小売大手の物美が独メトロの中国事業を買収 欧米勢の苦戦が続く

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小売大手の物美が独メトロの中国事業を買収 欧米勢の苦戦が続く

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2019年10月11日、ドイツの小売大手メトロAGは、中国の小売大手である「物美集団(WUMART)」やオムニチャネル小売りの「多点(Dmall)」と共同で、物美がメトロ中国の支配権を取得することに合意したと発表した。物美とメトロは合弁企業を新設し、物美が80%、メトロが20%の株式を保有する。多点は技術パートナーとしてメトロ中国と協力していく。

永輝の失敗

今回の買収が発表されるまで、同じく小売大手の「永輝(YONGHUI)」がメトロを買収するのではないかと思われていた。2018年の中国チェーンストアランキングにおいて、永輝は第4位で、物美の8位よりも順位が高く、売上高は物美の2倍以上もあったからだ。しかし、永輝にとってはカルフールの買収に続く失敗となった。

永輝は企業設立当初より生鮮食品のサプライチェーンの構築に注力し、今はB2Bの供給もできる態勢を整えている。この点からいっても、倉庫型卸売・小売で、主要顧客に法人が多いメトロは永輝にとって適切なパートナーだ。しかし、永輝はまたも買収に失敗した。そのため、同社のキャッシュが不足しているのではないかと囁かれている。

永輝は9月17日に今年初の臨時株主総会を招集した。その後の発表によると、証券会社の「山西証券」が管理する形で資産担保証券を発行し、資金調達を行うことが決定されたという。発行登録金額は20億元(約300億円)以下だ。

この動きについて、永輝に詳しい関係者は、同社はキャッシュが不足している可能性が高いと指摘する。また、上記の決定は、グループのキャッシュを使いファクタリングするのではなく、小売業務だけで自力更生を果たす戦略の表れでもある。今年上半期にも、永輝はニューリテール事業のために銀行から58億元(約900億円)の融資を受けた。

今回のメトロ買収は最終的に119億元(約1800億円)の取引となったため、永輝がこれだけのキャッシュを出した場合、キャッシュ・フローがさらに苦しくなり、ほかの業務に響くことは必至だった。

物美のプラン

永輝にとってのメトロの魅力は、物美から見ても同様だ。

物美は昨年からB2B業務の強化を始めた。まずは生鮮食品から始め、法人の大量購入や外食事業者のために食材を配送する。そして、食品以外にも種類を増やし、最終的には全品目の提供を目指す。

食品配送はメトロの強みだ。財務データによれば、メトロの食品配送は3年連続10%以上成長しており、その成長率は、2017年10.5%、2018年11.4%、2019年は17%に達した。今後数年間は20%-25%の成長を持続すると見られる。

メトロを買収したことで、中国の59都市にある95のメトロの店舗と、全国に広がる物美のスーパーやコンビニがB2Bのための倉庫になる。サプライチェーンにおけるメトロの強みがより発揮されるだろう。

もう一つ注目すべきことは、多点が買収の合意に加わったことだ。物美の张文中会長は個人名義で多点に出資しており、物美のデジタル化は多点によるところが大きい。デジタル化の遅れはメトロの成長のネックになっているため、多点によるデジタル化の推進で、メトロと物美の融合はさらに進むだろう。

急進的な拡大

この2年間、投資と買収に長けた张文中氏はメトロのほか、スーパー「楽天瑪特(ロッテマート)」の21の店舗とインテリアショップ「百安居(B&Q)」を買収し、元国営デパートだった「重慶百貨」にも出資した。2018年10月には中国ローカルコンビニ「隣家(Lin)」の70-80店を取得し、今年3月には「華潤万家(China Resources Vanguard)」の北京の複数店舗を取得した。

このような積極的な拡大戦略により、物美の資産と負債は急速に増えた。2018年6月末の時点での、物美集団の総資産、負債総額、純資産はそれぞれ611.70億元(約9200億円)、333.38億元(約5000億円)と278.32億元(約4200億円)だ。短期借入金残高は52.79億元(約800億円)、一年以内に満期を迎える固定負債残高は52.69億元(約800億円)と、返済負担は大きい。そこに今回の119億元(約1800億円)の買収が加わるため、今後物美のキャッシュ・フローが厳しくなる可能性は高い。

好材料としては、同じく中国企業に買収された外資系スーパーのカルフールと比べ、メトロの経営状況はかなり良いことが挙げられる。2017-18年度のメトロの売上は2.7%伸び、200億元(約3000億円)に達した。2018-19年度の成長率は昨年の2倍の5.4%になると見込まれる。

メトロを買収したことで、物美はすでに「スーパー+デパート+倉庫型大型店+コンビニ」と、オフラインの小売のすべての業態をカバーできるようになった。しかし、中国の小売事業者間で比べてみると、物美は店舗運営水準にしても、顧客体験にしても、高水準というわけではない。大金でメトロを買収しても、果たして物美にそれをうまく運営していく力はあるのか、今後の展開が注目される。
(翻訳:小六)

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