安全・低コストの蓄電システムに水系亜鉛イオン電池、 中国ベンチャーが市場拡大を狙う

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太陽光発電や風力発電などクリーンエネルギーの大規模な活用が進むのに伴い、不安定な発電量をコントロールする手段として蓄電技術が脚光を浴びるようになり、ここ数年でその技術は大きく進歩してきた。数ある蓄電技術のうち、最も普及しているのがリチウムイオン電池だが、ナトリウムイオン電池やレドックスフロー電池、水系電池を使った新たな蓄電技術も急速に発展しつつある。

リチウムイオン電池に代わる蓄電技術の研究開発に注力する「瀚為科技(VASTECH Technology)」は、特に水系亜鉛イオン電池を手がけており、電力系統や軌道交通など向けに安全で効率的な水系蓄電池ソリューションを提供している。

瀚為科技は2022年にエンジェルラウンドで2回の資金調達に成功し、23年には紅杉中国(HongShan、旧セコイア・チャイナ)のシードファンドが主導するシリーズAの資金調達を完了した。

水系電池とは電解液に水溶液を使った二次電池を指す。可燃性の有機溶剤を使用していないので発火や爆発の恐れがなく安全性が高いほか、環境に優しくイオン導電率も高いなどの特長があり、今後の大規模蓄電プロジェクトで活用が見込まれている。電力系統や工業・商業用途、クリーン交通などの分野では、水系亜鉛イオン電池の潜在的ニーズが1000億元(約2兆円)を超えるとの試算もある。

目下、水系電池の技術進歩を後押ししているのは、より安全な電池を求める市場の声と、中国政府による新型蓄電技術の推進政策だ。中国工業情報化部は2022年に「エネルギー電子産業の発展促進に関する指導的意見(意見募集稿)」を発表、大規模蓄電向けの新たな水系電池など新型蓄電技術の開発を奨励する姿勢を明確に打ち出した。

中国の研究者、水系亜鉛イオン電池の研究で新たな成果

瀚為科技は2021年の設立当初から、水系亜鉛イオン電池の開発と技術革新に力を注いできた。創業者の劉奕楊博士によると、同社の水系亜鉛イオン電池はすでに商用出荷の段階に入っており、受注額は1億元(約20億円)近くに達しているという。

水系亜鉛イオン電池には、正極材料の選択や負極の副反応といった克服すべき技術的な課題がある。瀚為技術は独自の自己修復型電解液技術を採用し、多孔質材料の隔膜や安定化アノードを組み合わせることで、亜鉛系電池の技術的な壁を打ち破ることに成功、高い安全性と優れたサイクル寿命を実現した。

この安全性のおかげで、同社の水系亜鉛イオン電池を使った蓄電システムは顧客企業から高く評価されている。すでにさまざまなシーンに対応した水系亜鉛イオン電池の蓄電プロジェクトが進んでおり、最大のものは蓄電容量が4メガワット時に上る。また、電力系統や各地の軌道交通を運営する国有企業、エネルギー多消費産業の上場企業などとも戦略的パートナーシップを結んでいる。

海外市場も積極的に開拓していく考えで、中国の経済圏構想「一帯一路」沿線国と提携に向けた協議を進めている。

水系亜鉛イオン電池は、まだコスト削減の余地があるという。整ったサプライチェーンがあり、生産工程の95%以上でリチウムイオン電池の生産設備を転用できることに加え、亜鉛の回収技術が確立されているため、原料価格を抑えて安定供給が見込めるからだ。水系亜鉛イオン電池や蓄電システムのコストが大幅に下がれば、市場はさらに拡大すると、劉氏は見ている。

生産能力については、既存の100メガワット弱の水系電池自動生産ラインに加えて、2026年までに5ギガワットの新たな生産拠点の第1期部分を完成させる計画だという。新たな拠点が完成すれば、水系亜鉛イオン電池のさらなるコスト削減や性能向上が見込まれ、世界のエネルギーシフトにも大きく貢献することが期待される。

*1元=約21円で計算しています。

(翻訳・畠中裕子)

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