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大手電子契約サービス「e簽宝(esign)」を運営する「天谷信息科技(Tiangu Information Technology)」がシリーズCで6億5000万元(約100億円)を調達した。リードインベスターはアリババ傘下のアント・フィナンシャル(螞蟻金服)、コ・インベスターは「戈壁創投(Gobi Partners)」と大株主「靖亜資本(Eminence Ventures)」。今回調達した資金は、製品アップグレードのための研究開発と人材誘致、およびスマート・コントラクトの各段階におけるAI技術の活用に充てられる。
電子契約業界は、契約締結などの署名が求められるあらゆるシーンにフォーカスしている。企業間で交わされる紙面での契約では、郵送などの手続きを必要とするため、顧客と頻繁にやり取りする企業にとって時間また人的コストの大きな損失となっていた。
天谷信息科技は国内で最も早くこの業界に参入したスタートアップだ。2002年に創業して間もなく「天印簽章システムV1.0」を発表し、ペーパーレス化契約システムの方向性に特化した。当時の中国のインターネット業界はインストール型ソフトウェアが主流だったため、同社のプロダクトもソフトウェア・ハードウェア一体型の形式を採っていた。顧客のローカル端末に対するサービスに加え、専門のコールセンターによるアフターサービスを提供し、まずは政務分野での導入を進めたことでいち早く黒字化を実現した。
その後、サービス形態をソフトウェアからSaaSプラットフォームに転換し、これが同社にとっての重要な転機となった。同社は2013年にクラウドコンピューティング、モバイルインターネットなどのトレンドに順応し、クラウドサービスによる電子契約SaaSプラットフォーム「e簽宝」をリリース。API(アプリケーションプログラミングインタフェース)をベースとし、電子署名から契約書管理、さらには証拠保全や法律サービスも含めたトータルソリューションを提供している。これまではトークンによる認証やローカル端末を必要としていたが、現在では全てがオンライン上で完結し、プラットフォームによる全過程のトレースも可能となった。またビジネスモデルについても、従来型のプロジェクト制から利用回数に応じ費用を徴収するSaaSモデルに変更している。
近年、同社のサービス利用者は爆発的に増加しており、顧客企業の携わる業種も多岐に及んでいる。従来の金融、IT、政府、大規模製造業、物流などに加え、オンラインの教育、賃貸、旅行予約を含むニューエコノミー分野の開拓も進めており、基幹インフラとして各業界の成長に寄り添ってきた。
2016年以降は電子契約サービスに加え、AIを活用したスマート・コントラクト、証拠の保全・収集およびオンライン仲裁などの法律サービスの提供を開始し、プライベートクラウド、パブリッククラウドおよびハイブリッドクラウドといった複数の形態にも対応してきた。今年6月までの電子契約締結件数は累計延べ75億件、個人顧客は2億1000万人、法人顧客は289万社、1日の電子契約締結件数は平均延べ2000万回を超えている。
電子契約業界は2013年頃から活発化し、フィンテックの大規模な活用と共に飛躍的な発展を遂げ、他領域にまで段階的に業務を拡大してきた。当初は無数のスタートアップがこの業界に参入し、業界は黎明期から現在の急成長期に突入した。これらの企業がベンチマークとしたのが、2003年創業の米電子契約サービス大手Docusignだ。同社は昨年4月にアメリカでの上場を果たし、現在の時価総額は117億ドル(約1兆2700億円)に上っている。
同業界に属する各企業の参入障壁となるのが、電子契約の持つ双方向性だ。契約は必ず二者により実施される行為であり、多くの顧客を抱える大企業がある電子契約プラットフォームを使用している場合、その契約相手の企業も同一のプラットフォームを利用するようになるケースは容易に想像できる。こうして企業から企業へと波及効果が生じ、一旦プラットフォームが導入されればそう簡単には他サービスには乗り換えない。このため、大企業にサービスを導入してもらうことが、電子契約関連企業が業務を拡大する上で重要な足がかりとなる。e簽宝はすでにアリババ、ソニー、華夏銀行(Hua Xia Bank)、ハイクビジョン(海康威視)、吉利汽車(Geely Auto Group)、バドワイザーおよび台湾系の「頂新国際集団(Ting Hsin International Group)」などの主要顧客にサービスを提供。今回の資金調達後、アリババとの戦略パートナー関係により拡大が見込まれる顧客層にも注目したい。
2017~2018年は同業界の分水嶺となり、現在では一通りの再編・統合を経て業界構図がすでに形成され、e簽宝のほか「上上簽(BestSign)」や「法大大(Fadada.com)」といった企業が最大手となっている。さらに政策的な追い風も吹いており、市場の見通しは明るい。今年1月に「EC法(電子商務法)」が施行され、電子契約サービスの使用について明確に規定されたことで、今後もB2CやC2Cなど導入シーンの拡大をさらに模索できそうだ。
(翻訳・神部明果)
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