Netflix話題作「アメリカン・ファクトリー」から中国メーカー海外進出の課題を読み解く 

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オバマ前大統領夫妻が米動画配信大手Netflixとともに製作に携わったドキュメンタリー映画「アメリカン・ファクトリー」が話題を呼んでいる。

映画の舞台は中国自動車用ガラス大手「福耀玻璃集団(Fuyao GROUP)」が10億ドル(約1070億円)を投じて建設した米オハイオ州のデイトン工場。福耀は、かねてから「低賃金」問題の標的となっていた。映画では、従業員の時給が2008年には29ドル(約3120円)だったが、2018年には14ドル(約1500円)に半減したと語られている。

だが、米国の平均時給が、2008年は12.23ドル(約1310円)、2017年は14.63ドル(約1570円)だったことには触れられていない。

2003-2017米国平均時給(データ出典:Statista)

映画は、労使関係を軸に中国と米国の文化摩擦を描いている。だが、福耀が米国に工場を設立した経緯などについて触れておらず、同社の米国における全体的な状況は明確に描かれてはいない。

投資のカギは市場との近接性とコスト削減

福耀グループは市場との近接性とコスト削減に主眼を置いて工場建設に投資している。
デイトンから車で3時間の範囲には、ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード、ホンダなど有名自動車メーカーの組立工場がある。同社は、効率や物流コストなどを考慮し、工場と川下の顧客との地理的距離をできる限り短くしている。

同社は海外に工場を建設する際、コスト面も重視している。だが、中国企業が海外に工場建設をする際に、生産コストを正確に把握するのは難しい。中国市場でのシェア70%以上を誇る福耀の目標はグローバル・サプライヤーになることだ。同社は飽和しつつある国内市場から海外へ生産機能を拡大している。海外に進出する際、コストは生産能力に関わる各種要素と合わせて検討すべき問題で、地元政府が外資企業誘致にどの程度力を入れているかにも大きく左右される。

デイトン工場の設立にあたって、地元政府は福耀に対し、土地使用料や納税に関する優遇措置を取った。同社董事長の曹徳旺氏は、デイトン工場は2017年までに、少なくとも4000万ドル(約43億円)以上の助成を地元政府から受けたと公表している。

中国系企業が海外工場建設で抱える課題とは

福耀に次いで大きな影響力を持つのは、フォックスコン(富士康)が2017年に始動したウィスコンシン州での液晶パネル工場建設プロジェクトだ。同社董事長の郭台銘氏は、同プロジェクトに100億ドル(約1兆円)以上を投じ、1万人以上の雇用を創出すると表明。これを受け、地元政府は最大限の優遇措置を講じるとした。米メディア「ザ・ヴァージ(the Verge)」によると、15年間で最大30億ドル(約3200億円)の補助金提供が提示され、その額は最終的に45億ドル(約4800億円)に引き上げられた。2018年6月の起工式にトランプ大統領が出席したこともあり、同プロジェクトへの注目はピークに達した。しかし、補助金額の大きさや政府の支払い能力に対する懸念が、政界の論争を呼ぶことになった。

フォックスコンは、工場用地取得に難航し、環境保護のプレッシャーに直面し、サプライチェーンの整備などにも課題を抱えている。環境保護関係者からフォックスコンの工場が五大湖周辺の環境を汚染するとの指摘を受け、同社はニューヨーク州に建設を計画していた関連工場に対する十分な優遇措置を受けられなかった。現在、工場の生産計画は縮小され、建設も順調とは言い難い。工場の建設における本当の問題は、市場環境や政策の変化がもたらす不確実性にあるといえよう。

今後の課題はコンプライアンスの向上

ここで「アメリカン・ファクトリー」でも描かれた労働組合の設立に話を戻そう。福耀は先ごろ、複数項目の安全規定に違反し、米国労働安全衛生局(OSHA)から72万5000ドル(約7800万円)の罰金を科せられた。同社はこれ以前に、OSHAの罰則により数百万ドル(数億円)を追加投資して工場の安全管理を強化している。

中国系企業が海外進出する際には、自国とは異なる法律や企業文化と関わりながら、監督機関からこうした罰を受けないようにすることが課題となる。中国系企業の残業文化やショートカットを好むやり方、ルールを重んじない姿勢は海外の法律にそぐわない。映画にも示されているように、このことが原因で同社は代償を支払うことになった。当然、福耀も現地に適応しながらコンプライアンスに取り組んでいる。中国系企業の大規模な海外進出は2010年前後に始まったばかりだ。現地に適応したコンプライアンスを実現する道のりは、まだ長い。
(翻訳・田村広子)

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