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中国の不動産大手「恒大集団(Evergrande Group)」が自動車製造に参入してから5年、ようやく量産・納車にこぎ着けた。傘下の新エネルギー車メーカー「恒大汽車(Evergrande Auto)」が10月29日に執り行った納車イベントでは、初期に予約注文をした顧客に劉永灼総裁が自ら同社初のEV「恒馳5」を引き渡した。しかし、このところ恒大汽車ではリストラや工場売却など穏やかではない情報が続々と明るみに出ている。
新エネルギー車市場にとって、2022年はハイレベルな戦いが繰り広げられた見応えのある1年だった。10月には中国の新エネルギー車普及率が29.4%に達し、「2025年までに新エネルギー車普及率を20%に引き上げる」という目標を3年前倒しで達成した。
市場は予想外のスピードで成長を遂げている。中国新興EV御三家と呼ばれる蔚来汽車(NIO)、小鵬汽車(Xpeng Motors)、理想汽車(Li Auto)だけでなく、長安汽車(Changan Automobile)や吉利汽車(Geely)など既存自動車メーカー、さらには哪吒汽車(Neta)や零跑汽車(Leap Motor)などの新興勢力も存在感を増している。ガソリン車の生産を終了したEV大手の比亜迪(BYD)は、2022年の新エネルギー車販売台数で世界トップに上り詰めるという偉業を成し遂げた。しかし親会社の経営危機で揺れ動く恒大汽車は、生存すらおぼつかない状況だ。
リストラ・無給休暇、突然の人員整理
恒大汽車の天津工場で働く従業員の1人は、12月1日の朝、工場内に入れなくなっていることに気付いた。入口にある顔認証システムで入室を拒否されたのだ。彼が自分のグループリーダーに問い合わせたところ、そのリーダーも入れなくなっているという。同じ状況の同僚がどんどん増えてきて初めて、ようやく自分が解雇されたということを理解した。事前の通知は一切なかった。
これ以前に、恒大汽車の天津工場で従業員の6割という大規模なリストラが行われており、一部の従業員は休職になっていることをメディアが報じていた。その後、続々とリストラに関する情報が流れる。12月1日、中国各地で展開する恒馳汽車ショールームの販売スタッフが、無給休暇を言い渡されたことを明らかにした。
12月2日には、恒大汽車の本社がコスト削減のために人員整理を行い、従業員の大多数が解雇される見込みであることをメディアが報じた。恒馳の内部関係者はかつて、人員整理を行うのは全体の10%で、一部事業ではさらに高い割合になる可能性も認めたほか、従業員の25%が1~3カ月の無給休暇となると語っている。
恒大汽車の経営難はすでに表面化しており、息をつなぐため急激なスリム化にかじを切った格好だ。
100万台の目標にはほど遠く
恒大汽車は自動車製造のために3年間で450億元(約8500億円)を投じ、2025年に生産販売量100万台を実現するという目標を掲げていた。統計によると、2021年上半期の時点で恒大汽車が投入した資金はすでに500億元(約9500億円)を超えたという。自動車1台を製造するには1万個以上の部品が必要なため、恒大汽車も国内外のトップサプライヤー200社から部品を調達していた。
しかし自動車製造は部品を集めて組み立てればいいというものではない。恒大汽車は自動車製造を甘く見すぎていた。
恒大汽車の幹部が「30万元(約570万円)以下では最高のSUV型EV」と評した「恒馳5」は、納車直後からセンターモニターの文字が重なる、実際の航続距離がカタログより少ない、運転支援機能が使えない、エアコンから温風が出ないなど、さまざまな問題が露呈している。
恒馳5は10月に100台が納入されただけで、それ以降は音沙汰がない。同モデルを購入予定だった人たちの多くもしびれを切らしている。恒馳5を注文したある顧客は「恒馳を予約したものの、いつまでたっても納車されないし、納車時期も知らされない」と不満を口にする。最終的にこの人物は予約を取り消したという。
長城汽車(Great Wall Motor)や比亜迪などの生産ラインの場合、通常は24時間体制で稼働し、従業員は2交代制か3交代制で作業にあたる。しかし恒大汽車の天津工場で働く従業員の話では、時おり夜の残業があるものの24時間体制ではなく、交代勤務もないという。「生産能力は十分に活用されておらず、リソースが無駄になっている」。
3万7000台以上を受注したという恒馳5だが、不安材料がこれほど次々に明らかになれば、支持してくれていた消費者も離れていくだろう。十分なアフターサービスを受けられるか分からない車を誰が買いたいと思うだろうか。
巨額の損失で身動き取れず
短期的に見て、恒大汽車が単独で採算をとって自立する見込みは皆無に等しい。2022年に10万台を納車した新興EV御三家でさえ巨額の赤字にあえいでいる。22年第1~3四半期に蔚来は86億元(約1600億円)、小鵬が68億元(約1300億円)の赤字となったほか、蔚来の第3四半期の損失額は41億元(約780億円)と、四半期ベースで過去最悪となった。利益率を厳格にコントロールしている理想ですら、上半期は6億5000万元(約123億円)の損失を計上している。
恒大汽車も赤字が続いており、2018年から2021年上半期までの損失額は総額200億元(約3800億円)を超える。経営を安定させるには外部から資金を注入し続けるほかない。親会社の恒大集団は資金調達のために自動車事業の売却も考えていた。恒大集団は21年8月に「当社傘下の資産の一部売却について、複数の外部投資家と協議している」ことを発表した。この傘下の資産には恒大汽車も含まれる。
恒大汽車が売却されるとの情報はこれまで何度も報じられてきた。直近では、広汽集団が恒大汽車の広州市南沙区にある生産工場を買い取るといううわさが流れたが、広汽集団は即座にこれを否定している。現時点で、恒大汽車に資金援助できる唯一の存在である親会社の恒大集団も、自身の経営危機で手一杯だ。
自動車関連の情報サービスを提供する太平洋汽車(PCauto)が得た情報によると、現在も恒馳の資金調達に関して大きな進展はなく、サプライチェーン・ファイナンスや設備を担保にした資金調達なども検討してはいるが、難航しているという。
恒大汽車が待ち望む救世主はいつになったら現れるのか、誰にも見通せない。
(翻訳・畠中裕子)
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