水面下に眠る新興企業を掘り起こす「真格基金」、起業天国の深圳に新拠点設立

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アーリーステージの企業600社以上に投資を行ってきたファンド「真格基金(Zhen Fund)」が7月、深圳にオフィスを開設した。2011年に北京で設立された同ファンドは、IoT、モバイルインターネット、ゲーム、O2O、Eコマース、教育などの分野で見込みある企業を見出し、オンライン英語学習サービス「VIPKID」やソーシャルEC「小紅書(RED)」などを育てた。創業者の1人である徐小平氏は、米経済誌フォーブスの「Midas List(最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング)」に2016年から連続で入選している。

しかし、過去2年間、中国の投資市場ではスーパー・エンジェル・ファンドが手がける案件が増えており、真格基金が発掘した企業や起業家も、すでに投資の好機を逸しているケースが目立ち始めた。投資戦略を転換し、独自の価値を見直す必要に迫られた真格基金は、ネットワークを再編し、より起業家たちに近い立ち位置を模索している。「起業前の起業家」にアクセスする必要すら感じているようだ。

「第二のDJI」は逃したくない

深圳は、コンシューマー向けドローン世界最大手「DJI(大疆創新科技)」を生み出した土地だ。「深圳から第二のDJIが生まれたら、決して見逃すことはない」。真格基金CEOの方愛之氏はこう断言する。

深圳オフィスを新設したとはいえ、真格基金はこれまでも華南地区のプロジェクトを手がけてきた。累計出資額も北京、上海に次いで多く、出資総額の10%にあたる5億元(約77億円)を投じてきた。代表的なプロジェクトでは、コスメブランド「完美日記(PERFECT DIARY)」や顔認識技術を中核としたAI企業「雲天励飛(intellifusion)」、電子タバコブランド「MOTI」などがある。

深圳の拠点が重視する分野は二つ。一つは「消費財ブランド」だ。華南地区はP&Gの中国法人がある影響で、P&G出身者が興した企業も少なくない。また、若い労働力が集まっていることもあり、ライフスタイルを重視する若年層が多い。もう一つは「先進テクノロジー」だ。ファーウェイ、DJIなどの本拠地であることからも分かる通り、最先端のテクノロジーを活かした製造業が盛んな土地柄である。真格基金は市場規模が大きく、成長に勢いのあるプロジェクトを探し求めている。

方CEOの流儀は「即断即決」だ。魅力的な起業家を見つけたら、数日以内に実際に会う。翌週には会議で立案し、その1時間後には出資を決める。アーリーステージへの出資はスピードが肝腎で、のんびりしていると他の投資家に機会を奪われてしまう。

真格資金が深圳で発揮できる強みは何だろうか?

実は、深圳にはアーリーステージを対象とした投資家が少ない。現地で活動するエンジェル投資家・投資機関があまり活況でないことと、外資系投資機関は北京や上海への進出を優先し、香港に近い深圳はノーマークになっているケースが多いからだ。そのため、真格資金の専門性と独自の視点が深圳で存分に発揮されることが期待される。

深圳には起業に向く土壌があり、すでに4万6000社のベンチャーキャピタルが存在する。同市南山区には上場企業が148社あり、エレクトロニクス、IT、新エネルギー、新素材、バイオテクノロジーなどの新興技術企業が集まっている。彼らを支援するため、真格基金は起業家を守る。また、出資条件を簡潔にし、意思決定が速く、入金も速い。現地企業家に多くの選択肢を提示することも心がけている。

真格基金深圳オフィスの開業式典で。右端が創業者の徐小平氏、右から2番目が方愛之CEO

着目点の転換

真格基金が優れた事業プロジェクトを評価する際、これまではCEOと組織の完成度を入念に見定めてきたという。また、現在は出資の対象を「優れたドライバー」と「若き天才」に絞っている。

「優れたドライバー」とは実戦経験が豊富な人材、「若き天才」とは学術面で優れた実績を残してきた年若い技術系人材を指す。創業当時はITに明るい人材がほとんどいなかった事情もあって、留学経験者や名門大学出身者をターゲットとしてきたが、時代は変わり、知識よりも一産業分野にじっくり取り組んできた経験を重視するようになった。現在はキャリアを積んだ起業家が評価される傾向にあり、方CEOはこうした人材がまだ大企業に多く眠っているとみている。

投資機関の競争が激しさを増した現在、「水面から顔を出している」新興企業は誰の目にも留まるうえ、すでに多額の出資を必要としている。そこで、ネットワークを研ぎ澄まし、まだ水面下に眠る新興企業をすくい上げることが重要になる。真格基金が目指すのは、その企業にとって初めての出資者になることだ。

従来は「人を見る」ことを重視してきたが、最近では業界研究にも重きを置くようになったという。2カ月前から社内で実施している、25人のベンチャーキャピタリストによる定例ミーティングがその一例だ。週1回集まって、それぞれが注目した業界について発表しあう。また、月2回はテーマを決めて勉強会が開かれるという。テーマはSaaS、次世代生鮮食品産業、ショート動画、ライブコマースなど多岐にわたる。

業界研究を強化した背景には、昨年の1月、旧正月前後の多忙なスケジュールを理由に一つの出資案件を先送りし、競合に奪われてしまった経験がある。現在開催している定例ミーティングは、その時々に注目すべき動向へベンチャーキャピタリストたちの目を向けさせる効果を狙っている。

メンバーを「信頼すること」が大事

新しいテクノロジーは往々にして、小さな組織から生まれる。小さな組織こそ、誰も取り組んでこなかった分野で画期的なイノベーションを起こす可能性がある。それができなければ、彼らは生き残れないからだ。ハイリスクな投資プロジェクトではあるが、エンジェルの支援を最も待ち望んでいるのはこうした組織だ。

こうしたプロジェクトの獲得に向けて戦略の軌道修正を図る真格基金だが、根幹は何も変えていない。方CEOによると、定例ミーティングを開催するようにはなったが、現在でも各メンバーの自主性を重んじ、細かな業務内容には干渉していないという。

「メンバーを監視するのではなく、信頼することだ。我々のカルチャーは若い人材の能力を信じることにある」と方CEOは述べている。
(翻訳・愛玉)

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