Grab創業者Tan Hooi Ling氏にインタビュー、「IPOは当面の目標ではない」

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東南アジアを拠点に配車サービスなどを手掛けるハイテクスタートアップのGrab(グラブ)は、7年前にハーバードビジネススクールの「Business at the Base of the Pyramid」というクラスで出会った2人のクラスメート、アンソニー・タン(Anthony Tan)氏とタン・ホーイリン(Tan Hooi Ling)氏によってマレーシアにて設立された。 「Business at the Base of the Pyramid」の授業では、企業がどのように発展途上国の低所得者の生活を改善するかを学生に教える。

2人のクラスメートがGrabを立ち上げたのは、安定的で持続的成長している企業こそが社会に対する貢献もできると信じたからだ。

現在、Grabは評価額100億ドル(約1兆円)以上のメガユニコーン企業となり、ネット配車サービスからフードデリバリー、金融サービス、健康サービスなどの幅広い事業を東南アジア8カ国の340都市で展開している。専門調査会社ABIリサーチの最新データによると、2018年、Grabのライドシェア事業は東南アジア市場の3分の2を占めているという。また、同社のフードデリバリープラットフォームは中国に次いで、アジア第2位の規模にまで成長している。

CEOであるアンソニー氏は常にGrabの「顔」として、投資家へのPRやメディアの取材を担当するのに対して、ホーイリン氏は、公の場へはあまり姿を表さない。

10月28日に行われた第21回日経フォーラム「世界経営者会議」で、36Kr Japanはタン・ホーイリン氏に独占インタビューを行うことができた。その中で、彼女の個人的背景からGrabの今後の計画までを尋ねてみた。

Grab創業者社のTan Hooi Ling氏

ーーホーイリンさんのバックグランドが気になっていました。大学時代の専門はエンジニアリングだったのに、その後ビジネスに転身した理由はなんですか?

「学部生だった時、私は1年間かけて業界の実習に行った。教科書だけでは実用的ではないので、自分が何に興味を持つのか、これからいかに勉強していくべきか、実践を通して見つけたかったのだ」

「より良いエンジニアになるために実際に行動してみたのだが、最も重要な決定はいつもマネジメントによって下されることに気がついた」

「エンジニアには、マネジメントのことを理解するのは難しい。逆も同じだ。それは、それぞれ違う『言語』を話しているからだ。重要なのは、会社に対しても、顧客に対しても最善の決定を下すことなので、ビジネスの『言語』を学ぶ必要があるとわかった。私は、経営陣がどのように考えているのか、そしてビジネスのリーダーになるには何が必要なのかを理解したいと考えた。」

「幸運なことに、マッキンゼーが私に学ぶ機会をくれた。それがすべての始まりだった」

ーーマッキンゼーを退職した時、あなたはすでにGrabを始めていたのですが、なぜGrabに入るのでなく、セールスフォースに行ったのですか?

「私はマッキンゼーの学費援助でビジネススクールに行ったのだが、その際の取り決めにより2年間マッキンゼーで働かなければならなかった。辞職の際、私はマッキンゼーで1年間しか働いていなかったため、援助された学費をすべて米ドルで返済しなければならなかった。 そのため、当時のわたしは、マッキンゼーにすぐ返済するのに十分な報酬を得られる仕事を見つけなければならなかったからだ」

「Grabにすぐ戻らなかったもう1つの理由は、アンソニーはチームと一緒に会社を率いて非常に良い仕事をしていると感じたからだ。その時点では、すぐ戻る必要はないと私は判断した」

ーーしかし、セールスフォースでフルタイムで働いていても、Grabを離れたことはなかったんですね?時間管理はどのようにしていましたか?また、当時はGrabでどういう役割を担っていましたか?

「当時は公的な責任は一切なかった。 いずれにせよ、Grabは私にとって非常に意味があかったため、当時していたことは純粋に情熱から来たものだった。私はいつも夜や週末の時間を利用して電話でアンソニーやリーダーチームと連絡を取り合っていた。セールスフォースが休暇になったら、Grabで仕事をしたこともある。 一度セールスフォースから2週間の休暇を取り、 マレーシアに戻った。そこから私は東南アジアの5カ国へ出張に行った。 それはその年で最も厳しい2週間だった(笑)」

ーーなかなかハードでしたね。そのモチベーションはどこから出たでしょう?

「確かにハードだったが、本当に楽しかった。自分の信じていることのために働くのは実に楽しいことだと思う。起業家というものは、本気になって何かを始めたとき、自然にやる気が湧いてくるのだ。外からの動機付づけなんて必要なかった」

ーー最初の数年間に、Grabが直面した最大の困難はなんですか?

「7年前にアントリーと私が最初に会社を始めたときが一番大変だった。当時、ほとんどのタクシー運転手はスマートフォンに触れたり所有したりすることがなかったため、彼ら向けに説明会も開催した。彼らはGrabがうまくいくとは信じてくれなかった。私たちは彼らの身になって、一緒に問題点を見つけ、分析した。それには随分時間がかかった」

「幸いなことに、私たちの誠実かつ真摯な気持ちが伝わったおかげか、一部のドライバーにGrabを使ってみてもらえた。実際に使ってみたら、より多くの顧客を獲得することができたため、彼らは自分の友人に勧めたりしてくれた。最終的には、ドライバーの方から私たちのもとに来るようになり、やっと事業が回転できるようになった」

ーーGrabは東南アジアの複数の国で事業を展開していますが、地域レベルでいうと、どのような課題がありますか?

「まず東南アジアは国の数が多く、それぞれが近いように見えるが、実は経済力もカルチャーも宗教も違う複雑なエリアだ。そのため、すべてのターゲットに適合する1つのソリューションを構築することは不可能だ。私たちはハイパーローカリゼーション戦略を掲げたが、バランスをとるのは非常に困難だった。それで、国ごとに異なるソリューションを提供するスーパーアプリを構築することに専念した。例えば二輪車のサービスを一刻も早く導入したり、現金決済も可能にしたりするなどだ」

「2番目の課題は人材の不足だ。北京や上海と違って、東南アジアには多くの技術者も既存のイノベーションエコシステムもなかった。当社はおそらく、東南アジアの最初のハイテク企業かもしれない。Grabは東南アジアの第一世代のハイテクリーダーの育成を支援してきたと言っても過言でもないだろう。これらの人々は、それぞれの分野で優れた能力を備えており、仕事の機会を求めてシリコンバレーなどの海外に行くしかなかったが、Grabが生まれてからは、彼らをこの地域に呼び戻すことができた。彼らのバックグラウンドとスキルに合った仕事を提供できたのは非常に幸せだと思う」

「それと同時に、Grabは世界中に研究開発センターを設置した。なぜかというと、異なる視点やテクノロジーを提供してもらえるため、多様性のあるエンジニア文化はGrabの成長に欠かせないと考えたからだ。北京やシアトルに技術チームを置いた」

ーー東南アジアにおけるUberの事業買収に関する取り決めにより、Grabは2023年3月までに上場する必要があると報道されていますが、これに関してGrabのこれから3年間の計画は何ですか?

「それは一種の誤解だ。 私たちにとってIPOすることが最終目標ではない。もちろんそれは私たちの取り得る道の1つだが、上場するために会社を設立したわけではない。 それから、ありがたいことに私たちは健全なキャッシュフローを持っているので、IPOは当面の目標ではない」

ーーそれでは、会社の次のステップは何ですか?海外進出も考えていますか?

「私達は東南アジアを離れることを考えてはいない。ここには莫大なチャンスとポテンシャルが潜んでいる。 現在、世の中にはない何か斬新なモデルや技術が生まれる可能性がある。その一方、東南アジアには未解決の問題もたくさんある。Grabはそこにいる人々のニーズを見出し、最適なパートナーと組み、さらなる多様多種なサービスを提供していきたいと思う。例えば、今年、当社は中国のオンライン医療ポータルの『平安好医生(Ping An Good Doctor)』と提携し、オンライン健康相談や薬の宅配など、ヘルスメディカル関連サービスを提供する『Grab Health』を展開する予定だ」

「この地域では、Grabが技術で社会問題を解決し続けられると信じている」

(取材・編集:Ai)

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