2020年だけで11社もIPO セコイア・キャピタル、中国の消費者ビジネス投資に成功し続ける理由(一)

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2020年だけで11社もIPO セコイア・キャピタル、中国の消費者ビジネス投資に成功し続ける理由(一)

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世界的なベンチャーキャピタル「セコイア・キャピタル」の中国法人「セコイア・キャピタル・チャイナ(紅杉資本中国基金)」は、短・中・長期的視点での投資をアーリー・ミドル・レイトステージの企業に対して行ってきた。TMT(テクノロジー・メディア・通信)やコアテクノロジーに関係する企業への投資で評価されるが、その実力は消費者ビジネス(BtoC)分野でも発揮されてきた。

同社は2005年の設立当初から消費者ビジネスを戦略上の四大分野の一つに位置付けてきた。ここ2年間の投資額は平均100億元(約1600億円)に達している。これまで続けてきた長期投資の成果も出始め、昨年は同分野で11社をIPOに導いた。

内訳は、宅配大手「達達集団(Dada Group)」、スナックメーカー「甘源食品(GanYuan Foods)」、オンライン不動産取引プラットフォーム「貝殻找房(KE Holdings)」、EVメーカー「小鵬汽車(Xpeng)」、女性&ベビー用品ブランド「全棉時代(Purcotton)」を抱える医療用品メーカー「穏健医療(Winner Medical)」、セラミックタイル大手「東鵬控股(DongPeng Holdings)」、 不動産開発の「世茂服務(Shimao Services )」と「恒大物業集団( Evergrande Property Services Group)」、オンライン医療プラットフォーム「京東健康(JD Health)」、アートトイブランドの「POP MART(ポップマート)」、厨房機器の「火星人集成竃(Marssenger)」。

セコイア・キャピタル・チャイナは時代を読んだ投資を意識し、変化を続ける消費者ビジネスに合わせて投資先の業種を変化させてきた。オフラインビジネスが盛んだった時代には、ファーストフードチェーン「郷村基集団(CSC)」や映画配給大手「博納影業集団(Bona Film Group)」、映画館チェーン「万達電影(Wanda Film)」に投資。電子商取引(EC)が盛んになると「美団(Meituan)」や「京東(JD.com)」、アリババ、「拼多多(Pinduoduo)」、「唯品会(VIP.com)」を投資先とした。ECプラットフォームがインフラを必要とするとみると、物流企業の「中通快逓(ZTO Express)」、「京東物流(JD Logistics)」、「貨拉拉(Lalamove)」にも投資した。

近年は新興ブランドに注目し、ティードリンクの「喜茶(HEYTEA)」、アートトイのPOP MART、越境ECに特化したファストファッションブランド「SHEIN(シーイン)」などに投資している。さらに今年に入ってからは、初の国際的なM&Aとして仏デザイナーブランド「アミ・アレクサンドル・マテュッシ(AMI ALEXANDRE MATTIUSSI)」への戦略投資を行っている。

新興ブランドの発掘から投資決定まで

セコイア・キャピタル・チャイナは2019年、新興ブランドだったSHEINに投資した。

これに先立つ2016年、同社の消費者ビジネス部門はすでにに対する分析を進めていた。越境ECの取引額が年間10億元(約160億円)を超える企業が出現し始めた当時の状況を受け、業界の動向やサプライチェーンを構成する各企業の相関関係などを分析し、業界マップを作成した結果、SHEINがZaraやH&Mにも対抗できるドメスティックブランドだと判断したのだ。

翌2017年には中国最大の生地市場として知られる広東省広州市の中大布匹市場で現地調査を行い、SHEINが優良企業であることを確認した。創業者の許仰天CEOとの面談を果たすには数カ月を要したが、粘り強いアプローチが実を結んだ。

当時のSHEINはネット上にも情報がほとんどなく、大部分の中国の投資家にとって実態不明な企業だったため、セコイア・キャピタル・チャイナが重視する業界マップと現地調査を複合した企業分析の手法が効果を発揮する事例となった。

優良新興企業への投資は時間をかけて

セコイア・キャピタル・チャイナがHEYTEA(当時の名称は「皇茶(ROYALTEA)」)を発掘したのは2015年。孫謙パートナーが創業者の聶雲宸氏に投資を持ちかけると、10億元(約160億円)を提示された。孫氏は「高すぎる」と考えた。すでに大人気のティースタンドではあったが、一過性のブームであることも懸念された。従来の消費者ビジネスへの投資では事業が成熟するのを待つのが一般的だったため、HEYTEAへの投資は時期尚早だと判断した。だが、程なくしてHEYTEAはシリーズAでの資金調達を果たした。評価額は5億元(約80億円)だった。

消費者ビジネス分野のベンチャーキャピタル市場は内密かつ急速に変化する。慎重な検討を進める姿勢が原因で、セコイア・キャピタル・チャイナは創業初期のHEYTEAやポップマートへの投資参入を逃している。

同社消費者ビジネス部門は2017年頃、反省と検討を繰り返し、新興ブランドに対する分析方法を見直した結果、新時代のファクターを発見した。マーケティングと販売にはイノベーションが起こり、有名ブランドにこだわらないZ世代(1990年代中盤以降に生まれた若者)が登場し、設立間もないブランドを急速に成長させていた。業界地図の分析による投資戦略策定に間違いはないが、地図の更新が必要だと判断した。

方針が決まると、彼らはすぐに前述の2社への投資をスタートした。現在、ポップマートの企業価値は約1000億元(約1兆6000億円)、HEYTEAの評価額は約160億元(約2600億円)に伸びており、さらなる成長が見込まれる。

初期の戦略ミスを後になって挽回したケースは他にもある。ニュースアプリ「今日頭条(Toutiao)」への投資ではシリーズBを見送ったものの、シリーズC以降ではリードインベスターを務めた。親会社の「バイトダンス(北京字節跳動科技)」の企業価値は現在、1800億ドル(約18兆7000億円)となっており、結果的には成功を収めている。

企業の成長を見据えた投資戦略の決定はセコイア・キャピタル・チャイナを支えてきた。孫氏も「本当に良い投資プロジェクトならば、最初は機会を逃したとしても、投資先の企業が成長する中で必ずパートナーシップを結ぶことになる」と述べている。

企業とパートナーシップを結ぶ秘訣は、セコイア・キャピタル・チャイナの専門性と誠実さにある。消費者部門が専門チームを組んでHEYTEAの人事面などをサポートした結果、同社が資金調達を再開した際、創業者の聶氏は真っ先にセコイア・キャピタル・チャイナに声を掛けたという。

セコイア・キャピタル・チャイナは新興ブランドの付加価値作りにも参画してきた。大局的な視点に立ち、ビジネスモデルの指導やリソース面でのサポートを提供することで信頼を勝ち取っている。

SHEINの許CEOもセコイア・キャピタル・チャイナからの資金調達後、担当者の鄒氏を評し「彼女はECのビジネスモデルやロジックに対して最も体系的な思考を持ち、詳細なデータを把握している。決定に迷う事項があれば、常に信頼できるアドバイスで解決に導いてくれる」と述べている。

続き:時代を読んだ投資は組織作りから

(翻訳・田村広子)

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