アフリカの携帯市場を制覇した中国「伝音」、同国に注力しすぎない理由

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「伝音科技(Transsion Holdings)」という深センに本社があり、上海証券取引所に2019年9月に上場したスマートフォンメーカーがある。同社の2021年の携帯電話(スマートフォン含む)出荷台数は1億9700万台、シェアでは12.4%で世界3位、スマートフォンでは6.1%のシェアで世界6位となる企業だ。中国では展開せず、東南アジアからアフリカで展開している。アフリカのスマートフォン市場ではシェアは40%余りで首位となっているほか、パキスタンでもシェアは40%余りで首位に、バングラデシュではシェアは20%余りで2位、インドではシェア7.1%で6位となっている。伝音というと、アフリカ市場を開拓したアフリカ進出を代表する中国企業という認識が一般的だが、また南アジアでもシェアがある企業だ。

同社は伝音あるいはTranssionというブランド名で製品を販売しているわけではない。スマートフォンやフィーチャーフォンでは、 「TECNO」「itel」「Infinix」という3ブランドで展開しているほか、ブルートゥースイヤフォンやスマートウォッチなどの「oraimo」や、テレビや白物家電などの「Syinix」というブランドを展開している。筆者がいくつかの国で同社製品を見たときにはTECNOとitelとInfinixは別々の会社がリリースしているような印象を受けた。

アフリカ大陸は数多くの国からなり、これを一括りに考えるのは雑なのを承知で同社展開のアフリカ市場を概略として紹介したい。まず人口は約13億人という中国やインド並の人口を抱えていて、しかも2050年にはサハラ以南の人口が倍増すると国連は予測する。そしてインターネットユーザー数は5億2000万人だ。となればアフリカ市場はこれから大きく伸びそうだが、同社の22年第1四半期の売上は前年同期比1.75%減少となった。足踏みの背景には何があるのか。同社の展開から見えるアフリカのIT現状を読み解いていく。

まず同社の強みを紹介する。同社はただ部品を組み立てているだけでなく、アフリカ市場で受け入れられるための研究開発をしている。同社は上記のようにアフリカや南アジアなど気候が暑い地域で展開しているため、同社製品は「暑さ対策」を行っているのが特徴だ。

まず利用者の肌が平均して黒く、色白の人に比べて色黒の人は顔認識されにくいという課題があった。これを同社は目と歯に注目するAIを開発して解決した。また頻繁な停電があることから低コストの高圧急速充電技術と待ち受けがアイドル状態のバッテリー低消費技術を開発した。朝晩の気温差が大きく、暑いという課題に対し、汗に強い素材とコネクタを用意した。さらにアフリカにおける消費者の購買力はまだまだ低い。IDCのデータによれば、2021年第4四半期におけるアフリカの200ドル以下の携帯電話の市場シェアは81.1%に達しているという。経済力が弱い人たち向けに、同社はフィーチャーフォンとスマートフォンともに同業他社よりも大幅に低価格で発売している。

同社の不調の一因は新型コロナによる物流への影響もあるが、加えてアフリカでのニーズが既に頭打ちということもある。

なぜ市場が拡大しないのか。スマートフォンが手に届く価格となり、インターネットが充分に高速で通信費が安ければサービスも普及し、モバイルインターネットのエコシステムはできあがるというもの。しかしネットワークについては3Gがメインで4Gは普及しておらず、2022年になって続く2Gを4Gが追い越すか否かくらいの状況だという。各国の通信事業者が4Gインフラに消極的で、当分は3G回線を使う前提の環境が続くと予想する。回線速度が遅ければ、利用しようとするサービスも限られてしまうことからスマートフォンの魅力も半減してしまう。フィーチャーフォンからスマートフォンへの移行はスローペースで、移動通信関連の業界団体GSMAによれば、サハラ以南でのスマートフォン普及率は48%から2025年には64%まであがると予測している。

こんな理由もある。通信事業者は数多くあり選択はできるのだが、各社の信号が不安定で通信通話料金が高く、1枚のSIMカードでは消費者のニーズに応えられず、複数の電話番号を所有するユーザーが多い。デュアル以上のSIMカードスロットを揃えないと消費者は満足しないのだ。

このようにインターネットインフラが不十分だとネットサービス利用も消極的になろう。同社のカスタムOS「Transsion OS」をベースに、アプリストア、ゲーム、広告やユーティリティーなど付加価値を追加しているが、2021年の段階でTranssion OSのユーザーは2億2800万となっている。この数はこれまで伝音製品のスマートフォンを購入し使ったユーザー数(2台持ち以上の重複を含む)といえる。アプリでは同社スマホにプリインストールされているアフリカンミュージック・ストリーミングアプリ「Boomplay」が特に人気でMAUが6800万人となっている。このBoomplayというのは、伝音科技と「網易(ネットイース)」の合弁企業である「伝易(Transsnet)」がリリースしている。Boomplayを筆頭に他のいくつかのMAUが数千万級のアプリがある。

MAUが数千万というのは日本の市場と比較すればなかなか多いと感じるかもしれないが、各サービスで数億単位のユーザーがいる中国やインドの市場と比較すると最大で6800万というのはあまりに少ない。

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さらに電力インフラが不十分という問題も同社を足踏みさせている。アフリカのテレビ普及率は40%で、洗濯機や冷蔵庫やエアコンの普及率はさらに低い。13億人市場のブルーオーシャンに家電企業が安くてそこそこな製品を投入すればよさそうだがそうもいかない。送電網の普及率が30%を超えている国はアフリカの6分の1にすぎず、ほとんどの国は10%未満だという。サハラ以南のアフリカで電気が通ってない場所で暮らす人々がまだ約6億人もいるという中、家電製品の普及率を大幅に高めるには国のインフラ構築を含めた長期的なプロセスになる。

つまりアフリカの電力インフラや通信インフラが不十分なため、スマートフォン市場が中国のように拡大するということや、中国家電が多くの家庭に行き渡るということは、現時点では期待できない。伝音自体はアフリカで業務展開するだけでなく、南アジアなどにも地域展開することで売上を伸ばしていく。アフリカで最も支持を得ている伝音がそうなのだから、同国で展開するスタートアップも中国のような拡大を見込むのは難しそうだ。

(作者:山谷剛史)

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