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WeChat(微信)などで知られる中国SNSの超大手テンセントが初めて、新しく台頭してきたソーシャルプラットフォームに負けを喫した。
過去10年、ソーシャル分野で負けなしとされてきたテンセント。同社に正面から対決を挑む中国企業などこれまでほとんど存在しなかった。そこへ攻勢をかけたのが、短編動画アプリのTikTok(抖音)だ。運営元のバイトダンス(字節跳動)はテンセントの最も得意とするSNS分野で、反撃の間も持たせぬほどにテンセントを打ち負かしたのだ。
実はテンセント傘下にもTikTokと同様の短編動画アプリがある。「微視(WeShow)」はユーザーが自由にコンテンツを制作し投稿できる仕組みで、一時はサービス提供を停止したが2018年初めに再リリースされ、半年後にデイリーアクティブユーザー(DAU)が400万人、その1年後の今年6月にアクティブユーザーが750万人に達した人気アプリだ。とはいえ、テンセントほどの巨大プラットフォーマーがその潤沢なリソースの半分以上を注ぎこんで支援してきたプロダクトにしては、その成長ペースは「惨憺たるものとしか言えない」。テンセントの出資を受けるある企業の幹部はそう述べる。
微視の成長は実際になかなかの成績だが、ユーザーの定着に関しては芳しくない。最新のデータによると、ライバルのTikTokや快手(Kwai)がユーザー定着率でともに80%前後を叩き出しているのに対して、微視は43%にとどまっている。閲覧回数やユーザー1人当たりの利用時間に関しても、TikTokの4分の1ほどだ。UGC(ユーザー生成コンテンツ)コミュニティとしてもいまいち盛り上がっていない。なお、TikTokは今年5月、DAUが3億人を突破した。
テンセントにとって、SNS事業は企業の安泰と存続を担う核だ。検索分野でバイドゥ(百度)に勝てずとも、さらにはEコマース分野でアリババに勝てずとも構わないが、SNSでだけは決して失敗できない。
短編動画は2013年ごろから中国SNSの新たなトレンドとして台頭しはじめた。しかし、トップダウン思考の企業ではトレンドの芽を育むことはできない。そのためテンセントは微視のリリース後、「秒拍(Miaopai)」や「美拍(Mipai)」などの競合に次々と先を越されてしまったのだ。そこで微視は一旦サービスを中止することになる。ちなみに秒拍は「中国版ツイッター」と呼ばれる新浪微博(Sina Weibo)が、美拍は美顔アプリとして人気を博した美図(Meitu)が後押ししたアプリだ。
テンセント経営陣に対し、バイトダンス創業者の張一鳴氏の視点は違った。短編動画は「遊べる」プロダクトになると考えたのだ。ボトムアップ的思考からみれば、短編動画は大いなる可能性を秘めていた。そこでバイトダンスは2017年はじめ、傘下のニュースアプリ事業「今日頭条(Toutiao)」から3本の短編動画アプリを同時リリース。うち1本が世界中で大ヒットしたTikTokだ。(他2本は「西瓜視頻(Xigua Video)」「火山小視頻(Vigo Video)」)
TikTokへの対抗策として、テンセントは昨年4月に短編動画サービス事業を再始動させ、ようやく重い腰を上げて微視を復活させた。
テンセントが新製品を発表する際はほぼ毎回同じ手法を採る。旬のヒット商品に酷似した、なおかつ完成度の高い製品をリリースし、そこへ自社が抱える膨大なユーザーを誘導するのだ。Google Playに類するアプリストア「応用宝(myapp.com)」、米ケーブルテレビHBOと動画コンテンツ配信Netflixをかけ合わせたような「騰訊視頻(Tencent Video)」などが成功の一例だ。
しかし、TikTokにこの戦略は通用しなかった。
微視は後発であるがゆえに焦って近道を求めたのだろうが、UGCコミュニティが盛り上がらないまま、コンテンツの質そのものも物足りないものとなってしまっている。良質かつ拡散しやすいコンテンツは短編動画の要だ。テンセント内部の組織構造もここではマイナスに働き、社内リソースとの調整に多くの時間を費やしてしまった。
「バイトダンスのアプリ制作現場では、アプリの成長をけん引するチーム、技術担当チーム、商業化を促進するチームが完全に分業化しており、この3チームがすべてのアプリに関与する。社内リソースが効率的かつ一丸となって全製品に力を注ぐのだ。表面的にみれば、TikTokの成功は良質なコンテンツと的確なレコメンデーションアルゴリズムによるものだろうが、根本的には先見的な意識によるものだ。張一鳴氏は新しい能力を見出し、それを自社のエンパワーメントに活かし、製品や競争に反映させた」。経済関連の個人ニュースメディア「LateNews」ではこう綴られている。
バイトダンスとテンセントの争いはまだ終わってはいない。10月29日、バイトダンスが香港で新規株式公開(IPO)を検討しているとの報道があった。これでテンセント陣営はさらに闘志をたぎらせているだろう。しかし現段階では、その前途は多難だ。(翻訳・愛玉)
作者プロフィール
王漢洋(Wang Hanyang):AI技術の研究・開発を手がける「泛化智能(GI)」の創業者。北京に本社を置く同社は、主力商品としてドローン向けのオープンソースシステム「GAAS(Generalized Autonomy Aviation System)」を提供している。【Twitter】https://twitter.com/HanyangWang
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