グリーン水素のコスト、8分の1に圧縮 中国新興の独自技術が普及の壁を打ち破る

世界的なエネルギーシフトが加速するなか、水を電気分解して製造する「グリーン水素」が、カーボンニュートラルとエネルギー安定供給を同時に実現する有力な手段として注目を集めている。この成長市場で急速に存在感を高めているのが、水素関連材料を手がける中国スタートアップの枡水科技(Shengshui Technology)だ。

2019年に安徽省合肥市で設立された同社は、プロトン交換膜(PEM)およびアニオン交換膜(AEM)による水電解に必要な触媒・プロトン交換膜・膜電極接合体(MEA)など主要材料と試験装置の開発・製造に注力する。国産化によるコスト削減を通じ、グリーン水素の大規模普及を後押しするのが狙いだ。

このほどシリーズAで1億元(約20億円)超の資金調達を完了した。蔚来資本(NIO Capital)が主導し、レノボ・キャピタル(聯想創投)、中安資本(Zhongan Capital)、合肥創新投が参加した。調達資金は大口受注への対応や新工場建設などに充てる。

コスト・性能の両立を独自技術で実現

創業者の王新磊博士によると、中国は年間約3600万トンの水素を使用する世界最大の水素消費国であり、その大半が化学工業や冶金分野で使われている。現在主流となっている石炭由来の「グレー水素」は、コストは低いものの大量の二酸化炭素(CO2)排出や環境負荷が問題となっている。これに対し、水を電気分解して生成するグリーン水素は、製造過程でCO2を排出しないため、真にクリーンなエネルギー源として期待されている。

PEM水電解装置では膜電極接合体(MEA)のコストが水素製造コスト全体に占める割合が大きい。枡水科技はコア技術の独自開発でこの課題に取り組んだ。

薄膜技術では、膜厚50マイクロメートル(μm)のMEAの量産をいち早く実現し、現在は25μmの超薄型MEAを開発中だ。薄膜化に伴う酸素中の水素濃度上昇や安定性低下の問題に対し、カソード電極への「水素遮断層」を世界で初めて採用して水素の透過を根本から防ぐとともに、アノード側の水素除去設計を組み合わせた。圧力差3メガパスカルの条件下でも酸素中の水素濃度を0.3%以下に抑え、電流効率97%以上、8500時間運転でも極めて低い劣化率を達成している。

触媒面では、コアシェル構造の低イリジウム触媒「SS-IrTi-4001」を開発し、高価な貴金属イリジウムの使用量を業界平均比30%以上削減、1平方センチあたり0.6ミリグラム以下に抑えた。

枡水科技の開発試験センター

王博士によると、独自開発した50㎛のMEAにより、PEM水素製造装置のコストは初期の1メガワット当たり約1000万元(約2億3000万円)から、117万7000元(約2700万円)へと大幅に低減したという。今後、25㎛の超薄型MEAが実用化されれば、コストはさらに70万元(約1600万円)まで下がる見込みだ。

貴金属の循環利用にも取り組んでいる。独自開発の回収技術で、PEM電解槽の残存価値は40~45%の高水準を維持しており、総保有コストのさらなる低減につながる。

生産・受注体制が急拡大

同社は合肥市に年産600キログラムの触媒生産ラインを、上海市臨港地区に年産4万平方メートルのMEA工場を構え、1ギガワット規模のプロジェクトにも対応可能な供給体制を整えている。国内外の数百社と提携しており、これまでにMEA4万枚以上を出荷した。

2025年の売上高は1億元(約20億円)に迫り、今後2年間は受注が継続的に倍増していく見通しだ。26年には、顧客と共同で数十メガワット規模の水素製造工場の立ち上げを予定しており、グリーン水素の輸出価格のさらなる引き下げが期待できる。また、シンガポールに設置した国際事業センターも稼働しており、グローバル展開も積極化する方針だという。

*1元=約23円で計算しています。

(翻訳・畠中裕子)

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