シンガポールのスマートシティを推進する「Anacle」、欧米大手に負けない地元企業の成長戦略

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Alex Lau氏が起業した2006年、シンガポールのテック系スタートアップ・エコシステムはまだそのアウトラインを描いている段階だった。Lau氏が立ち上げたスタートアップ「Anacle」は、スマートシティのインフラ形成を目的とする技術ツールを提供するために設立されたが、設立当初は「スマートシティ」が包含する内容を熟知する者がほとんどいなかったために顧客獲得は難しかった。また業界は何十年もの実績を持つグローバルのハイテク企業により構成されていいたため、顧客基盤を持たない状況では、認知度を高めることも容易ではなかった。

「米国でスタートアップを設立した場合、認知度上げることはもっと容易でしょう。スタートアップ企業の技術を利用することに対して、欧米市場はオープンですがアジアは保守的ですから」Lau氏はこのように語っている。

Anacleが設計・開発に取り組んでいるのは、スマートシティのためのエンドツーエンドのソリューションである。都市をより快適に居住でき、そこで生活する人や働く人にとって効率的なものにすることが同社の主要な使命だが、このようなアピールをもってしても、大手顧客を獲得するにはしばらく時間を要した。しかし同社の評判は満足した顧客から、インフラの改善を模索している次の企業へと口コミで広まっていった。Lau氏によると、Anacleは現在、シンガポールにおける大部分のスマートシティプロジェクトを支援する企業になっているという。

「2018年、スペインのバルセロナで開催された世界最大規模のスマートシティ関連イベント『Smart City Expo World Congress(SCEWC) 2018』でシンガポールは『Smart City of 2018』に選出され、Anacleも政府パートナーの1社として授賞式に出席しました」

スマートシティは先進的で相互接続された技術を活用して都市問題を解決し、居住者の生活の質を向上させる。これには、エネルギーの生成・分配、住宅、モビリティ、数多くの公共サービスへのインテリジェントソリューション導入が必要となる。スマートシティ構想実現のためには、政府、民間企業、組織、そして地域コミュニティによる協力が重要となるが、シンガポールはこの分野における先駆的存在だ。

スイスのビジネススクール「IMD(Institute for Management Development)」とシンガポール工科デザイン大学 (SUTD)が共同で発表した『2020年版世界のスマートシティー・ランキング(the 2020 Smart City Index)』で、都市国家シンガポールは第1位となった。このランキングは、経済力や技術力、市民の意識などの要素を評価するものだ。

つまり、スマートシティの建築においては、行政、モビリティ、パンデミック対応を含む公共衛生などの分野に技術を導入しているヘルシンキやチューリヒよりも、シンガポールの方が先を行っているのだ。

Anacle創業者兼CEO、Alex Lau氏(写真提供:Anacle)

地元力の勝利

シンガポールはその先進的なインフラ、強固な経済、ビジネスフレンドリーな政策により、国際的な舞台で戦える地元のテック系スタートアップのインキュベートを支援してきた。シンガポールのテック系スタートアップ・エコシステムが成熟するにつれ、民間企業や政府機関は、斬新なディープテックを伴う大規模プロジェクトを担うAnacleのような地元企業に対し、ますます信頼を寄せるようになっている。

「これまでは、IBM、アクセンチュア、SAPなどの大手グローバル企業が市場を独占していましたが、今日では、アジアの技術プロバイダーがこれらの国際的な大手企業の一部よりも優れているとは言えないとしても、同等の能力を発揮できることが明らかになっています」とラウ氏は言う。

Anacleは徐々に、既存の建造物やインフラに新技術を組み込み、数年前、あるいは数十年前に都市システムに織り交ぜられた大規模な非効率性を解消している。

「当社はシンガポールで数多くの不動産管理ソフトウェアを手掛けており、我々のソフトウェアで2万棟以上のビルが自動化されました。シンガポールは大都市ではないので、この数字はかなりのものです。また、約700棟の建物にエネルギー管理や水道管理のソリューションも提供しています。これらはシンガポールのスマートシティに大変革をもたらしている2大事業分野です」Lau氏はこう述べた。「近年、Anacleは頼りうるスマートシティ技術プロバイダーとして認められるようになりました。Anacleはその能力を急成長させており、都市をスマート化し、より良い未来へ先導しています」

Anacleの顧客の大部分は、政府、商業不動産、公益事業・電気通信の3つのカテゴリーに分類される。同社はプロジェクトにAIやIoTソリューションを実装させる技術パートナーとして、国防省、保健省、そしてスマート不動産管理システム(SEMS)を担う住宅開発庁などを含む様々な省庁や政府機関と協力している。中には、チャンギ空港、ジュロン港、政府系不動産大手「キャピタランド(CapitaLand)」、アジア最大級の通信会社「シンガポールテレコム(Singtel)」なども名を連ねている。

「基本的に、我々の顧客は大量のインフラ、豊富な資産、多数のビルを保有する企業です。また、我々は先に挙げたカテゴリーに属さないシンガポール航空とも提携しています」

Anacleはクラウドベースのスマートエネルギーおよび水道管理IoTプラットフォーム「Starlight®」を通じ、ハードウェアとソフトウェアをエネルギー管理のための統合ソリューションと組み合わせた。またERP(企業資源計画)についてはビジネスソフトウェアスイート「Simplicity®」があり、これは企業の資産、金融、サプライチェーン、共有リソース、(該当する場合は)商業テナントなどを管理するものだ。同社は最新のIoT技術を活用し、強力なサイバーセキュリティ対策と人工知能(AI)を用いて信号やデータを暗号化している。これは3Dデジタルツイン(建物内の施設や資産など、現実の物体を仮想空間に再現したもの)、フォグコンピューティングとインフラ(クラウドと現実世界からデータを収集するデバイスとの間の分散処理技術)のようなスマートシティ技術のいくつかの分野におけるパイオニアだ。

例えば、Starlight®の主力製品であるスマートメーター「Tesseract®」を例に挙げると、Lau氏はそれを「世界一スマートな電力メーター」だと述べている。2017年に発売され、この種のシステムの中でAndroidとLinuxの両方をサポートする唯一のIoT対応スマートシステムであり、エッジコンピューティングやエネルギー管理の新たな可能性のための将来を見据えた製品となっている。

「スマートメーターの分野では、世界に約6000社の競合企業が存在します。数年前に気が付いたのですが、既存のスマートデジタルメーターの大部分には高校の計算機レベルの演算能力しか備わっていません。スマートフォンの時代には受け入れがたい状況です。そこで私たちは、iPhone Xのような最新スマートフォンと同レベルの演算能力を持つスマートメーターを作ったらどうだろうと考えました。これまでは使うことができなかった魔法を使えるようになりました」

Tesseract®は、ユーティリティ消費量の測定・分析にとどまらない。その機能には、デマンドレスポンス(DR)制御や電力管理も含まれており、ユーザーは手間をかけずにエネルギー消費を管理し、微調整することが可能だ。

「たとえば屋外にTesseract®を設置すれば、各々の家電のエネルギー消費量を見積もることができます。Tesseract®はスマートコンセントの制御も可能なので、遠隔操作で重要ではない機器の電源を切り、光熱費を管理することができます。工業用建物や商業施設に設置すれば、機器の故障を予測することも可能です」

Tesseract®のスマートメーター技術(画像提供:Anacle)

スマートメーターの背後にあるほとんどの企業は、依然として保守的だ。だからこそAnacleのTesseract®は世界的にも競争でリードしているのだ。

「当社には100人以上のエンジニアがいます。当社のソフトウェアビジネスは採算性が高く、研究開発に投入するための多額のキャッシュを生み出しているため、このようなイノベーションを起こすことができるのです」Lau氏は言う。

米スタートアップデータベースの「Crunchbase」によると、Anacleは設立後最初の10年間にベンチャーキャピタル(VC)からの支援を取り付け、「iGlobe Partners」や「Majuven」など様々な投資家から650万ドル(約7億円)の資金を調達した。2016年12月、同社は香港証券取引所で上場を果たしている。

Anacleは中国の杭州、マレーシアのクアラルンプール、インドのプネに支社を置いており、シンガポールの本社以外でも実績を上げている。中国では杭州の不動産開発会社と提携し11件のスマートシティプロジェクトを実施、アラブ首長国連邦では多くの公立病院と連携、ベトナムでは最大の不動産デベロッパー「Vingroup」とパートナーシップを締結している。

現時点で、Anacleは1000万のインフラ資産の管理、追跡、補修管理を行っており、そのソリューションは6000万平方フィート(約557万平方メートル)の企業不動産の管理を最適化している。これまでに同社は、約480万人の公営住宅の住民や、世界中に点在する2000のスマートハウスやオフィスにサービスを提供した。

今後については、アジアが重要な成長市場であることから、Anacleは今後5年間、アジアでの事業および経営の拡大に注力するとLau氏は述べている。Anacleのようなアジアのハイテク企業の多くは成熟し、それぞれが主要な世界的勢力となっている。

「長期目標として、我々はシンガポールの環境技術を変革するだけでなく、特に持続可能なイノベーションおよび持続可能な開発において、世界の多くの都市にとって善意とデジタル化のグローバルエージェントとなる重要な世界的企業になることを目指しています」Lau氏はこう述べた。

(作者・KrASIA、翻訳・浅田雅美)

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