「スタートアップ不毛の地」日本に旋風は巻き起こるか?「36Kr Japan」の答えは

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「スタートアップ不毛の地」日本に旋風は巻き起こるか?「36Kr Japan」の答えは

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日本のスタートアップを取り巻く状況は、中国と比較するとあまりにもおとなしい。投資規模で言えば、日本は2000億円、中国は10兆円だ。NEXTユニコーン企業(評価額3億ドル以上10億ドル以下の未上場企業)についても同様で、日本にはわずか12社しかない。

中国最大手のIT・スタートアップ専門ニュースサイト「36Kr」は今年8月、日本語版「36Kr Japan」をローンチしたが、そのCEOを務める中島嘉一が、日本のスタートアップ事情や、日中のVC市場をつなげて相互に発展していくための展望を語った。

「36Kr Japan」CEO 中島嘉一

日本のVC市場が活性化しない理由について、中島は以下の4点を指摘する。

1)農耕民族の文化
地道にコツコツと改良を続けて高品質なものを作るのは得意で、天災などの非常時には一致団結して一気に問題を解決する。しかし、平時にイノベーティブなことは考えない。基本的にリスク・アバース(リスクを嫌う)なのだ。

2)思考がドメスティック
下り坂に入ったとは言え、GDPで世界第3位の国であるため、日本国内のみで十分にビジネスが成立する。したがって、海外のことを知らなくても市場が成り立つ。アメリカなどに留学する学生も少なくなった。

3)ベンチャー資金が少ない
アメリカや中国は10兆円近い資金がスタートアップ企業に投資されるのに対して、日本は2000億円と、約50分の1の規模にとどまる。また、前述したような保守的な気質は、スタートアップ企業だけではなく、VCも同様だ。

4)社会全体の草食化
「いまの生活に満足」という人が74.7%、しかも18歳から29歳の若者層だと83.2%だという(2018年8月24日付の内閣府調査)。博報堂はこうした状況について、「モノを消費する力(=所得)の差によって豊かさに差がつく『格差社会』から、個人の『楽しめる力』や『楽しもうという動機の強さ』によって『生活の豊かさ』に差がつく社会への転換が進んでいる」と分析し、これを「楽差社会」と形容している。「無理してカネを稼ぐ必要なし」という風潮が蔓延している。

以上の結果、起業する人も少なく、資金を出す人も少ない、という状況だ。

勢いに欠ける日本のベンチャー投資市場

――現在の日本のベンチャー投資市場、活況でしょうか。
「日本のスタートアップ業界は、さほど盛り上がっていない。メルカリが上場した後、ユニコーン企業と言えるのはプリファードネットワークス(PFN)のみだ。ユニコーンの基準を『企業価値100億円以上』に下げても、ようやく22社。中国とは比較にならない」

企業価値、22社が100億円以上 NEXTユニコーン調査
http://japan.plugandplaytechcenter.com

出所:https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/next-unicorn/#/list?p=1&drawer=JTOWER

ソフトバンクの投資戦略

――こうした環境下でも、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SBVF)のような巨大な投資ファンドも生まれています。彼らの国内投資はどのような戦略でしょうか。また、主な投資分野は。

ソフトバンクグループの孫正義氏

「ソフトバンクの投資戦略については、以下のように考えている。1)孫正義氏は、世界を見ている。もはや『日本だから』という観点はない。しかも、『300年続く企業にしたい』と言っており、社会のインフラになり得る会社に投資している。2)重要な投資先は、 再生エネルギー、 輸送、コミュニケーションツールの3つだ」

――今夏には中国のライドシェア「滴滴出行(Didi Chuxing)」も大阪へ進出しました。SBVFが同事業に果たす役割は?

「滴滴への出資は、先に挙げた輸送の観点からだろう。トヨタやオラ(インド)、グラブ(インドネシア)に出資したり、トヨタと提携したりしたのも同様の理由だ。世界中のライドシェアで覇者になるのが目標なのだろう。そのために、輸送のインフラとなり得る会社へどんどん出資する。滴滴の大阪進出に出資したのも、その一環にすぎない」

日本進出を計画する中国企業への助言

――日本進出をする中国企業に対しては、どのような注意事項が挙げられますか。

「海外進出には困難がつきものだが、やはり日本への進出は特にハードルが高い。ただし、進出に成功すれば大きな価値を得られる市場でもある。それでも、日本進出の形態はよく検討すべきだ」

「独資で進出する場合は、ビジネスの進め方も、製品やサービスも、徹底的に『日本流』にした方がよい。日本人は保守的かつ神経質なので、『日本流』ではないものには警戒心がある」

「スマホアプリなどB2Cのサービスで、なおかつ日本企業と交渉する必要がなければ、日本人パートナーは不要かもしれない。ただしこの場合は、『中国企業』の色を消して、無国籍のイメージを打ち出した方がよい。TikTok は、この作戦で成功している」

「日本を十分に理解している人材がいない場合は、信頼できる日本人パートナーと組み、日本企業への対応は日本人に任せることをお勧めする」

「業種によっては、日本企業を買収するのも手だ。特に製造業や卸売業では『後継者がいない』という理由で会社を売却するケースが増えている。日本で売れそうな製品やサービスがすでにある場合は、買収した日本企業で製造したり、その流通チャネルを使って販売することで、時間を節約できる」

「ただし、『外国企業に買収されるのは嫌だ』という保守的な経営者もいるので、買収対象の選定や買収交渉には、日本人パートナーがいる方がスムーズだろう」

「前述した通り、日本のスタートアップは数も少なく、イノベーティブな気風にも欠ける。中国の企業が来れば、一気に市場シェアを取れる可能性がある。日本の消費者は平均消費が高くロイヤルティも高い。日本に進出した企業が着実にローカライズを進められれば、日本進出は彼らにとってより大きな収穫をもたらすだろう」

日本のVCが期待する分野は

――不振の中でも特に期待できる分野は何でしょうか。
「スタートアップに限らないが、期待されている分野としては以下の4つがある。いずれも、先行開発により、世界をリードしようとしている分野だ」

1)省力化(AI、ロボット、IoT)

日本の抱える深刻な問題は「人手不足」。少子化に加えて、前述のような風潮なので、ハードな仕事には労働力が集まらない。そこで、AIやロボット、IoTなど、人手不足を解決できる技術が大いに期待されている。

2)メディテック(特に新薬開発)

少子化によって高齢者の比率が高まることは間違いなく、しかも、平均寿命はさらに延びている。このままでは医療保険や年金が破綻する懸念もあり、高齢者には元気でいてもらわなければならない。そこで、iPS細胞や免疫療法など先端技術を活用した新薬の開発が大いに期待されている。

3)モビリティ(EV、自動運転車など)

日本の自動車産業の就業者数は550万人で、全就業者の1割に当たる。もし、海外メーカーの電気自動車(EV)や自動運転車が席巻して国内大手メーカーが破綻すると、日本に失業者が溢れ返ることになる。この状況を鑑み、日本政府は自動運転の実験運用を認めるなど、日本製EVや自動運転車の登場を後押ししている。

4)フィンテック

日本の銀行はシステム投資が巨額で、旧態依然とした装置産業とも言える。また、1800兆円に上る個人金融資産が非効率的に運用されている。そこで、ブロックチェーン技術などによって金融業を改革すべく、こちらも政府が後押ししている。

――以上の4分野で、中国のVCでも活躍が見込める分野は。

「どれもよいだろう。ただし、VCが日本進出する場合は、要求するシェアによって作戦が異なり、また信頼できるパートナーを探すことが重要だ」

「1/3未満のシェアでよければ、多くの企業は歓迎するだろう。特に、業務上のシナジーがある場合は互いのメリットも明確なので、話が進みやすい」

「1/3超のシェアを要求すると、多くの企業は『経営に関与される』と考えるので、交渉が難しくなる。どこまで経営に関与するかをよく議論して決めないと、仮に出資できたとしても、あとから問題が起こるだろう」

「1/2超のシェアを要求する場合は、事実上は買収と同じなので、かえって話が早い可能性がある。ただし、中国側が経営権を持つことになるので、日本の法律や会計、ビジネス習慣を理解している人材を管理者として送り込む必要がある」

「例えば、CITICキャピタル・パートナーズは2分の1超のシェアを得て、日本企業の製品を中国の販売網に乗せ、売り上げを大幅にアップさせている。そのような売上増を見込める製品やサービスがあるならば、双方がハッピーだ」

――過去数十年にわたる中国の経済成長を支えてきたのは、外資の導入や、外資企業に対する優遇策と言えますが、日本では外資系VCに対する優遇策は採られているのでしょうか。

「特にはない。日本の法律に即してさえいれば、国籍に関係なくVCを設立できる一方、外国企業の日本法人設立を支援する自治体などは多くない」

「今年、アメリカのPlug and Playが日本にVCを設立した。日本企業(三菱UFJ銀行や東急不動産など)とパートナーを組んで、アクセラレーター・プログラムに注力するとのことだ。どのようなスタートアップが発掘できるのか、注目されている」

http://japan.plugandplaytechcenter.com

36Krで日中のVCを活性化させたい

――36Krの日本語版「36Kr Japan」がローンチして4カ月になります。日本のVC市場の反応は。

「日本のスタートアップ関連業界からは大きな反響がある。これまでも中国に注目していた事業会社からは『中国の最新事情が日本語で読めるようになった。ありがたい』と言われている。彼らは、中国でどのようなビジネスが生まれ、どのように評価されているかを知り、事業の参考にしたいと考えている」

「また、投資会社、金融機関、広告代理店などからは『中国の有望スタートアップ企業と仕事がしたい。紹介してくれないか』と言われている。彼らは、投資する機会、日本企業との提携をあっせんする機会、中国企業の日本でのマーケティングなどをサポートする機会をうかがっている」

「総じて言えば、これまでは日本のスタートアップ関連業界は『中国はすごそうだけど、よく分からない』と思っていた。そこへ『中国のスタートアップ企業にコンタクトできるルートができた』と感じているようだ」

――現在の運営状況はいかがですか。運営チームにとって最大のハードルは。

「8月に36Kr Japanを開設したが、12月末までは基盤を作る期間であり、まだ広告宣伝を行っていない。したがって、月に数十万PVしか取れていない状況だ。また、優秀な翻訳者や編集者を集めるのに時間がかかっており、現状は1日8~10本の翻訳記事しか出せていない。スタッフを拡充して1日に20本ほどを配信し、加えて、日本の読者の目線に立った日本語版オリジナル記事も出していきたい」

「しかし、一番の問題は、日本人が中国に関心がないことだ。前述した通り、現在の生活に満足している多くの日本人は、海外のことには興味がない。しかも、日本の世論調査では『中国に対して良くない印象を持つ人』は依然として86.3%と高い。一部のマナーが悪い中国人観光客の影響もあるが、積極的に中国のことを知ろうとする人は極めて少ない」

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-10-11/PGEPLP6TTDS001

「したがって、我々としては、まだまだ中国のスタートアップやVC、産業エコシステムの現状を発信していかなければならない。月間数百万PVの目標を掲げているものの、少し時間がかかるかもしれない。そこで、日本の他のメディアと提携するなどして、36Krの記事が広く読まれるようにしたいと考えている」

「36Kr Japan」トップ画面

――将来的な展望について教えてください。

「まずは配信する情報量を拡充すること。その次に日本の読者の関心を惹くオリジナルコンテンツの制作体制を構築すること。この体制ができて、広告宣伝やイベント開催などを行えば、月間数百万PVを狙えるようになる」

「前述した通り、メディア事業が軌道に乗るためには、少し時間がかかる。また、メディアへの広告出稿がすでに時代遅れになりつつあるので、メディア事業ではそれほど利益が出ないと思っている」

「最新の情報を正しく伝えるというメディアの重要性は変わらないが、課題は、『いかに利益をあげるか』にある」

「この点では、『中国企業と提携したい』『中国企業をサポートしたい』という日本企業がたくさんいることがチャンスだと考えている。お互いにメリットがある形で、中国企業と日本企業を引き合わせていく。その融合から生まれた新しいビジネスが日本、中国、アジアに広がっていけば、世界がもっと便利に、もっと楽しくなるに違いない」

「36Kr Japan」CEO 中島嘉一

(編集・愛玉)

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