超音波BCIに熱視線ーー開頭手術不要の脳制御技術、中国「Gestala」が35億円調達
超音波を用いて頭蓋骨の外側から脳に直接作用する「超音波BCI(ブレイン・コンピュータ・インターフェース、BMIとも)」を手がける中国スタートアップ「格式塔科技(Gestala)」がこのほど、エンジェルラウンドで1億5000万元(約35億円)を調達した。成都天府国際生物城発展集団傘下の国生資本および道彤投資(Dalton Venture)が共同で出資を主導し、清松資本(TsingSong Capital)やGobi Partners、AIロボット企業の傅利葉(Fourier)などが参加した。資金は主に、初代製品の開発と前期臨床試験に充てられる。
BMI関連の起業や投資が活発化するなか、非侵襲型の超音波BMI技術が新たな注目を集めている。2026年1月には、米OpenAIのサム・アルトマンCEOとカリフォルニア工科大学の研究者が共同設立したスタートアップ「Merge Labs」が、エンジェルラウンドでOpenAIなどから2億5000万ドル(約400億円)を調達して話題を呼んだ。超音波BMIは、開頭手術をすることなく脳深部領域に作用できるという特長から、業界では新たな成長領域として期待されている。
Gestalaは2025年1月、2人の連続起業家によって共同設立された。BMI企業・脳虎科技(NeuroXess)などの立ち上げに携わった彭雷氏と、ゲーム大手・盛大集団(Shanda Group)と天橋脳科学研究院の創業者として知られる陳天橋氏が共同創業者を務める。現在は約15人体制で運営している。
現在主流のBMI技術は大きく2つに分けられる。米Neuralinkなどが採用する「侵襲式」は、電極を脳組織に埋め込むことで高精度の脳波信号を取得できるが、開頭手術が必要になる。経頭蓋磁気刺激(TMS)などの「非侵襲式」は安全性が高いものの、空間分解能に限界があるため、脳深部領域に作用するのが難しい。Gestalaはこれらの課題を克服する「非侵襲・高精度・深部対応」の脳読み書きシステムの実現を目指す。
同社が採用する集束超音波による神経調節(ニューロモジュレーション)技術は、低強度の超音波を用いて神経細胞を傷つけることなく、熱・キャビテーション・機械的作用によってイオンチャネルを活性化し、脳の特定領域の興奮・抑制を制御する。到達深度は6〜7センチに及ぶため、パーキンソン病やうつ病に関連する視床・海馬などの深部領域にも作用が可能だ。また、また機能的超音波イメージングにより血流変化を検出して間接的に脳活動を読み取ることができ、1〜1.5秒程度の遅延はあるものの、リアルタイム性を必ずしも要しない臨床現場では十分な実用性を持つ。
臨床応用の最初の適用対象を「慢性疼痛管理」に定めた。これまでの研究で、45分間の超音波刺激によって疼痛スコアが約50%低下し、その効果が1〜2週間にわたって持続することが分かっている。その効果が1〜2週間持続することが確認されている。
今後はうつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)、依存症、アルツハイマー型認知症などの神経疾患へと適用対象を広げる計画だ。すでに復旦大学附属華山医院や四川大学華西医院、北京協和医院をはじめとする複数の中国トップクラスの総合病院と臨床研究に関する協力体制を築いている。
リハビリテーション医療の分野では今回の出資者であるFourierと連携し、神経的な意図に基づく「意図-実行-フィードバック」の閉ループ訓練システムの構築に取り組む。機械補助を中心とした従来型リハビリから、能動的な神経訓練モデルへの転換を目指す。
彭雷氏は、Merge Labsとは基本的な方向性は一致しているが、Gestalaはより「漸進的」なアプローチを選択したと説明する。第1段階で非侵襲的な神経調節による神経・精神疾患の治療、第2段階で調節と読み取りを組み合わせた閉ループシステムの確立、第3段階ではゲノム編集やタンパク質工学を活用した音響遺伝学(ソノジェネティクス)の導入により、システムの帯域幅と時空間分解能のさらなる向上を図る。
彭氏は、超音波BMIの分野で中国には一定の優位性があるとの考えを示し、その理由として臨床リソースの豊富さや臨床試験コストの低さ、整ったハイエンド製造サプライチェーン、政策支援などを挙げた。そのうえで、脳科学研究の本質は医療的価値の創出にあるとし、中米両国が基礎研究や医療機器開発で協力・補完し合うことがこの分野の長期的な発展につながると強調した。
*1元=約23円、1ドル=約159円で計算しています。
(翻訳・田村広子)