データの中身を見せずに処理。プライバシー保護コンピューティング、金融業で活躍

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プライバシー保護コンピューティングを手がける「藍象智聯(杭州)科技(Lanxiangzhilian)」がこのほど、シリーズAで約2億元(約36億3000万円)を調達した。「煕誠金睿(Xicheng Jinrui)」が出資を主導し、「元禾重元(Oriza PE)」や既存株主の「聯想之星(Legend Star)」などが出資に加わった。

プライバシー保護コンピューティングとは、「データは使えるが、中身が見えない」状態にすること。処理や演算の過程でデータの秘匿性を保ち、漏えいや抜き取りを防ぐ重要な技術で、AIや暗号理論、ブロックチェーン技術が活用されている。データが分散した状態で機械学習を行う「連合学習」やデータを秘匿したままで計算する「マルチパーティ計算」、個人を特定できないようにする「差分プライバシー」など複数の手法がある。

中国では2021年に「データセキュリティ法」と「個人情報保護法」が相次いで施行され、プライバシー保護への注目度が一気に高まった。この1年だけでも、プライバシー保護コンピューティング企業10社ほどが資金調達したことを公表している。

2019年末に設立された藍象智聯は、他の業界よりもセキュリティ要件が厳しい金融機関向け水準のプライバシー保護コンピューティングを提供している。創業者で董事長の童玲氏はアリババの金融関連会社「アント・フィナンシャル(螞蟻金服、現アントグループ)」でIT戦略の計画・実行を主導するチーフアーキテクト、「芝麻信用(セサミクレジット)」の最高技術責任者(CTO)などを歴任し、アントのブロックチェーン技術「アントチェーン」やプライバシー保護コンピューティング・プラットフォームの立ち上げに携わった。もう1人の創業者・徐敏CEOは「中国工商銀行(ICBC)」本店から2014年にアリババに移り、クラウド事業「阿里雲(アリクラウド)」副総裁や「金融雲(クラウドコンピューティング)」事業部副総裁を務めてきた。

2人の創業者によると、藍象智聯の強みはプライバシー保護コンピューティング技術と業界のデジタル化に関する経験を兼ね備える点にあり、すでに金融業などでそれが実証されつつあるという。

技術面ではデータ処理などのプロセスにおける安全性を保証するマルチパーティ計算と、モデリングのための連合学習を採用。これをベースに打ち出したのが金融機関向けセキュリティ水準のプライバシー保護コンピューティング・プラットフォーム「GAIA(ガイア)」だ。シリーズとしてマルチパーティ計算プラットフォーム「GAIA・Edge」、ワンストップ型連合学習モデリングプラットフォーム「GAIA・Cube」、プライバシー保護コンピューティングの共有プラットフォーム「GAIA・Edge-X」などを展開する。

GAIAシリーズは自社開発のアルゴリズムライブラリを採用し、企業のデータ運用に求められる高性能・高セキュリティーを実現した。ドラッグ&ドロップで視覚的にモデリングでき、既存データの応用プロセスへの対応もノーコードで行えるなど、業務プロセスに配慮した設計になっており、社内の業務システムとも手軽に統合できる。

セキュリティー面を担う鍵供託システムや証明書の管理を行うキー管理システム(KMS)がGAIAに搭載されているほか、データフロー管理では全プロセスの監査、検証、追跡が可能。ブロックチェーン上で契約内容を自動で実行する「スマートコントラクト」技術と組み合わせ、データ生成から処理に至る各ステップのフィンガープリントをブロックチェーン上に保存し、毎回のデータ共有時の取引記録を保持することができる。

同社はデータ運用スキルにおいても突出している。金融業界ではデータの運用を通じてユーザー活性化や信用枠の拡大、リスク管理など、さらなるビジネス価値を掘り起こすことができる。

データ運用サービスを提供するには、データだけでなく業界も理解している必要がある。藍象智聯は創業と同時にデータ運用チームを立ち上げており、金融機関のビジネス上の目標に応じて導入するデータソースや戦略、モデルを決定する。データサービスやソリューションで特定の場面におけるデータの価値を推測し、安全性やコンプライアンスを確保しながら社内外のデータを結び合わせることで、企業の成長を後押しすることができる。

GAIAシリーズはすでに多くの金融機関などで広く導入されている。設立から2年ほどの間に中国工商銀行や上海銀行などの金融機関、中国三大通信事業者、大手IT企業などと提携を結んだほか、中国人民銀行および工業情報化部の定めるマルチパーティ計算と連合学習の関連基準の起草を主導する企業となっている。
(翻訳・畠中裕子)

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