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中国大手の動画共有プラットフォーム・抖音(Douyin)の越境電子商取引(EC)事業「抖音電商全球購(Douyin EC Global)」は7月30日に、東京都内でセミナーを開催した。同社の事業責任者のほか、このプラットフォームで化粧品などの対中越境ECで実績を挙げた日本企業の経営者らが登壇し、約300人の聴衆と中国消費市場の最新トレンドを共有した。
「越境ECのカギ、『商品』から『体験』の新時代へ 変化する中国消費市場のトレンドを掴むセミナー」と題したこのイベントではまず、ECに特化したデータ解析会社Nint(ニント)経営戦略室の堀井良威氏が登壇し、今年5月下旬から6月18日にかけて行われた「618」セールについて解説した。618は中国のEC業界において、11月の「双11(ダブルイレブン)」と並ぶ二大の大型セールとして定着している。
堀井氏は618セールに参加した日本の1000ブランドを対象としたビッグデータ分析に基づき、今年は①日本製品の(2023年8月に始まった福島第1原子力発電所の)処理水放出に伴う買い控えは一巡した②売れ筋商品が高価格帯と低価格帯に二極化する「K型」消費が顕著だった――などの傾向があったと説明。対中越境ECのプラットフォームは複数あるものの、歯磨き粉や日焼け止めクリームを例に「抖音(Douyin)は上位ブランドの市場シェアが低く、入れ替わりも激しい。新規参入を目指す日本ブランドにとって最も適切な選択肢だ」と指摘した。
続いて、シャンプーや美容家電のカテゴリで多くのヒットブランドを輩出した新興企業I-ne(アイエヌイー)の井垣純・上海支社董事長兼総経理が登壇した。I-neは21年9月に日本市場で発売したヘアケアブランド「YOLU(ヨル)」のシャンプー販売などが好調だ。睡眠中の乾燥ダメージなどから髪を守る「夜間美容」のコンセプトで人気を集めており、23年3月に抖音(Douyin)で越境ECの旗艦店を開設して中国市場への拡販を進めている。
井垣氏は抖音(Douyin)を選んだ理由について「伝統的な越境ECと異なり、ショート動画やライブコマースを利用すれば広告からPR、購入まで一貫して消費者を誘導できる」ためだと語った。商品戦略では、日本の売れ筋をそのまま持ち込むことはせず、中国市場で髪のダメージケアに対する潜在ニーズが大きいことを見定めて、シャンプーの発売を決めた経緯を紹介した。中国の消費者はYOLUという横文字のブランド名になじみが薄いため、この商品に「晩安洗髪水(日本語でおやすみシャンプー)」という愛称をつけたことも明らかにした。
セミナーの中盤には、抖音電商全球購(Douyin EC Global)の責任者2人が登壇した。グローバル事業開発&セラーオペレーション責任者のSarah氏がまず、「Insider Intelligence」レポートを引用し、中国全体の越境ECによる輸入が22年実績で5600億元(約11兆2000億円、1元=約20円で換算)と17年の約10倍に急増したとの統計を解説した。さらに、当面は消費者基盤の拡大や越境ECに有利な政策の実施で市場の拡大が続き、25年には1兆3200億元(約26兆4000億円、同)に達するとの見通しを示すデータについても取り上げた。
Sarah氏はまた、20年6月に運営を始めた抖音(Douyin)のECプラットフォームがライブコマースなどの活用で「中国の消費習慣を革命的に変えた」と強調。従来型のECと異なり、抖音EC(Douyin EC)は売り手のライブコマースなどによる推薦が買い手の意欲を直接刺激し、短時間での購入決定につながると説明した。こうした特徴が受け、同プラットフォームの22年5月から23年4月まで1年間の流通取引総額(GMV)が前年比で80%も伸びたことを公表した。
続いて、日本市場の責任者であるシニア事業開発ディレクターの黄益(Huang Yi)氏が抖音商城全球購(Douyin EC Global)の概要を解説した。このプラットフォームを使う消費者の居住地は北京、上海など沿岸部の巨大都市「一線都市」が23%、それらに次ぐ四川省成都などの大都市群「新一線都市」が24%を占めていると指摘。世帯月収は2万~2万9999元(約40万~約60万円、1元=約20円で換算)と高めな層の比率が全体の38%と最も高く、「海外ブランドを信頼して購入する人が多い」と述べた。
黄氏はさらに、出店する際の料金体系について、一定の保証金や成約時の販売手数料(2~6%)は必要になるものの、年間使用料などの固定費はかからないと強調した。日本ブランドを主力商品として販売実績を持つ店舗数が600を超えたこと、日本ブランドと協力実績のある中国人インフルエンサーが24年に入って増加に転じたことなど運営の近況も説明し、新たな出店を呼びかけた。
セミナーの後半には、美顔器を手掛ける資生堂子会社エフェクティムの小柳康祐社長が登壇した。資生堂幹部として中国の上海・杭州に駐在し、対中越境ECの最前線に立った経験をもとに、新規参入を目指す企業には「越境ECの目的を明確にすること」が欠かせないと訴えた。理由として、「現地でのテスト販売」「本社の在庫削減」など越境ECの目的に応じ、協力すべきパートナーが変わる点を指摘した。
具体例として資生堂グループが23年、抖音EC(Douyin EC)のほか著名な在日インフルエンサー夫婦の「王炸夫妻在日本(ワンジャー夫妻)」と共同で、ライブコマースを行った事例を挙げた。目的は新型コロナウイルス禍で訪日できなかった中国の消費者が資生堂ブランドへの関心を失う事態を防ぐことだった。この夫婦が東京・銀座にある資生堂の総合美容施設「SHISEIDO THE STORE」を舞台にライブコマースを8時間行い、1億円を超える売り上げを記録したと語った。
セミナーでは最後に、抖音EC(Douyin EC)に「大阪周」というアカウントを開設し、在日クリエーターとして活動している周鉑涵氏が登壇した。周氏はかつて従事していた訪日中国人対象のビジネスがコロナ禍で激減し、抖音EC(Douyin EC)に商機を求めた。当初は試行錯誤したものの、日本の居酒屋を紹介するショート動画がバズり、現在は日本酒ライブコマースでトップスリーに入る人気者となった歩みを振り返った。
セミナー会場の後方では、対中越境ECを手掛ける代理店など9社が商談ブースを設けた。セミナー終了後には講師らもブースに立ち寄り、集まった聴衆らと名刺やチャットアプリのアカウントを交換。中国の消費市場の最新動向について活発に意見を交わし、新たな商機を探っていた。
(文:36Kr Japan編集部)
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