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米コーヒーチェーンのスターバックスが中国でライブコマースに乗り出した。だが、画面の向こうにいるのはブラックエプロンを身に着けたバリスタではない。人気インフルエンサーの薇婭(viya)だ。
薇婭は大手ECタオバオ(淘宝網)傘下のライブ配信プラットフォーム「淘宝直播(タオバオライブ)」で、ナンバーワンの人気を誇るライバー(ライブ配信者)だ。スタバが彼女を選んだ理由を推測するのはさほど難しくない。つまりは新たな顧客層に訴えるためだろう。スタバがアリババ傘下のECサイト「天猫(Tmall)」に出店する公式ショップのフォロワー数は268万だが、薇婭のフォロワー数は674万人とスタバの2.5倍以上だ。とはいえ、スタバのこの動きには多少の違和感も覚える。
この1年のスタバの変化
スタバは今年、中国市場で十分過ぎるほどさまざまな試みを行っている。今年5月末には中国事業を再編し、「小売」と「デジタルイノベーション」の2部門に分割。これはECを中心とするデジタルイノベーション事業を、同社がこれまで重要視してきた店舗事業と同等の位置づけで展開していくことを意味していた。
中国でデジタルイノベーションを成功させるのは簡単ではない。ライブ配信、ショート動画、アプリ、顔認証決済、高額のクーポン――。新たな手法やプラットフォームが次々に誕生し、中国の消費者、特に一、二線都市の消費者は感覚が磨かれている。一方で、中国の消費者は極めて移り気であり、彼らは常に新たな消費財ブランドを視界にとらえている。スタバが消費者のロイヤルティを得るためには、変わりつつある時代に対応することが不可欠だ。
薇婭を起用してライブコマースに乗り出す。これほど変革を印象づける取り組みは他に見当たらないだろう。スタバはデジタルイノベーション分野で、ついに中国の同業他社の先頭に躍り出た。
ライブコマース進出の真の狙いは
薇婭は9月16日午後8時半から9時までの30分間、スタバ商品を販売するライブ配信を行ったが、彼女が取り上げたほとんどの商品があっという間に売り切れた。彼女はバックヤードに商品追加の可否を何度も確認していたが、やりとりを見る限り、スタバ側は意図的に数量を抑えていたように思えた。
スタバの慎重な姿勢は価格面でも見受けられた。グッズの割引率は控えめで、例えば単価が高いステンレスボトル(335ml)は定価265元(約4000円)のところ、229元(約3400円)で販売された。一方、飲料は割引率が大きく、抹茶ジャバチップフラペチーノは店舗での販売価格が1杯38元(約570円)のところ、2杯で72元(約1080円)、さらに2杯分の無料チケットがつき、実質的には「1杯の注文でもう1杯サービス」よりも割安となっていた。
薇婭が取り上げる他社製品の割引率には見劣りするものの、これほどの割引はスタバが中国に進出して以来、初めてのことだ。ライバーの世界では「オンライン上最安値」が大きな肩書になる。薇婭は高い人気を誇り、最低価格を実現できるライバーの一人だ。スタバの飲料の割引率も彼女の名声に見合ったものだと言えるだろう。
とはいえ、販売数量の面でもこの日の数字はそれほど大きなものではなかった。スタバの真の狙いはどこにあるのか。
スタバはライブコマースを通じて前例のない割引に踏み切った。グッズ購入者の大半はスタバをすでに知っていると考えられるため値下げ幅は小さかったが、実際に来店するか、デリバリーしてもらわなければ購入できない飲料に関しては、大幅な値下げを敢行した。潜在顧客に来店のアクションさえ起こしてもらえば、価格にうるさい彼らもサービスや味を気に入る可能性がある。そしてこれこそが、スタバの競争優位性でもある。
淘宝直播でナンバーワンの人気を誇る薇婭は、女性消費者の代表とみなすことができるだろう。また、彼女を起用することで、ある程度は低価格市場の開拓につながりそうだ。スタバがライブコマースに乗り出したのは集客と消費者の声の収集が目的であり、天猫公式ストアのアクティブ度や話題量、オンラインとオフラインの連携を強化することが真の狙いだと考えられる。
(翻訳:池田晃子)
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