カナダ生まれのカフェチェーン、中国で第2のスタバ目指す。赤字出しながら急成長

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カナダ発カフェチェーン大手「Tim Hortons(ティムホートンズ)」の中国法人(以下、ティムズ中国)の上場計画に進展があった。

特別買収目的会社(SPAC)「Silver Crest」が8月18日に開いた臨時株主総会で、同社とティムズ中国の合併および合併による新会社の上場計画が承認された。これに先立つ7月20日、米国証券取引委員会(SEC)は同社とティムズ中国との合併が有効だと発表していた。合併による新会社はティッカーコード「THCH」および「THCHW」で米ナスダック市場に上場する予定だという。

ティムズ中国は今回、SPACとPIPEsを組み合わせる比較的目新しい上場方法を採用した。

SPACとは「Special Purpose Acquisition Company」の略称で、未公開企業との合併・統合を目的に設立される上場企業を指す。投資会社はまず、事業実体を持たない新会社を設立し、投資家から資金を募って上場させる。通常は上場後2年以内に未公開企業と合併・統合し、未公開企業を間接的な形で上場させる。

PIPEsとは「Private Investment in Public Equities」の略称で、投資会社による上場企業の私募増資引き受けを指す。投資会社は市場価格を下回る価格で上場企業の株式を取得できる。

SPACとPIPEsの組み合わせを選択したことからは、ティムズ中国が上場を焦る気持ちが透けて見える。同社は3月にエクイティファイナンス(新株発行による資金調達)を実施した後、上場時のバリュエーション(企業価値評価)を3億ドル(約420億円)近く下方修正していた。

北京に拠点を置く投資銀行「香頌資本(Chanson Capital)」の沈萌・執行董事は、米市場でのSPACブームはすでに去り、中国カフェ市場の競争も激化しているため、投資家はティムズ中国の評価で慎重になっていると指摘。バリュエーションの下方修正によりSPACとの合併協議がまとまりやすくなったとの見方を示した。

ティムホートンズは中国に進出して以降、中国カフェチェーン大手の瑞幸咖啡(ラッキンコーヒー)と比較され続けてきた。ティムズ中国はラッキンのような成長神話を紡いでいけるのだろうか。

テンセントの支援で急成長

ティムホートンズは1964年、北米プロアイスホッケーNHLの選手だったティム・ホートンが創業し、カナダのオンタリオ州ハミルトンに1号店をオープンした。現在はカナダ国内でのシェアが米スターバックスの9倍以上となっている。

同社の親会社「Restaurant Brands International (RBI)」と米投資会社「Cartesian Capital Group」は18年、ティムズ中国を共同設立した。翌19年にはティムホートンズの中国1号店が上海の人民広場にオープン。世界4850店舗目のティムホートンズとなった。

ティムズ中国は、コストパフォーマンス戦略を中国市場にも適用。商品価格はカナダよりもやや高めだが、中価格帯の15〜30元(約300〜600円)に設定した。自社専用のセントラルキッチンを設け、フードメニューも提供している。

ティムホートンズのメニュー(公式サイトより)

19年当時、業界の関心はスターバックスとラッキンコーヒーの競争に集中していた。挑戦者ラッキンの勢いはすさまじく、運営のデジタル化と巨額の投資で事業を拡大し、18年1月に1号店をオープンしてから1年足らずで2000店を出店した。

ラッキンは19年5月、米ナスダック市場に上場した。会社設立の17年10月から18カ月余りでの電撃的な上場だった。しかし、20年4月に売上高の水増しなど不正会計が明るみに出て、同年6月には上場廃止となった。ラッキンの成長神話はここで終わったかに見えた。

これとほぼ同時期の20年5月、ティムズ中国はIT大手の騰訊控股(テンセント)から1億元(約20億円)を超える戦略的投資を受けた。テンセントは21年2月にも追加出資している。

ティムズ中国の資金調達の過程(データは企業情報サイト「天眼査」より)

Silver Crestとの合併前の持ち株比率は、テンセントが14.9%、セコイア・キャピタル・チャイナ(紅杉資本中国基金)が11.4%、ティムホートンズが8.6%となっている。

テンセントはティムズ中国をデジタル化の面でサポートしている。消費者は、テンセントが運営するSNSアプリ「微信(WeChat)」に開設されたティムズ中国のミニプログラムを通じ、デリバリーを注文できる。21年末時点でミニプログラムの会員数は600万人に達し、直営店のデジタル化事業の売上高が全体の73%を占めた。

飲食業界に特化した調査会社「窄門餐眼」によると、ティムズ中国は22年7月時点で450店舗を運営している。1号店開店から3年半、3日に1店舗のペースで新規出店してきた計算になる。

事業拡大の一方で膨らむ赤字

ラッキンコーヒーと同様、ティムズ中国も事業拡大路線を進める一方で、赤字を拡大させていった。

Silver Crestのデータによると、ティムズ中国の売上高は2019年が5725万7000元(約11億4000万円)、20年が2億1000万元(約42億円)、21年が6億4000万元(約128億円)と猛烈な勢いで伸びている。

その一方で、純損失も急激に増加しており、19年が8782万8000元(約17億5000万円)、20年が1億4000万元(約28億円)、21年が3億8000万円(76億円)と、3年間で6億元(約120億円)を超える赤字を計上している。

目論見書では、ティムズ中国の赤字が急拡大したのは新型コロナウイルスの流行と原材料費の高騰が原因だったとしている。

ティムズ中国の決算データ(目論見書を基に作成)

ラッキンコーヒーも新型コロナの影響を受け、一時は値上げや不採算店舗の閉鎖が続いたものの、22年4〜6月期の売上高は前年同期比72.4%増の4億9300万ドル(約690億円)と大幅に増加。スターバックス中国法人の第2四半期(7月3日までの3カ月間)の売上高5億4000万ドル(760億円)にあと一歩まで迫った。ドラマのような大どんでん返しだった。

競争激化の中国カフェ市場でチャンスをつかめるか

いかに赤字が拡大しようとも、ティムズ中国は出店拡大のペースを緩めない。中国市場に進出した2018年当時の目標は「10年で1500店舗出店」だったが、ティムズ中国の盧永臣・最高経営責任者(CEO)はこのほど目標を上方修正し、「26年までに2570店舗を出店する」と強気の姿勢を見せた。

中国カフェ市場では過当競争が進んでいる。企業情報サイト「天眼查」によると、中国では22年に入って以降、カフェ運営企業による資金調達が20件以上実施された。

「咖啡之翼(Wing Cafe)」や「Seesaw coffee」などの人気カフェチェーンはもとより、「茶顔悦色(Modern China Tea Shop)」や「喜茶(HEYTEA)」などのティードリンクチェーンもカフェ市場に参入している。

2022年に実施されたカフェ運営企業の資金調達(データは「天眼查」より)

出店攻勢を強めているのはティムズ中国だけではない。マクドナルドが運営する「McCafé(マックカフェ)」の店舗数は23年に4000店を超える見通しとなっている。上海発の「Manner Coffee」は22年3月8日から10日にかけて、上海や北京など10都市で200店舗余りを一斉オープンさせた。

カフェ業界をけん引してきたスターバックスも負けてはいない。中国事業部の王静瑛・董事長は「年内に中国店舗数6000店の達成を目指す。リソースの投入と新商品の開発を継続する」と述べている。

ラッキンコーヒーが財務体制を立て直し、勢力争いの中心に復帰していることにも注目しておくべきだろう。22年6月末時点の店舗数は中国市場トップの7000店超となっている。

中国ではここ数年、カフェ需要が急速に高まっている。とはいえ、大都市圏のカフェ市場はすでに飽和しつつあり、家賃や人件費も上昇しているため、新興企業に残されたチャンスは少ない。新興企業は、最初から地方市場にチャンスを求める傾向がある。

しかし、地方市場のカフェ需要は依然として低く、今後の成長を待つ必要がある。スターバックスは地方進出計画を比較的ゆっくり進めている。ラッキンコーヒーが閉鎖した店舗も地方都市に集中している。

競争の激化が進む中国カフェ市場で、ティムズ中国が検討すべきことは多い。

(翻訳・田村広子)

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