シャオミ雷軍氏支配の4社目企業が米上場、サービス差異化でクラウド大手に比肩する「金山雲」

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米国時間の5月8日、「金山雲(Kingsoft Cloud)」が米ナスダックへの上場を果たした。ティッカーコードは「KC」、発行価額は1ADR(米国預託証券)あたり17ドル(約1820円)、総調達額は5億1000万ドル(約550億円)に上った。

金山雲の董事長で中国スマホ大手「シャオミ」CEOも務める雷軍氏は、金山雲の上場に関し、かつては最悪のシナリオも想定していたと明かした。「実を言えば、新型肺炎の流行以降、上場は絶対にだめになると思っていた。上場まで非常に不安で落ち着かない日々を過ごした」

金山雲の王育林CEOは、中国概念株をめぐる一連の不祥事以降、ファンドや投資銀行からの圧力を顕著に感じており、彼らがリスクコントロールにより慎重になっていると率直に述べている。

だが、当日の金山雲株の終値は23.84ドル(約2560円)、時価総額は47億7400万ドル(約5100億円)に達した。

どこから見ても、現在は中国企業が米国で上場するのに最適なタイミングとはいえない。1月下旬に始まった新型肺炎の流行を受け、上場前のロードショーのスケジュールが乱されただけでなく、米国市場に上場済みの中国概念株の市場パフォーマンスにも影響が生じている。米投資金融情報専門誌「バロンズ」中国語版が1月23日~3月19日のデータを統計したところ、米国に上場する中国概念株の全時価総額は23.49%、金額にして4084億4700万ドル(約43兆7900億円)も目減りしたことが分かった。

新興コーヒーチェーン「瑞幸珈琲(luckin coffee)」の不正会計の影響を受け、今もなお中国概念株に対する信頼度が揺らいでいる。米国証券取引委員会(SEC)のジェイ・クレイトン委員長は4月下旬、米国に上場する中国企業の株式に投資することは勧められないとメディアの取材に答えている。

だがこうした状況においても、雷軍氏と王氏が投資家と大まかに意見を交わしたところ、市場の反応が依然として大きいことを知ったためIPOの推進を決定した。

王氏はその理由として、金山雲の財務データの透明性を挙げている。金山雲は独立上場間もない企業であるとはいえ、これまで香港上場企業である「金山軟件(キングソフト)」の連結子会社であったため、長年の財務データが香港証券取引所に公開されており、コンプライアンス上の条件も整っている。

金山雲が米国での上場を選んだ理由の一つは、米国資本市場が売上規模を重視する傾向にあることだろう。アマゾンAWS(Amazon Web Services)の発祥地である米国市場において、クラウドコンピューティングはすでにイノベーティブな事業ではなくなっている。

「米国でのロードショーの際、投資家がクラウドコンピューティングについて非常に良く理解していることが分かった。アマゾンAWSやマイクロソフトクラウドは米国発祥である上に中国の10倍の売上規模がある。そのため高いプロフェッショナル性を持つアナリストや投資家が同分野に注目している」

金山雲が発表した公式データによれば、今回260名の投資家が注文を行い、最終的に予想発行数を2割上回る3000万株を発行したという。

10億ドルでクラウド業界に賭けた雷軍氏

金山雲の上場により、雷軍氏が実質的支配権を有する上場企業は金山軟件、シャオミ(小米)、金山弁公軟件(Kingsoft Office Software)に続き4社となった。上場セレモニー前の動画では、雷軍氏が2014年に「10億ドル(約1070億円)を金山雲に投資する」と豪語する様子が繰り返し放映されていた。

今回の上場で、雷軍氏の8年前の賭けが正しかったことがある意味証明された。

中国国内では当初、クラウドコンピューティング事業の発展性を疑問視する声が多かった。雷軍氏は上場当日36Krなどのメディアに対して、金山軟件が2012年に金山雲事業のインキュベートを決定した際、当時の投資家から反対を受けたと語っている。「当時、国内ではアリババクラウドしか先例がなく、大手他社はクラウド事業を有望視しておらず、投資するにはまだ5~10年早いと考えていた」

金山雲の上場当日、36Krなどのメディアの取材を受ける董事長の雷軍氏と王育林CEO(右) 撮影:蘇建勲

金山雲の売上高を見ると、2017年に12億3600万元(約190億円)、2018年に22億1800万元(約330億円)、2019年に39億5600万元(約600億円)となっており、3年間で平均成長率79%を達成している。とはいえ、売上総利益は2019年にようやくプラスに転じたばかりだ。

データ提供:金山雲の目論見書

このほか、売上高の質に注目すると、金山雲と支配株主である金山軟件およびシャオミとの間には、一定比率の関連取引が存在する。目論見書のデータによれば、2017~2019年の金山集団と関連する売上高の割合は全体の3%前後となっているほか、シャオミと関連する売上高の割合も27~14.4%の間で推移している。

金山雲も目論見書のリスク提示において、同社が今後、金山集団およびシャオミ系列企業との提携から収益が得られなくなった場合、同社の事業に影響が及ぶと率直に述べている。

「中国国内でのA株上場を選択した場合、利益や関連取引といった問題に関するやり取りが長期に及ぶ可能性があったため、金山雲にとっては米国での上場がより適切だったのだろう」。クラウドコンピューティング分野のある投資家はこう語っている。

クラウドサービスの差異化で勝負

今年2月に「優刻得科技(U Cloud)」が中国版ナスダックと呼ばれる「科創板」に上場し、クラウドコンピューティング業界では中国初の上場企業となったのに続き、金山雲は米国市場において唯一、単独事業としてクラウドサービスを手掛ける中国企業となった。

金山雲の上場をモーメンツ上で祝うU Cloudの創業者・季昕華氏

金山雲の成長の過程を振り返ると、「差異化」が重要な特性となっている。

2012年創業の同社に対し、アリババクラウドは2009年にすでに事業を試験的に開始していた。「新参者」の金山雲がまず考えるべきは大手企業との生存競争を生き残ることであり、いかにアリババとの差異化路線を進むかが、同社の設立当初からの大きな戦略となったのだ。

ニッチ業界への特化は金山雲の戦略のひとつだ。同社はゲーム分野においてテンセントクラウドに匹敵するようになり、それ以降「完美世界(PERFECT WORLD)」や「西山居(Seasun Entertainment)」などをクライアントとして抱えるようになった。さらに動画分野では「ビリビリ動画(bilibili)」や「愛奇芸(iQIYI)」などのライブ配信・短編動画アプリのシェア9割以上を獲得している。36Krの調べによると、ニュースアプリ「今日頭条(Toutiao)」のパブリッククラウド利用における金山雲のシェアはアリババクラウドに迫る勢いになっているほか、「快手(Kuaishou、海外版はKwai)」にもクラウドサービスを提供している。

「大規模な市場では大手にかなわない。私はいくつかの重要な業界にアドバンテージを集中させることをずっと重視してきた。参入する業界は少なくても良い、肝心なのは各業界でどの位置にいるかだ」と雷軍氏は述べている。

競争は戦略に関わるものだが、より長期的な収益性という点では、中国のクラウドサービス分野はまだ天井に達していない。

雷軍氏もU Cloudの季昕華氏も、中国のクラウドコンピューティング市場は初期段階にあり、1000億元(約1兆5000億円)規模の成長ポテンシャルを内に秘めていると断定する。雷軍氏は、金山雲の上場後は売上高を10倍に伸ばすことが目下の急務であり、「そうしなければ市場での適切なポジションは獲得できない」と端的に語っている。
(翻訳・神部明果)

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