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大手自動車メーカーとされるおおよそ全ての企業が「電動化」へ大きく舵を切っている。これに対し、トヨタ自動車の豊田章男社長は不満を禁じえないようだ。
今月17日、豊田氏は日本自動車工業会の会長として記者会見を行い、自動車業界で過度なEV(電気自動車)化を進めると環境への配慮としては逆効果になり、EVの製造台数が増えれば増えるほどCO2排出問題は深刻化するとの趣旨の発言をした。
この発言は少なからぬ議論を巻き起こしている。中国の新興EVメーカー「小鵬汽車(Xpeng Motors)」の何小鵬CEOは21日、中国版ツイッター微博(Weibo)で「ノキアがマイクロソフトに買収された一件を想起させる」と綴り、暗にトヨタをかつてのノキアになぞらえている。
豊田氏はなぜEV化に後ろ向きなのか?このままではトヨタは「自動車界のノキア」になりはしないか?
安易にガソリン車をなくすべきではない
豊田氏によると、EV化を主導する人々は、発電に伴うCO2の排出や、EV化にかかるコストの問題を見落としているという。
同氏は一例として、日本の電力は主に火力発電によってまかなわれているが、もし国内の全ての自動車がEVになれば、電力使用のピークとなる夏季には電力不足となってしまうとした。充電インフラの整備にも14兆〜37兆円が必要だと指摘している。
こうした発言は、日本政府が打ち出した「脱ガソリン車」政策に対するものだ。
経産省は今月、2030年代半ばまでに日本国内で販売される新車についてガソリン車を禁止し、全面的にハイブリッドカーやBEV(純電気自動車)に転換していく方針を発表した。これにより自動車からのCO2排出量を大幅に減らし、2050年までには温室効果ガスをゼロにする「カーボン・ニュートラル」を達成するとしている。
なお、トヨタは今年7月1日、自動車メーカーで時価総額世界一の座を米テスラに明け渡した。テスラはEV業界の牽引役だ。今月21日時点でその時価総額は6587億9100万ドル(約68兆2000億円)でトヨタの2.66倍となっており、世界の九大自動車メーカーの時価総額の総額をも超えている。
迷えば負けにつながる
テスラのような新興企業が時価総額で老舗企業に勝ったことは一つの縮図といえる。ガソリン車で身を立てた既存メーカーも、将来の方向性として明確にEV化を掲げることになるということだ。
独フォルクスワーゲングループは11月、EVや自動運転などの次世代技術に関する投資を730億ユーロ(約9兆2300億円)にまで増額すると発表した。続く12月には独アウディも追随。2021年〜2025年の期間に350億ユーロ(約4兆4200億円)を投じてネットワーク化を推進し、持続可能かつ高水準のモビリティーサービスのプロバイダーに転身していくと発表した。独ダイムラーも同じく、主に電動化やデジタル化に向け、2021年〜2025年の期間に700億ユーロ(約8兆8500億円)を投じていくという。
また、独BMWと中国の華晨中国汽車(Brilliance)の合弁企業「BMW Brilliance Automotive」は先日、BEVに特化したプラットフォームを発表。韓国のヒュンダイは今月、EVに使用する新プラットフォーム「E-GMP」を発表した。
このタイミングでトヨタが電動化に舵を切っても決して遅くはない。ただ、同社の戦略はハイブリッドカー(HV)、BEV、燃料電池車(FCV)の3つの間を揺れ動いている状態だ。2016年には豊田社長直轄のEV事業企画室を立ち上げているが、BEVの新プラットフォーム「t-TNGA」を正式発表したのはようやく今月になってのことだ。
こうしたトヨタの優柔不断さは、マイクロソフトに買収された往年のノキアを彷彿とさせるものだ。
自動車産業も当時の携帯電話産業と同様、核心的な転換点に差し掛かっている。ただトヨタはノキアとは異なり、時代の変化を認識していないわけではない。
EV事業企画室を立ち上げた際、豊田氏は「『勝つか負けるか』ではなく、『生きるか死ぬか』という瀬戸際の戦いだ」と述べていた。彼は知っていたに違いない。これからのライバルは自動車メーカーのみにとどまらず、グーグルやアップル、フェイスブックといったテックジャイアントも含まれるということを。
(翻訳・愛玉)
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