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中国全体で不景気感が漂う中、深圳が再び息を吹き返している。牽引するのは中国から世界へのハードウェアの輸出だ。これまでも深圳の「華強北エリア」には巨大な電子部品市場があり、情報端末などを素早く開発するサプライチェーンができていて、新製品を販売したいというニーズに応えていた。近年は単なるパーツの寄せ集めでは実現できない、外国向けのより高度な電気電子製品が深圳でも作られ、そこから輸出し成長を収めている。
では、実際のデータを見ていこう。深圳は北京・上海・広州と並び最も経済が発達している一線都市であり、中国全体の対外貿易輸出入の10分の1を占め、広東省(深圳が属する省)の対外貿易輸出入の半分まで占めている。2024年第3四半期の深圳の輸出入総額は前年同期比20.9%増の3兆3700億元(約72兆6000億円)となり、その成長率は中国全体よりも大きいのはもちろんのこと、海外輸出入に強い上海(3兆1700億元、0.03%増)や蘇州(1兆9000億元、7.9%増)と比べても、成長が著しいことはわかる。成長率が高いということは、近年深圳発の産業がブレークしたことを意味する。それが電子機器製品の輸出だ。
これまで中国の主力な輸出製品は衣料品、家具、家電製品だった。最近では電気自動車(EV)、リチウムイオン電池、太陽電池の輸出が目覚ましい。昔の石炭産業や製鉄産業から現在のハイテク製品に至るまで、産業トレンドを抱える都市は活気が出るものだ。EV最大手のBYD(比亜迪)などを抱える深圳は、現在産業トレンドで最もその恩恵を得ている。2023年の中国のEV・リチウムイオン電池・太陽電池の総輸出額は1兆600億元(約22兆8000億円)で、このうち深圳の輸出額は10分の1近くとなる887億6000万元(約1兆9000億円)を占める。
電子機器だけじゃない、越境ECも深圳がリード
中国から輸出し外国で売る越境ECについても、深圳がいまの拠点都市となっている。米Amazonの販売事業者(セラー)の数が、深圳が他の都市を圧倒する10万社以上に達しており、なんと中国全体の約3分の1を占めるという。2023年にAmazonは深圳でグローバルストアの越境ECサミットを開催し、またAmazonグローバルストアアジア太平洋イノベーションセンターを深圳に立ち上げた。
また、東南アジアのLazada、中南米のMercado Libre、アフリカのJumia、ロシアのOzonといった各地域の有力ECプラットフォームの中国支社はいずれも深圳にある。
さらに深圳には越境EC関連企業が12社上場している。この数字は中国国内でトップだ。コロナ前から中国企業はAmazonをはじめとした海外のECプラットフォームで販売していたが、コロナ期間に多くの国でオンラインショッピングの利用率があがり、中国企業にとって越境ECのうまみが増した。
なぜ深圳が越境ECの拠点として伸びたのか。これにはいくつか理由がある。
まずはよく知られているように、深圳の電子製品開発について強固な基盤とサプライチェーンがあり、開発しやすい産業基盤ができていることが挙げられる。「2024年越境ECブランド影響力ランキングトップ100」(中国経済網)において、都市別では深圳が最も多く52ブランドあり、30以上が「Insta360」をはじめとしたデジタル系や家電系ブランドだった。2位以下は広州の9ブランド、北京と蘇州の6ブランドと続く。なお広州はSHEINをはじめとしたアパレル系が強く、アパレルのサプライチェーンが充実している。
例えば同ランキング20位の「UGREEN(緑聯)」は、当初は海外顧客向けにスマホ充電ケーブルのOEM生産を主な事業としていた。ここから深圳の強力な電子製品のサプライチェーンを活用し、製品ラインをオーディオ・ビデオ製品、バッテリー、ストレージなどに拡充していきブランド力を高めていき、現在は情報家電製品の研究開発、設計、生産、販売を統合する有名企業になった。
次に、越境ECの環境が充実しているということが挙げられる。国内だろうと越境であろうと確実に素早く商品が届けば、利用者は増え競争力が増す。物流でいえば深圳からの中国・欧州貨物列車が18路線、貨物船は24路線、航空便は59路線が開通していて、価格とスピードを選んで配送できるのが深圳の強みだ。また近年中国発の、海外での注文管理、物流管理、倉庫管理、顧客管理、財務管理などを行う越境EC支援企業が世界各国にできて、力をつけていることも大きい。越境EC向けSaaSが充実したことにより物流、流通、決済、運用が簡単になり、深圳の企業、ひいては中国企業の越境ECへのハードルが低くなった。
また、深圳政府が中国全土に先駆けて越境ECをサポートする姿勢を見せ、行政による「陽光化」越境EC取引サポートプラットフォームを構築した。中小企業のコンプライアンス対策をサポートすることで、企業の負担を減らし、参入するハードルを下げた。
コロナの影響で、世界的にECを利用する人が増え、中国企業の越境ECを通じて世界市場への展開、そして元々あったモノ作りの強さと地の利が相まって今の深圳は他の都市にない強みがあるのだ。
(文:山谷剛史)
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