中国の「国潮」ブームとは何か 【山谷の特別解析記事】

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若い中国人の間で中国デザインの商品「国潮」がトレンドとなっている。今は中国の伝統的デザインを製品やパッケージに導入した製品を「国潮」と呼ぶケースが一般的だ。代表的なブランドとしては化粧品の「完美日記(PERFECT DIARY)」や、おつまみの「三只松鼠」などが人気だ。国潮の定義はメディアや調査会社によってもまちまちで、必ずしも「中国の伝統的デザイン」と「中国の伝統的製品」の掛け算である必要はない。例えば日本の浮世絵を中国風にアレンジした製品もまた国潮の製品であるし、ファーウェイやシャオミの製品も国潮だとする解釈もある。国潮を「今どきの若者向けのデザインの中国製品」くらいに捉えれば間違いない。

本誌36kr Japanでは著名企業はもちろんのこと、日用品や化粧品や食料品や健康食品など、様々な国潮製品を扱う企業の資金調達ニュースを取り上げている。ちなみに36kr Japanでは本誌記事以外にもtwitterアカウントで、国潮系製品をリリースする企業による資金調達ニュースを取り上げているのでよろしければtwitterアカウントをフォローをしてほしい。

ノスタルジックな香りで若者に大ヒット 国産ブランドだからこそ成功した新スタイルの香水「野獣青年」

国潮の勢いが感じられるニュースの1つを紹介しよう。

ふりかけをはじめとした調味料を扱う新興食品メーカー「加点滋味」がある。同社製品の一部には、瓶に中国の伝統的デザインが入っている。また値段は既存製品より高いが、成分にも気を遣っている。デザインがよくて品質にこだわりがあることが、20代=90后を中心にささるようだ。これは同社に限った話ではなく、多くの新興の国潮系企業で共通してみられる傾向だ。

2020年9月成立したばかりの加点滋味が、エンジェルラウンドで1000万ドル弱の資金調達をした、と2月に報じられた。ふりかけなどの調味料で約10億円の資金調達なのだから驚きだ。同社代表の申悦人氏は、90后の女性でピン多多(Pinduoduo)の新興食品飲料部門の責任者であり、それ以前にネスレや京東での職歴がある。もちろん中国語でいう「人際関係」なるコネも将来成長が期待できる要素であり、資金調達にも影響するだろう。

国潮は当初は「故宮コラボ」の口紅など、当初は中国国内の著名博物館とのコラボレーションによるプレミアム雑貨という感があった。

限定商品からはじまって現在の庶民的な商品に。中国伝統的デザインから中国人による中国の若者のためのデザインに。その流れを変えたのがスポーツ用品の「李寧(Li Ning)」が2018年にリリースした「中国李寧」と書かれたスポーツウェアだ。当時かなり異色のスポーツウェアだったと記憶しているが、様々な中国メディアによる国潮ブームをまとめた記事や回顧記事を読むに、この製品の登場がターニングポイントと言われている。

中国のレトロブランドが再評価、若者を中心にブームの兆し

中国的デザインが評価をあげつつある中、アリババもまた国潮をバックアップした。2018年には「老干媽」コラボのOpening Ceremonyの服や、化粧品の「御泥坊(Unifon)」とおつまみの「周黒鴨(Zhouheiya)」コラボの口紅などを天猫で販売。2019年5月には「新国貨計画」を発表。これは既存の産業をデジタル化し、老舗企業100社の売上について1億元突破を目指すなどを目的としたものだ。そのために販売方法を見直し、広告宣伝方法を変えるというモノだった。このころから既に様々な商品を中国風アレンジで売り出そうと考えていた。

2020年には、アリババの天猫新品創新中心(TMIC)が、新しい職業の「新品計画師」の認証計画を発表。市場のニーズから商品を開発するプロをTMICが育てていくというものだ。また1000の国内外知名IPとコラボする「天猫新文創計画」や、アリババのECサイト「聚劃算」で1万の新しい中国ブランドを育てることを発表した。ほかにも天猫は、国潮をKOLが紹介するドキュメンタリー映像「国潮時代」を配信し、「天猫全球時装週(Tmall China Cool)」で国潮ファッションをアピールするなど、伝統文化の商業化を進めた。

アリババだけではない。ライバルの京東は「潮好貨」、ピン多多は「新品牌計画」という名で国潮ブランドを推しだす戦略を発表している。有力EC企業各社が中国デザインの製品を競って孵化させて売り出している状況なのだ。しかもライブコマースが若者の間でウケがよく、新しいブランドの商品でもアピールできれば消費者の視界に入り、売れる状況にある。そうした時代背景もあって成長産業になっているのだろう。今後も国潮人気のトレンドは続くに違いない。

作者=山谷剛史

アジアITライター。1976年東京都出身。東京電機大学卒。システムエンジニアを経て、中国やアジアを専門とするITライターとなる。単著に『中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?』『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』などがある。

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