距離、広い視野角、高い没入感を実現するAR-HUDに向かって進化しつつあるようだ。

2020年に自動車業界で注目度ナンバーワンの新技術となったAR-HUDは、24年になってようやく量産車種に搭載され始めたものの、まだARの技術レベルが低く、快適に使用するには今後のアップデートを待つ必要があるだろう。AR-HUDに期待するよりも、WHUDの普及を図ることが目下の最善策かもしれない。

*2024年2月25日のレート(1元=約21円)で計算しています。

(翻訳・大谷晶洋)

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