シェアリングエコノミーで二度もつまずいた孫正義氏 損失を挽回できるか

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9月末の数日間、ソフトバンク総裁孫正義氏は苦しい日々を過ごしていたに違いない。9月30日、コワーキングスペースWeWorkを運営するThe We CompanyがIPO目論見書の撤回を宣言し、その後正式にIPO申請を取り消す手続きに入ったのだ。

The We Companyは昨年上場へ向けて動き始めたが、その評価額は470億ドル(約5兆円)から下がり続けている。目論見書を提出する時点で、すでに150億ドル(約1兆6000億円)にまで下がっていた。しかも下がる可能性がある。

ソフトバンクと傘下のソフトバンク・ビジョン・ファンドは2017年以降WeWorkとThe We Companyに総額110億ドル(約1兆2000億円)近く投資している。WeWorkに投資した当初、ソフトバンク内部では反対の声が大きかった。孫正義氏は周囲の反対を押し切って投資したが、IPO目前のWeWorkにはスキャンダルが続出しており、孫氏のメンツは丸つぶれとなった。これは孫氏にとって、今年二度目のつまずきになる。

「シェアリングエコノミー」の落とし穴

孫氏は「シェアリングエコノミー」に情熱をもって投資している。WeWorkに投資している時期、ソフトバンクはライドシェアプラットフォームUberに対しても77億ドル(約8300億円)を投資している。Uberが今年5月に上場する前、ソフトバンクはさらに10億ドル(約1071億円)を追加投資した。

しかし、孫氏は、Uber上場当日の初値が公募価格を下回ることは予想できなかっただろう。Uberの評価額は公募価格で換算すると754億ドル(約8兆円)だったが、現在の時価総額は540億ドル(約5兆8000億円)にまで下落している。UberとWeWorkの2社は「シェアリングエコノミー」分野に属するユニコーンで、創業以来今日まで10年が経過しているが利益はほとんど出ておらず、損失が拡大する一方だ。

インターネットで拡大するシェアリングエコノミー

「シェアリングエコノミー」は2008年、グローバルな経済危機を背景に登場したビジネスモデルだ。人々が有効活用されていない資産をシェアすることで収入を得ようとしていた時期に、スマートフォンや3Gモバイルインターネットが普及し、誰もが手軽にシェアできるようになった。

WeWorkとUberの成長の道筋は似ている。ライトアセットのビジネスモデルで市場に参入し、インターネットで利用客を囲い込み、大きな資金を投入して急速に規模拡大した。Uberは100以上の国と地域に進出し、電動バイクやヘリコプター等のライドシェアやフードデリバリーなどの新しい分野を開拓し続け、より広いエコシステムを構築している。さらに、無人運転の研究にも大量の資金を投入している。

WeWorkの拡大速度はやや遅いが、32の国と地域で事業を展開している。事業内容はシェアオフィスから、シェアスタジアムや体育館、学校とアパートの賃貸などに広がり、人事と財務会計管理などの新事業も手がけている。

「シェアリングエコノミー」ユニコーンの底なしの損失

しかし、今、2社とも底なしの損失を抱えている。

2019年上半期におけるUberの損失は大幅に増えている。データ提供元:中信証券

Uberの損失の原因は2つある。

一つ目は市場拡大のため、巨額の補助金を出してきたことだ。2015年、Uberは中国市場だけでも10億ドル(約1070億円)の補助金を投じている。補助を止めれば、ライドシェアはその料金における一般のタクシーに対する優位性を失ってしまう。

二つ目はUberが既存のタクシー会社の利益に抵触することだ。タクシー業界のストライキと抗議は今日まで絶えることが無く、さらには管理監督当局の介入を招いた。現在でもUberはニューヨークのマンハッタン地区の業務において制限を受けている。

WeWorkの損失の原因についてみてみよう。原因の一つは、WeWorkのビジネスモデルの資金に対する需要が大きいからだという。もう一つの原因はWeWorkの目論見書に示されている通り、米国経済が明らかに衰退の様相を見せており、スタートアップ企業むけの短期賃貸が停滞しており、収入の下落を招いていることだ。

これらの原因について、「老虎証券(Tiger Brokers)」の分析チームはこう説明している。

最大の原因は2社とも経営の前途が明確になっていないことだ。利益、キャッシュフロー、成長のビジョンのうち少なくとも一つを明確にする必要がある。さもなければ投資家を引き付けることはできない。第二の原因はシェアリングエコノミーは多くの業界においてまだなじみが薄く、市場シェアが不安定で大量のリソースを投入しなけれは運営と維持が難しいことだ。最後にシェアリングエコノミーの技術的なイノベーションはサービスのイノベーションより小さいので、限界費用を下げることができない。

シェアリングエコノミーの将来性

シェアリングエコノミーにおいて、今日まで成功者がいないわけではない。ネットで民泊を仲介するAirbnbは成功例の一つだ。このシェア民宿プラットフォームは当初からFacebookとLinkedInというソーシャルメディアを利用してマーケティングを行ってきた。これで補助金に費用をかけずに市場をつかみ、資金はサービスの向上と市場拡大に集中することができる。現在その評価額は350億ドル(約3兆7510億円)で、来年上場する見込みだ。

残念ながらソーシャルネットワークマーケティングなどAirbnbの成功経験をUberで再現することは難しい。WeWorkはその業務のほとんどが企業向けであることからソーシャルネットワークによるマーケティングが難しいのである。

とは言え、総合的な民泊サービスを提供してきたAirbnbの試みは、膨大なデータとトラフィックを持つUberとWeWorkに収益改善の道筋を示している。多くの業者を集結して総合的なサービスを提供できるプラットフォームは収入のチャネルを増やし、収入の多元化を実現できるのだ。

第二の選択は、テクノロジー企業としての属性を強化して研究開発事業や投資を増やすことだ。老虎証券の分析チームは、将来Uberが自動運転技術を配車サービスに提供できるようになった時、またはWeWorkが商用地から離れ、リモートリアルタイムインタラクションオフィスを創出することができるようになれば、「それはもう一つの別天地かもしれない」と言う。

The We Companyは上場を取り消したが、それでもいつかは上場するだろう。孫正義氏は同社のために重荷を負うことになるかもしれない。しかしそれより重要なことはどのように損失を食い止めるかということだ。(翻訳・桃紅柳緑)

写真:図虫創意

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