“公務員採用は35歳未満”、中国速度が生み出した消費と「35歳クライシス」とは

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中国の変化は激しい。その変化を実現した背景のひとつに「35歳クライシス」がある。この年齢を境にプロとしても消費者としても一線から退く。新しいサービスや新しい商品が続々と誕生する一面を見れば魅力ある場所に見えるが、実は35歳で相手にされなくなり残酷だ。

まず市場の「35歳クライシス」を見てみよう

「対象客層は35歳以下の若者」

「35歳未満の消費者の割合は徐々に増加」

「新たな目標は、35歳未満の消費者向けに革新的な製品開発と相応な宣伝を行うこと」

スタートアップ企業の紹介文ではこんな文言がしばしばみられる。言い換えれば多くの起業家が35歳以上、もっと言えば35~60歳の人々をターゲットとしていない。スタートアップだけではなく、上場企業の年次報告書や各種調査報告書でも同様で、多くのレポートで「35歳」というキーワードがあり、35歳未満の人をターゲットとして研究し、35歳以上の人をないがしろにしがちだ。

35歳以上の購入力はないのだろうか。入社したての20代前半よりも30代前半のほうが組織で働く限り収入は上だ。ただ新製品となると中年のほうが経験や理屈で購入する衝動を抑えがちなので財布のひもは緩まず、自然と新しいものに興味を持ち、食いついてくれる35歳未満の人々をターゲットにする。最新トレンドの情報がよく配信されるSNS「小紅書(RED)」の86%は35歳未満で、中国の化粧品売上成長の寄与率の7割を15~35歳が占め、電子ブックにしてもモバイルゲームにしても35歳未満のプレーヤーが多数派だ。

結婚を機に家や車を買わなければいけなくなる人もいる。子供ができれば養わなければならないし、コストをかけていい学校やいい土地に住みたくなる。

ところが中国では35歳をピークに年齢とともに賃金が下がり始める。35歳以上で切り捨てられるとなると、それまでと同じ金額のペースで養い続けることは難しくなる。日本や米国ではこうではなく当の中国も20世紀はこうではなかった。過去20年で中国は産業構造と労働者の教育レベルの急速な変化により、労働力価値の最高点が前に移動して、35歳の境界線ができあがったのである。

次に労働力から「35歳クライシス」を見てみよう

中国で最もよく知られているものでは公務員採用において応募者は「35歳未満」が条件だ。四川大学が求人広告を10年間にわたり30万件調査したところ、上海では80%以上、成都では70%以上の民間企業の求人において、応募者に対して35歳未満という条件をつけている。

ネット企業は花形産業だが、それでも従業員が35歳までに昇進して管理職か役員になれなければ解雇されるという話は無数にある。フリーランスならば問題ないかというとそうでもなく、ライブコマースなどを行うライバーの年齢に関する統計では、35歳以上になるとそれ以前と比べてぐっと減り僅か数パーセントまで落ちこむ。転職を余儀なくされる人々もいることもあり、平均値として35歳が賃金の頂点となる。

中国の第7回国勢調査(第七次全国人口普査)によると、35歳未満の雇用人口の割合が最も高いのは、ネット、エンタメ、金融各産業だ。これらは新しいことを学ぶ若い世代の力が発揮できる産業といえるだろう。雇用者数が最も多い製造業でさえ、電子機器や機械や自動車や医薬品などのあらゆる製造においてIT化の波がありIoTをラインに導入して生産効率を高めている。したがって高度製造業の就業人口もやはり35歳未満の割合が高い。

中国は変化の速度が速いと言われるが、産業構造の変化があれば若者に有利に働く。さらに中国では1998年以降、大学卒業者数は年々急速に増加し、新しい世代の労働者の平均教育レベルは前の世代を急速に上回っている。35歳以上の労働力をばっさり捨てるといえる環境にあるのは、このように以前より優秀で新世代の労働力の供給が十分すぎるほどあるためだ(一方で若者のメンタルが弱すぎてすぐやめるという問題は別にある)。

35歳以上の人々がずっと無職で仕事にありつけないわけではない。変化の乏しい業界で働く人もいれば、配車サービスのドライバーなど新たなネットサービスを活用する人もいる。アリババを創業した馬雲氏は35歳でECを開始し、シャオミを創業した雷軍氏は40歳でスマートフォン事業に参入するなど、起業する人もいる。

つまり過去30年間に中国人は豊かになり、「中国スピード」で産業構造やトレンドが変わって必要となる職業が変化し、教育を受けた若年労働力が急増したことで、労働としても市場としても35歳以上が切り捨てられる世界でも稀な「35歳クライシス」ができたのだ。逆に言えばこのような事情から、中国にはいろいろな製品やサービスがあるように見えて、中年を狙った新しいサービスや製品は少なくブルーオーシャンであり、また35歳以上の在野の技術者が多くいるわけだ。

(作者:山谷剛史)

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