介護スタッフが絶望的に不足する中国、ハイテクで高齢者対策

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中国国家統計局のデータによると、2023年の中国における60歳以上の高齢者は人口の21.1%を占める2億9700万人となっている。今後も高齢化は加速し、介護を必要とする高齢者の増加が予測される。しかし、中国では必要とされる1500万人の介護者に対し、実際の従事者は50万人強にとどまり、大幅な人手不足が深刻化している。

介護職員はほとんどが地方出身の40代から50代の人々で、低賃金かつ高離職率の環境にあり、3年での定着率は約30%と低い。外国人を雇おうにも高齢者は方言を使うので語学のハードルが高く導入は難しい。

職員だけでなく、関連企業の収益性も低く、赤字経営が続くことも珍しくない。青息吐息な介護施設にサービスを提供する企業もまた稼げる状態ではない。しかし、全くどの会社も軌道に乗ってないかというとそうでもなく、中国の在宅介護最大手「福寿康」は、日本式の介護事業を中国全土で展開。同社CEOは日本での留学・就職経験があり、IT大手のテンセントから資金調達を得ている。

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こうした状況から、中国では低コストで高効率な在宅介護の推進に舵をきり、高齢者介護業界への支援を強化している。そのなかで、EC大手のJDドットコム傘下でヘルステックに注力する「JD Health(京東健康)」や、テンセントSSV(持続可能な社会価値事業部)について紹介していく。両社とも独自の強みを活かした高齢者向けのハイテクソリューションを提供している。

高齢者向けのECサービスやネット診療

JD Healthは、多数の高齢者向けの商品を販売している。ただ売るだけではなく、高齢者専用の顧客サービスチームを設置し、24時間年中無休のサポートを提供している。購入前にオンラインで医師に聴力検査やリハビリ指導などの相談ができ、購入後、専門的なマニュアルによるQ&Aや定期的なフォローなどのアフターサービスを受けられる。さらに、専門の栄養士と1対1の相談を行い、慢性疾患の軽減に役立つ健康食品の提案を受けることも可能だ。

オンラインで必要に応じて専門家に相談というのは、コロナ禍で外出が難しくなった時に普及したインターネット医療に似ていて、これと同じようなことを高齢者にターゲットを絞って行っているわけだ。JD Healthのプラットフォームには、高齢者向けの分野の医師が5000人以上登録しており、利用者数は20万人を超えている。割合としては少ないが、知っている人は使っているくらいの数字だろうか。

さらに最近では、高齢者ユーザのニーズにより一層良く応えるため、「看護師訪問サービス」も開始した。現在27種類の看護サービスを提供しており、北京、上海、広州、深センなど全国数十都市で利用可能となる。

看護師訪問サービス

また、同社はAI技術に強みを持つ企業との提携にも意欲的だ。たとえば、AI大手のアイフライテックが開発した最新のAI補聴器を独占販売する。

認知症支援ゲームやAI転倒検知

テンセントは、EC以外の分野からアプローチをかけている。ソフトウェアでもハードウェアでも面白い製品を出している。

・シンプルスマートフォン

スマートフォンが日常必需品となった環境に適応し、高齢者向けの簡単操作端末を開発。3つの電話ボタンとSOSボタンを搭載し、緊急時の連絡が容易になっている。また、GPS機能を備え、家族がWeChat(微信)を通じてリアルタイムで位置情報や移動履歴を確認できる。さらに、設定したエリア外に出ると自動で警告が発せられる仕組みもある。

・電動介護リフト

寝たきり老人を力の負担を少なく起こすことができる電動介護リフトも開発。外国製だと対象とする人のサイズが大きいため、中国の老人のサイズに合わせ改良を加えた。さらにWeChatと連携ができ、医師が起き上がりのデータをモニタリングすることができるのは同社らしい仕様だ。

・認知症支援アプリとゲーム

「6棟301房」は、アルツハイマー認知症の人がどのように周囲を見ているのかを仮想体験し、気持ちの共有を目指すゲームだ。WeChatのミニプログラムのほか、ゲームプラットフォームのSteamでもリリースされている。

また軽度のアルツハイマー認知症の人をゲームにより早期発見できる「銀髪脳動力」というタイトルや、軽度の人を対象として料理コンテストや作詩コンテストや症状を軽減する音楽を流す「脳力智趣幇」というタイトルを開発中で、臨床試験を行っているという。

・AIによる転倒検知と健康管理

高齢者の一人暮らしを支援するため、AIを活用した転倒検知システムを導入。映像AIが人体の姿勢を解析し、転倒の可能性を検知すると家族に自動でアラートを送信する。

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また、中国の伝統的な健康体操「健身気功八段錦」を行い、AIが正しい姿勢か判断するサービスをリリースしている。

高齢者向け養護施設に入れる人は少ないという前提で、ハイテクを活用して各種サービスが作られる中国。日本も学ぶところは学び、日本流にアレンジをし、低コスト・高効率な在宅介護向けサービスを開発することで、高齢化社会に対応する新たな選択肢を提供できるのではないだろうか。

(文:山谷剛史)

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