インフルエンサー活用ビジネスの「如涵(Ruhnn)」、米ナスダック上場へ

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インフルエンサー活用ビジネスの「如涵(Ruhnn)」、米ナスダック上場へ

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KOL(Key Opinion Leader。インフルエンサーの意)を活用したECビジネスを展開する「如涵(Ruhnn)」が3月6日、米国証券取引委員会(SEC)に新規株式公開(IPO)の目論見書を提出した。

如涵が上場へと動くのはこれが2度目だ。「インフルエンサー活用型EC」の大流行が始まった2016年、同社は中国の新三板(正式名:全国中小企業股份転譲系統。店頭市場)に上場した。だが、上場後は業績が振るわず、資本市場もたびたび冷え込み、2018年1月には上場を廃止した。

上場廃止の大きな要因は経営上の問題だろう。新三板上場後、同社はインフルエンサーを中心としたECビジネスを本格的に展開し始めたが、2016年から2018年まで(つまり上場期間中)の業績は悪化に転じていた。

2017会計年度(注1)の純損益は4500万元(約7億4200万円)の黒字だったが、2018会計年度には前年比300%減少し約9000万元(約14億8500万円)の赤字に転落。また、2018会計年度と2019会計年度第1~3四半期(2018年4月~12月)はGMV(総取引額)や売上高などEC企業の成長ぶりを示す重要な指標の伸びが鈍化している。

2017会計年度から2019会計年度第3四半期までの財務データ。単位はKOLが人、その他は億元。36krが目論見書を基にまとめた。

注1:会計年度は暦年と異なる。例えば如涵の2017会計年度は2016年3月31日から2017年3月31日の財務データに対応する。

上場廃止のもう一つの要因として、同社が国内株式市場での苦戦を受けて上場先を変えようとしたことが考えられる。米国株式市場はEC企業に対して好意的なため、国内外の著名なEC企業も上場先に米国市場を選択している。

ただ、米国上場が成功したとしても、これからの道は険しく、如涵は引き続き多くの問題に直面するだろう。

目論見書によると、同社はインフルエンサーを活用するEC企業であり、多数のKOLとそのフォロワーをつなげることで広大なネットワークを形成し、そこにブランド、オンラインショップ、デザイナー、メーカー、サプライヤーなど多数の事業をリンクさせている。

つまり、インフルエンサーを生み出すことで収益を得るというビジネスモデルだ。同社は主にEC、インフルエンサーのマネジメント、マーケティングなどの事業を手がける。ただし同社がこれまで実際に収益を得てきたのは、傘下のインフルエンサーが運営する91社のネットショップと第三者が運営するアパレルのネットショップからだ。

アパレルEC事業への依存は同社に大きなリスクをもたらすだろう。経営リスクの分散という面だけでなく、アパレル業界の特性自体にリスクがある。アパレル事業で求められるサプライチェーンのマネジメント力は非常に高い。販売は季節要因に大きく左右され、ライフサイクルも短く、すぐに在庫が嵩んでしまう。このハードルはインフルエンサーにとって大きな課題であり、業界上位ECサイトのインフルエンサーでも同様の悩みを抱えている。

如涵のGMVにおける主力事業の貢献度。「GMV of our online stores」は直営ネットショップの当該会計年度におけるGMV。

目論見書より抜粋。

如涵もアパレルEC事業に過度に依存していることを認識し、新規事業に乗り出して収益源を増やそうとしている。2017年、同社は第三者が運営するネットショップと提携し、ブランドやその他事業者に対するKOLを活用した販売や広告サービスの提供を開始した。また、インフルエンサーのマネジメント業務も展開し、彼らをまとめるMCN(マルチチャンネルネットワーク)を立ち上げた。

だが、これらの新規事業が同社の販売・マーケティング費用を大幅に押し上げ、最終赤字拡大の直接的な要因となった。2019会計年度第1~3四半期の純損失は5750万元(約9億5500万円)と、前年同期の2613万元(約4億3400万円)の赤字からさらに拡大した。同時期の販売・マーケティング費用は1億5800万元(約26億2300万円)で前年同期比41.3%増となっており、中でも広告宣伝費、インフルエンサー関連費が大きな割合を占めた。

2017会計年度から2019会計年度第1~3四半期の主要財務データ。販売・マーケティング費用の支出が最も大きい。

目論見書から抜粋。

トップクラスのインフルエンサーの事例を再現するのが難しいことも不確定要素を増やし、経営リスクを高めるだろう。傘下のMCNになかなか芽の出ない新興インフルエンサーが大勢ひしめいていることが同社の経営コストを増大させている。ここ数年、マーケティング費用の高騰とともに、インフルエンサーの育成やプロモーションに関する費用も増加している。

如涵の主力事業であるEC事業は、依然として数名のインフルエンサーに大きく依存している。巨額のコストを個人に投じていることを意味し、彼らが引き抜かれたり悪い噂を流されたりすると、企業に対する影響は極めて大きくなる。

目論見書によると、2018年12月31比時点で同社は約113人のインフルエンサーと契約している。KOLのトップ3人の年間GMVは1億元(約16億6000万円)を超え、続く上位7人の年間GMVは3000万元(約4億9800万元)から1億元(約16億6000万円)の間となっている。

如涵が契約するインフルエンサーのGMV貢献度。トップ3人の比率が最も大きい。目論見書から抜粋。

インフルエンサー業界全体をみる限り、如涵の課題は均衡を欠く収益構造だけではない。「Tik Tok(抖音)」、「小紅書(RED)」、WeChat(微信)など複数のソーシャルコミュニティでマーケティングを行うインフルエンサーが若者とブランドからの注目を集めつつあり、業界では競争がかなり激化している。また、こうした新たなソーシャルプラットフォームでは、「一世代上」にあたるEC業界のインフルエンサーは力を思うように発揮できていない。

大きな課題はあるものの、同社には依然として強みがある。ECとコンテンツの結合は業界の趨勢だ。マーケティングを行うインフルエンサーはショートムービーやライブ配信など動画コンテンツの制作と着想に長けている。一方、EC業界のインフルエンサーは生産や売買など各プロセスでの専門性が高く、多少なりともサプライチェーンなど複雑な生産の流れに触れたことがあり、プラットフォームとも販売面で関わった経験を持つ。

ビジネスモデルを転換するも、新たな局面を迎えられなかったばかりか赤字に転落し、如涵の「インフルエンサー活用ECの上場第一号」という栄光は徐々に色あせつつある。同社が劣勢を挽回できるかどうかはこれからの一挙手一投足によって決まるだろう。(翻訳・池田晃子)

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