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中国の自動車業界が再び揺れている。激しい価格競争による生存争いに続き、電気自動車(EV)最大手の比亜迪(BYD)が高度運転支援機能で新たな戦いを仕掛けてきた。
BYDは2月10日、先進運転支援システム(ADAS)の「天神之眼(God’s Eye)」を全シリーズ、21車種すべてに搭載すると発表した。主力の「王朝(Dynasty)」シリーズや「海洋(Ocean)」シリーズのほか、高級車ブランド「騰勢(Denza)」「方程豹(Fangchengbao)」「仰望汽車(Yangwang)」にも搭載される。重要なのは、ADAS機能を搭載した新型車でも価格は据え置きにされる点だ。最も安いADAS搭載のコンパクトカー「海鴎(Seagull)」は6万9800元(約146万円)で、7万元を切るEVにADASが搭載されるのは初めてとなる。
この戦略は、ADASを高級車だけでなく大衆車にまで広げることを意図したものだ。BYD創業者の王伝福会長は発表会の席で、「これまでADASは20万元(約420万円)クラスの高級車に搭載されていたが、中国で購入される車の70%は20万元以下だ。今後2、3年のうちにADASはシートベルトやエアバッグと同じように自動車に不可欠な装備になるだろう」と述べた。
3段階に分けて普及拡大
BYDのADASは車両の価格帯に応じて3段階に分かれている。
「天神之眼A」(DiPilot 600)は、仰望ブランドなど高級車を対象に、LiDAR3台と米NVIDIAのチップ「Orin-X」を2つ搭載。演算性能は508TOPSで、高精度地図を使わない「NOA(Navigation on ADAS)」に中国全土で対応し、4モーター独立駆動方式のプラットフォーム「e4プラットフォーム(中国語名:易四方)」が搭載されている。
「天神之眼B」(DiPilot 300)は騰勢ブランドなど高価格帯から中価格帯の車種で採用される。LiDARを1台もしくは2台とOrin-Xチップを1つ搭載し、演算性能は254TOPS。こちらもNOAに対応し、プラットフォームは「e3プラットフォーム(易三方)」になる。
「天神之眼C」(DiPilot 100)は主力ブランド向けとして、ミリ波レーダー5機、カメラ12台を搭載するピュアビジョン方式を採用。Orin-Xチップもしくは中国・地平線機器人(Horizon Robotics)の「Journey 6(征程6)」を1つ搭載する。演算性能は84/128TOPSで、高速道路向けNOAと自動駐車機能に対応する。
天神之眼Cは今回のADAS普及戦略の核心で、ADASを7万~20万元(約150万~400万円)の主力モデルに導入するためのものだ。
BYDはスケールメリットとサプライチェーン管理、ソフトウェアの刷新により、ADASシステムのコスト削減に成功した。スタートアップ関連メディア・虎嗅によると、BYDは自社製造のカメラとセンサー、チップの大量購入と自社での組み立てによりADASのコストを30~40%削減したという。またデータ量についても、BYDが擁する5000人以上のADAS開発チームスタッフが1日当たり7200万キロメートル分のトレーニングを施し、米テスラの2024年末時点の訓練レベルを2025年末までに超えると見込まれている。
自動運転の競争激化
BYDの大々的な動きは業界で大きな反響を呼び、中国メーカー各社が反撃を開始している。
長城汽車(GWM)の役員は、名指しはしないまでも「ADASは見せ物ではない。知識は実践から得られる」とSNSに投稿。ファーウェイ(華為技術)自動車事業群の部門長・余承東氏も「ADASが使えるということと、使いやすさや安全性は全く別の話しだ」と強く指摘した。
同業者はBYDのうたうADAS機能に疑問を投げかけているとはいえ、BYDの行動が自動車のスマート化を加速するものであることには違いなく、ライバルに大きな衝撃を与えた。
自動車業界団体・全国乗用車市場情報連合会(CPCA)によると、2024年1-8月に中国では自動運転レベル2、もしくはそれ以上のレベルの自動運転機能を搭載した乗用車が66.6%に達しており、徐々に標準装備になりつつある。調査会社の灼識諮詢(CIC)は、中国で自動運転機能を搭載した自動車の普及率が26年に81.2%、2030年には99.7%に達すると予測している。
こうした状況のなか、自動車メーカーはスマート化に向けた動きを加速させなくてはならず、そのテンポに付いていけないメーカーと自動運転機能を持たない自動車は淘汰される。
BYDが大規模にADASを搭載することで、サプライヤーにとっては再編のチャンスが訪れることになる。そこで生き残るための鍵は技術革新力だ。
中国の自動車産業は、急速な電動化シフトに続き、再び正念場を迎えている。
*1元=約21円で計算しています。
(編集・翻訳 36Kr Japan編集部)
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