メタバース産業化、米中で異なる主役。中国はVR/ARの資金調達活況

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インターネット上の巨大な仮想空間「メタバース」への関心が高まっている。

モバイルインターネットの発展の土台が人と人とのつながりだとすれば、メタバースの土台は人と空間をつなぐことにある。両者の接続には媒体物が必要で、現段階ではVR(仮想現実)やAR(拡張現実)などがその役割を果たす。こうしたことを背景に今年はVR・AR分野への投資が相次ぎ、中国ではVR・AR分野で40件以上の資金調達が確認された。

出資を受けたVR・AR関連企業

出資を受けた企業の業種はテクノロジー、コンテンツ、プラットフォーム、ソフトウェア、ハードウェア、コンポーネントなど多岐にわたる。

2021年に出資を受けた中国のVR・AR企業

個別にみると、ハードウェアやコンテンツ関連が依然として同分野の主要プロダクトであり、資金調達に成功する分野だ。VRヘッドセットを開発する「Pico」などはすでに成熟した製品をリリースしており、注目度も高い。TikTokを運営するバイトダンス(字節跳動)が同社を買収した主な理由はこの点だろう。

過去数カ月にわたる投資・出資の動向には二つの特徴がみられる。一つは業界が細分化していること、もう一つはプラットフォームが徐々に現れてきていることだ。

前者の一例は教育分野でのVR活用で、「科駿実業(KMAX)」や「飛蝶VR教育(Flying Butterfly VR Technology)」がデスクトップPCやヘッドセットなどの機器を開発しているほか、「鑫鋭数科(XINRUI)」が高等教育機関向けにバーチャルシミュレーション授業の開発プラットフォームを提供している。教育以外の事例ではランニングマシンにVRを取り入れる「KATVR」、軍事シミュレーションにVRを取り入れる「睿辰欣創(RichCreator)」、主にホログラム技術を導入した車載機器を手がける「微美全息(WiMi Hologram Cloud)」などがある。

後者のプラットフォームはさらにその価値を顕在化させている。プラットフォームの登場は、業界全体で徐々に方向性が固まってきていることを示す。自らのエコシステムを構築することで、これまで単一分野に限定されていた製品展開も、プラットフォームを基盤としてより多くのバリエーションを生み出せるようになる。

多くの投資・出資案件の中でも、スタープロジェクトの動向は注目に値する。テンセントとバイトダンスが買収を争ったと伝えられるPicoはまさに好例で、同社は6DoF(自由度6)のトラッキング能力を備えたハードウェアを実現した点で中国でも最速グループに入る。ただし、ハードウェアそのものでの競争はすでに限界に達しており、次世代製品はソフトウェアやアルゴリズムの進化をより重視する必要がある。こちらは親会社となったバイトダンスが得意とする領域だろう。

もう1社注目すべきは、ARグラスを開発する「Nreal」だ。出資者にはセコイア・キャピタル・チャイナ、高瓴資本(Hillhouse Capital)系列の「高瓴創投(GL Ventures)」、中金資本(CCIG)、新興EVメーカーNIO(蔚来汽車)などが運営する「蔚来資本(NIO Capital)」、短編動画プラットフォーム大手「快手(Kuaishou)」と中国屈指のメンバーが揃い、テンセントも間接的に出資している。

ただ、中国と海外ではVR・AR産業の発展の道筋は異なる。理由の一つは、中国ではスタートアップが業界を先導しているのに対し、海外ではフェイスブックやマイクロソフト、グーグル、アップルといった大企業が牽引役となっていることだ。海外のスタートアップは細分化された各分野を担っており、テンセント傘下の投資持株会社「Image Frame Investment」が今年6月にシリーズDで5000万ドル(約57億円)を出資した英「Ultraleap」がこれに当たる。同社はハンドトラッキング技術やバーチャルな触感を開発しており、シリーズDを経て評価額は2億4000万ドル(約270億円)に近づいた。

メタバース関連の業種別企業リスト

実用化できる技術にこそ未来がある

今年3月に発表された「中華人民共和国国家経済社会発展第14次5カ年計画及び2035年ビジョンの概要」の第5章「デジタル発展の加速とデジタル中国の建設」では、デジタル経済の重点産業としてAR・VR分野が挙げられている。

また、調査会社IDCによると、中国におけるAR・VR関連の製品・サービスへの支出総額は、2020年に世界市場の約55%を占め、2021年から5年間で年平均77.2%成長する見込みという。 IT専門調査会社「易観(Analysys)」では、2020-2025年を同産業の高成長期だと分析している。

VR・AR業界では消費者向けのハードウェアやソフトウェアを発売することが利益創出の最短距離であることがわかっている。ゲームや会議などで一定の需要があり、ARグラスなどはスマートフォンに並ぶスマートデバイスに成長する可能性がある。

技術がさらに成熟し、コンプライアンスやマネタイズの課題をクリアすれば、VRやARは完全にメタバースの一部分となる可能性もある。仮にそこまで到達しなくても、VRやARがもたらす新たな体験は、バーチャルと現実が融合するエコシステムを実現できるかもしれない。概念上はVRとARはメタバースと同じもので、現状の物質世界では満足できないすべてのメーカーの受け皿となる。どの企業が良質な体験を提供できるか、どの企業が新たな事業モデルを実現するか、そのうち分かるだろう。

作者:WeChat公式アカウント「美股研究社(ID:meigushe)」
(翻訳・愛玉)

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