国家並みの資産を誇るアップル、控えめな買収戦略の背後にあるロジックとは(二)

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国家並みの資産を誇るアップル、控えめな買収戦略の背後にあるロジックとは(二)

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アップルの時価総額は2兆ドル(約210兆円)に上り、国別GDPランキングに当てはめればイタリアとブラジルに挟まれた第9位に相当する。時価総額は市場価格の指標だが、現金及び現金同等物からは会社が実際に動かせる資金量が分かる。最新の財務諸表によると、アップルの現金及び現金同等物は1909億ドル(約19兆8000億円)で、国別GDPランキングの第56位に相当する。

アップルが保有する資産は国家に匹敵すると言っても過言ではない。ところが他の大手テック企業と異なり、アップルは豊富な資金があるにも関わらず、これまで大規模な買収を行わなかった。その控えめな買収戦略にはどのようなロジックがあるのだろうか。アップルの買収戦略に見られる3つの特徴を以下に挙げる。

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国家並みの資産を誇るアップル、控えめな買収戦略の背後にあるロジックとは(一)

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次にアップルの控えめな買収戦略の背後にある3つのポイントを見てみよう。

反トラストの可能性を緩和する

クックCEOは2020年7月、米メディア「CNBC」に対して「大型テック企業に対する米下院の反トラスト調査を細かく見れば、対象企業が近年行った買収事例を調べているのが分かる。アップルはライバル企業ではなく、先端の知的財産権を有する企業を買収しているため不正な事例はない」と話した。

クックCEOが言った通り、同年10月9日に米下院司法委員会は、米四大テック企業のアップル、アマゾン、グーグル、フェイスブックを対象に16カ月間行った反トラスト調査リポートを発表した。

リポートの結果は非常に興味深く、グーグル、フェイスブック、アマゾンについては「致命的な買収」でライバル企業にプレッシャーをかけたことが調査の焦点となった。

アップルはソフトウエア使用料の徴収が問題視された。iOSの優越的地位を盾にApp Storeのダウンロード料とアプリ内購入代金の30%を手数料として課し、競争相手を排除しようとしていると指摘された。

「買収によってライバル企業にプレッシャーをかける」という反トラストの可能性を緩和するため、アップルの買収戦略が控えめになるのは当然だ。

ハードウエアメーカーに大規模買収は不要

ハードウエアメーカーという点もアップルが積極的にライバル企業を買収しない大きなポイントとなっている。

先にソフトウエアおよびIT業界の買収ロジックを分析する。「Instagram」買収には10億ドル(約1000億円)しか投じなかったフェイスブックは、なぜ190億ドル(約1兆9700億円)も使ってWhatsAppを買収したのか。

そこにはWhatsAppを買収しなければ強者がより強くなるというマタイ効果が作用し、フェイスブックはIT業界の競争から脱落、「Facebook Messenger」のシェアも最終的にWhatAppに奪われる可能性があった。この競争に敗れた場合の損失が190億ドル(約1兆9700億円)を超えると試算し、SNS大手としてフェイスブックは買収を選んだ。

一方のアップルが属するハードウエア業界ではソフトウエアと異なりマタイ効果が強くない。ハードウエア製品は乗り換えコストが低く、ネットワーク効果も弱いため、先行者メリットはそれほど大きくない。

ハードウエアにはライフサイクルがあり、新製品に満足できないユーザーは低コストで他社製品に乗り換えられる。製品の人気を維持するには十分な魅力を保たなければならず、ソフトウエアやアプリと異なり、シェアを握れば安泰というわけではない。

そのため、シェア拡大を狙ってハードウエアメーカーを買収する意義は小さい。そもそも買収先の製品と自社製品が異なるためネットワーク効果が上がらず、スケールメリットも小さい。トップを走るには技術とユーザー体験がカギとなる。

この点を踏まえてアップルは、優れた技術の買収で製品の競争力を高める戦略を取っている。

自社製品を定義する能力

自社製品を定義するというアップルの独特な能力が大きな競争力を生み出している。

設立40年を超えるアップルの歴史を振り返ると、製品を最初に開発した事例は極めて少なく、先端技術を組み合わせてiPod、iPhone、iPad、AirPods、Apple Watchといった最高のユーザー体験をもたらす製品を開発してきた。

今やアップルが未来を定義する特別な能力を持っていると認めざるを得ない。アップルが製品をリリースすると、多くのユーザーは製品の欠点に目を向ける。ところが、こうした懸念は時間と共に自然と消えていく上、他社製品も次第にアップル製品へ近づくようになる。これがアップルの未来を定義する能力だ。

こうして見ると、アップルがシェア拡大のためにライバル企業を買収しようとしない理由が分かる。アップルはハードウエア製品のユーザーを最も理解している企業だという自負を持っているように思われる。

では、なぜヘッドホンのビーツを買収したのか。ビーツの製品が目当てだったのか。

そうではない。アップルはビーツの音楽エコシステムに目を付けた。ビーツ創業者のジミー・アイオヴィン氏は、音楽業界のカリスマ音楽プロデューサーとして広い影響力と人脈を持っていた上、若者に対する同社の発信力はアップルの音楽エコシステムにとって大きな魅力だった。

ビーツがアップルに買収される前から音楽ストリーミングサービス「Beats Music」を提供していたことから分かるとおり、アップルの目的は買収によってヘッドホンを売ることではなかった。実際にBeats XのチップにはAirPodsと同じものが使われ、AirPods Maxの製品力も明らかにBeats Studioを上回っている。

真の目的は「Apple Music」という戦略的エコシステムの構築だった。

控えめな買収戦略は今後も通用するのか

アップルの買収戦略がこれまでは非常に有効だったと証明されたが、アップルの境遇には少しずつ変化が起きている。最大の変化は、iPhoneに代表されるハードウエア製品の売り上げと利益の業績貢献度が下がり、ハードウエアのみで売上高を伸ばすことが難しくなった点だ。その一方で業績向上が求められる中、アップルはここ数年、ソフトウエアやサービス、IT製品へ戦略の重心を移しつつある。

それが明確に示されたのは2019年3月26日の発表会だった。アップルは初めてハードウエア製品を一つも発表することなく、ニュース配信の「Apple News」、ゲームサブスクリプションの「Apple Arcade」、クレジットカードの「Apple Card」、動画配信の「Apple TV+」という4つのサービスをまとめてリリースした。

ハードウエア部門が減速し、成長の重心がソフトウエアとITサービスに移っているのは間違いない。アップルの戦場は変わった。新しい戦場には新しいルールがあるため、自社製品を定義し、ユーザーを最も理解するハードウエアメーカーという強みが通用しなくなった。

Apple TV+とApple Musicに代表されるコンテンツ製品においてアップルは経験が乏しく、ストリーミングメディアと音楽の分野には「Netflix」「Spotify」という強烈なライバルがいる。

2017年にはNetflixかディズニーを買収し、コンテンツ業界の先進的地位をつかむべきという声もあったが、当時のアップルは興味を示さなかった。

現在、Netflixとディズニーの時価総額はそれぞれ2100億ドル(約21兆8000億円)、2600億ドル(約27兆円)に上り、国家に匹敵すると言われるアップルでもこの巨大企業を一気に飲み込むことは困難だ。

新しい戦場でもアップルの控えめな買収戦略は引き続き効果を発揮するだろうか。答えが出るまでには時間を要するだろう。

作者:衛夕指北(WeChat ID:weixizhibei)

(翻訳・神戸三四郎)

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