不動産大手の万科が介護事業を再編 「黒字化当面難しい」

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未来のビジネス

中国全国老齢委員会の調査によれば、中国の高齢者介護市場は、2030年に10兆元(約150兆円)を超えるという。2017年末の時点で、中国の60才以上の人口は2億4090万人で、総人口の17.3%を占め、65才以上は1億5831万人で、同11.4%を占めている。

こうした背景のもと、不動産大手の「万科(vanke)」は2013年から、介護産業に着目した戦略を打ち出してきた。

万科の副総裁兼北京エリアCEOの劉肖氏は、介護事業を「狭き門の一大ビジネス」と喩えている。しかし、この業界の黄金時代はまだ到来しておらず、大きなビジネスとしての価値が見えていない状態だ。

北京万科の介護事業は、再編を経て今は2つのブランドで運営されている。専門的な介護サービスを提供する「怡園」と、細やかな隣人関係の構築を目指す「随園」だ。既存の「嘉園」ブランドは随園と合併し、随園傘下の認知症を専門とする事業部になった。

どのように「いいビジネス」にするか

万科は数年間の模索を経て、2つのモデルに絞ることにした。一つは都市型の介護専門施設で、要介護または認知症の高齢者が対象だ。この客層は介護、リハビリ、医療への需要が中心で、レジャー、娯楽のニーズは少ない。もう一つは「CCRC(Continuing Care Retirement Community、継続的ケア付き高齢者共同体)」と呼ばれるもので、生活の自立を前提とした介護、介助をワンストップ型で提供するコミュニティだ。

北京万科のパートナーであり、「北京万科養老管理公司」の総経理である張銀氏によると、中国の介護業界はまだ混乱した状態で、土地だけを入手したい業者、不動産販売だけを扱いたい業者、ビジネスモデルを確立させたい業者など、皆が模索段階にあるという。そのため、張銀氏は、現段階の万科はまずサービス提供者としての「能力」を鍛えることを目的としており、能力を身につけることが、展開する施設の数よりも重要だと話す。

介護は不動産ではない

土地開発や資金面で強みがあるため、介護に乗り出す不動産企業は多い。しかし、張銀氏は、介護と不動産の隔たりは、予想よりも大きいと考えている。

介護は医療、食事、暮らし、娯楽、介助、ホテルなどが集約したもので、複数の業種からなる総合的サービスだ。すべてのサービスを行えるようになって初めて、自社内で介護事業を完遂できるという。

そのため、万科は企業体系の革新を行い、専門職の大半を総合職に変え、高齢者にどのような問題があっても、同じスタッフが対処できるワンストップ型のサービスを提供している。

万科はまた、営業とサービスの担当者を同じスタッフにするようにもした。「入居した高齢者は、サービスを提供してくれるスタッフが入居前の営業担当者だと気付くと、安心する」と、張銀氏は話す。「営業をするということは、実はサービスを提供しているのと同じ」だという。

サービスの境界線はどこか

張銀氏によると、介護は際限なくサービスを提供しがちだという。しかし、彼は「介護施設がまず提供すべきは専門的なサービスで、家族の代わりになることではない。高齢者の子供代わりになることは不可能で、感情はあくまで特定の個人に帰着する。これを標準化したり、客観的に評価したりすることも難しい。そのため、まずは『プロの介護スタッフ』になることが大事だ」と話す。

介護は労働集約型産業であり、スタッフが変われば、サービスの質にばらつきが出る可能性がある。そのため、万科は情報システムを立ち上げ、入居する高齢者の趣味、病歴、生活習慣などをいつでも検索できるようにした。こうすることで、スタッフが変わったり、入居する施設が変わったりしても、業務の引き継ぎが円滑に行われ、スタッフと高齢者の信頼関係の構築も速くなるという。

介護施設で働く「90後」

上述の情報システムの立ち上げを推進したのは、90後(1990年代生まれ)の趙婷婷さんだ。彼女はもともと庭園設計を勉強していたのだが、今は北京万科養老公司のマーケティング・ディレクターだ。

この「V-care」と呼ばれるシステムは、現在バージョン3.0に更新され、夜間巡視機能の改善、モバイル端末からの呼び出し、家族の呼び出しなどの機能が追加されている。システムによって、北京万科はサービスを8種の大きなカテゴリーに分け、その下に165の細分化された項目を設け、今もその項目を増やし続けている。

北京の随園施設の管理職のうち、80後(1980年代生まれ)は2人しかおらず、ほかはすべて90後だ。フラットな組織や総合職のほうが、若者により適していると万科は考えている。

とはいえ、この業界の若者の離職率は依然として高い。彼らはより先が見通せるキャリアパスを望み、将来の成長を重要視するからだ。

そこで、張銀氏はどのように次の施設や事業を早期展開するかを常に考えているという。新規施設や事業があれば、現在のポストで鍛えられた人材を引き止めることができるためだ。また、今までに培ったノウハウを実践し、修正していくためには新規施設が必要だ。

万科は介護の利用者を60-70代と考えていたが、実際に運営してみると、80-90代が主流ということがわかった。「今、施設に入居するのは、改革開放後最初に豊かになった人たちで、まだ人口のボリュームゾーンとはいえない。その意味で、この産業の中心となる顧客層はまだ対象年齢に達していない」と、張銀氏は話す。そのため、今の介護産業はまだ十分な収益が見通せず、ビジネスモデルを確立させてから、市場の成熟を待つしかないのだという。
(翻訳:小六)

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