次世代エネルギーの水素 燃料電池業界に「第2のCATL」は誕生するか

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次世代エネルギーの水素 燃料電池業界に「第2のCATL」は誕生するか

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現在最もクリーンなエネルギーとされる水素は、「低炭素、高発熱量、高転化率」といった特徴を持ち、大きく発展する可能性を秘めた「究極のエネルギー」と考えられている。中国では政府が掲げる「双炭(カーボンピークアウト、カーボン・ニュートラル)」を達成するために、水素が重要な役割を担うと期待される。

中国では昨年9月、水素を用いる燃料電池車(FCV)の実証実験を行うモデル都市として3都市が正式に稼働し、水素エネルギー産業の拡大は新たな段階に入った。同年末には、中央政府から近くトップダウンの政策が正式発表されるだろうとの情報が業界内で頻繁に囁かれた。

これらの事象を受け、資本市場は今年に入って水素エネルギーが次世代エネルギー分野の次の起爆剤になるとの見方を強めている。とくに、モデル都市群が推進されるに伴って、燃料電池車業界から「第2のCATL(寧徳時代)」が誕生する可能性が高いと期待されている。CATLは電気自動車(EV)駆動用電池の世界最大手のメーカーだ。

風力、太陽光に続く水素

「双炭」が牽引するかたちで、昨年の資本市場では次世代エネルギーにスポットライトがあたった。

流通市場では、次々と押し寄せる資本の波が風力発電や太陽光発電の資産価格を押し上げた。新エネルギー車業界も「大ブレイク期」を迎え、昨年は新興自動車メーカーの御三家「蔚小理(蔚来汽車、小鵬汽車、理想汽車)」が取引量を大幅に伸ばした。

水素エネルギー業界も同様に、すでにブレイクの入り口に立っている。

一つの産業が盛り上がるには、政策が重要な役割を果たす。2016年以来、中国政府は「『第13次五カ年計画』国家テクノロジー・イノベーション計画」「エネルギー技術革命イノベーション行動計画(2016〜2030年)」「中華人民共和国エネルギー法(意見募集稿)」「燃料電池車モデル運用の展開に関する通知」などを含む複数の戦略計画や政策を打ち出し、水素エネルギー産業の成長を後押ししてきた。

中でも財政部、工業情報化部、科学技術部、国家発展改革委員会、国家エネルギー局が共同で推進する「燃料電池車モデル都市群」プロジェクトは、業界全体のロジックを変えるきっかけとなった。

燃料電池車のモデル運用の広まりは、「水素製造、貯蔵、輸送、加工、利用」など水素エネルギー業界の各プロセスに関わってくる。モデル都市群が推進されれば、実用化シナリオや市場の需要も増え、業界のロジックも政策主導から市場主導へと徐々に切り替わっていく。

中央政府からの呼びかけに、地方政府も積極的に反応している。中国人民大学が最近発表した「水素エネルギー都市における成長の潜在力ランキング」によると、中国国内では30省158都市が「第14次五カ年計画」の中で水素エネルギーに言及しており、57都市は水素エネルギー産業の成長に特化したプロジェクトを立ち上げている。

業界の発展の道筋が明らかになるにつれ、発行市場では投資家がさっそく水素エネルギー関連プロジェクトの「囲い込み」を始めている。昨年末に1億元(約18億円)を超える資金調達を実施した燃料電池開発企業「鋒源氫能(Fenergy)」の担当者は、「過去数カ月の間に100以上の投資機関からアプローチがあった」と明かした。

流通市場の反応はさらにダイレクトだ。水素エネルギー産業関連の優遇政策が発表されるたびに、グリーンエネルギー関連銘柄は株価を上げ続けている。金融データサービスWindの水素エネルギー株価指数(Wind Hydrogen Energy Concept Index)の昨年の累計上げ幅は45%に迫り、同年のA株市場で最も人気のあるセクターの1つとなった。 関連銘柄も続伸し、「全柴動力(Quanchai Engine)」、「美錦能源(Meijin Energy)」などは一時ストップ高となった。

前途有望な業界は多くの中央企業や国有企業も惹きつけている。中国国務院国有資産監督管理委員会(SASAC)事務局長で報道官の彭華崗氏は、国務院新聞弁公室が昨年7月に開いた会見上で「中央企業の3分の1以上は水素エネルギー産業に参入する意志を固め、すでに技術開発やモデル運用で一定の成果を上げた」と述べている。

中央企業や国有企業に続き、次世代エネルギー業界の大手企業も次々と水素製造に乗り出している。水素産業で最も重要な成長分野ーーグリーン水素(再生可能エネルギーを用い、CO2 を排出せずに製造する水素)分野では、風力発電や太陽光発電を手がける大手企業がすでにアクションを起こしている。昨年は「隆基股份(LONGI)」や「陽光電源(SUNGROW)」が相次いでグリーン水素の最重要装置ーー電解槽に着手、「晶科科技(JinKO Power)」、「協鑫能科(GCL ENERGY TECHNOLOGY)」や「林洋能源(LINYANG ENERGY)」なども参入してきている。

要解決の課題は

市場は沸いているように見えるが、業界の最前線には想像されるほどのスピード感はない。

「本当の意味で流入してくる資本はかなり少ない」。 鋒源氫能の関連部署担当者は、「水素エネルギー産業を成長させるには、開発や人材に多くの資金を割く必要がある」と指摘。 活況に見える市場だが、資本の支えは十分と言い難い。

資金難の理由の一つは、製造、貯蔵、輸送、加工、利用までに至る水素エネルギー産業の各プロセスがどれも大がかりな事業になることだ。並の資金では達成できることに限りがある。もう一つの理由は中国の水素エネルギー産業がまだ黎明期にあり、資本市場は様子見を続けていることだ。

環境保護分野に特化するPEファンド「青域基金(ECO Fund)」の投資ディレクター聶栄鋒氏は「中国の水素エネルギーをめぐるインダストリアルチェーンは未熟で、現行の技術ロードマップでは量産化に対応できない。導入シナリオもさらに掘り起こしが必要だ。業界全体が規模を拡大するにはまだ時間がかかる」と述べる。さらに、「川上の製造から川中の貯蔵、輸送、川下の利用に至るまで、水素エネルギー産業に対して我々はまだ慎重姿勢をとる」とした。

中国の水素エネルギー産業は政策面では手厚い支援を受けているが、産業全体が初期段階にあり、「コア技術がない、主要原料・部品は輸入頼み、標準規格が未熟、インダストリアルチェーンや関連施策が未完成」といった問題を抱える。例えば燃料電池の「八大構成要素」である触媒、ガス拡散層(GDL)、プロトン交換膜、膜電極接合体(MEA)、バイポーラープレート、FCスタック、エアコンプレッサー、水素循環ポンプは、いずれもコア技術がネックとなり、製造コストの高止まりの要因にもなっている。

インダストリアルチェーンや関連施策の未熟さも、水素エネルギー事業を手がける企業に多くの困難をもたらしている。深圳市水素エネルギー・燃料電池協会の張禕瑩事務局長は「燃料電池システムメーカーはシステムを製造するだけでなく、川上のサプライヤーから川下の完成車メーカーまでを含む応用市場の開拓、水素ステーションの建設、水素供給まで自力で取り組んでいる」と述べ、「現段階では、多くのプロジェクトが燃料電池のコア部品やシステムを手がける川下企業頼みで進められている」と話した。

また、標準規格が未完成で管理体制が明確でないという現状は、インダストリアルチェーンの成長にとって制約事項となっている。

コア技術、部品、付帯施設から管理体制まで、水素エネルギー産業が加熱する背後には多くの難題が存在する。また、燃料電池車と電気自動車は、規模、技術、インダストリアルチェーンの完成度、いずれをとっても比較の対象にならない。しかし、国が燃料電池車を後押しするにつれてその先行きは開け、第2、あるいは第3、第4の「CATL」が誕生するのも時間の問題かもしれない。
(翻訳・山下にか)

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