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2019年の中国の小売市場で達成された象徴的な成果といえば、「地域密着型の生鮮食品販売、ライブコマース、地方市場」におおよそ集約される。
また、独格安スーパー大手「ALDI」が6月に、米会員制スーパー「コストコ」が8月に中国で実店舗を開業したことも今年の一大ニュースだ。両者とも上海で初の出店を果たしている。コストコは上海初の店舗をオープンしてわずか1カ月で会員数20万人に達した。開業当日に1回買い物をしたきりで退会した会員も少なくないとはいえ、世界各国の店舗の平均水準と比較して3倍の入会率だ。
20万人が年会費299元(約4700円)を支払ったとすると、すでに6000万元(約9億4000万円)の純利益を得たというわけだ。中国の大型商業施設の年間純利益は多めに見積もっても平均600万元(約9400万円)というから、コストコのはじき出した成績は紛れもなく抜きんでたものといえる。
興味深いのは、ALDIとコストコの両者は真逆の事業モデルを展開しているということだ。前者は中国市場への適応に心を砕き、後者は統一したグローバル戦略を堅持している。
「ブレない」コストコ
コストコの事業モデルは他の誰にも模倣できない。初の店舗が開業してから36年間、コストコの事業モデルに完全に一致するベンチマークや競合は現れていない。サプライチェーンやPB(プライベートブランド)商品の開発など、部分的に類似する企業はあり、また有料会員制という業態もコストコが世界で唯一のものではない。ただ、小売業界が現在に至るまで実証を得てきたいくつかのKPIに関して、それらの融合や連携を最も徹底させてきた企業がコストコといえるだろう。
そのコストコの小売モデルについて、以下のようにまとめてみた。
1)有料会員制の確立が店舗の主な利益源となっている。
2)消費者を「コストコへの入店資格」である入会に結びつけるには、「よい商品を低価格で」という不変の法則を守ることが大前提だ。消費者は日用消費財に関して、「品質度外視でも最高価格の商品が欲しい」といったステータス重視の需要はあまりない。
3)「高品質・低価格商品」の実現を支えているのは最強のサプライチェーンと商品構成だが、市場にはコストコと同等の供給能力を有する企業は存在しない。
4)収益方法、ターゲットユーザー、経営能力の三大要素をまず確立し、フロントヤードからバックヤードに至るまでの細部で発生するあらゆる経営的要素の策定は、上記の三要素をもとに展開する。
5)高品質の低価格商品は最高のサプライチェーンとPB商品の二本立てで生み出される。世界最高峰のサプライヤーから直接仕入れを行い、大量展開する独自規格商品、コストコのみの独占販売商品、共同開発や連名企画商品、超低価格商品など、いずれもサプライヤーの供給リソースを活用して展開している。コストコはサプライヤーへの見返りとして、安定した出荷数や最高の利益率を保証する。
6)コストコのような包括的かつ総合的な小売体制を持たない、あるいは個別の提携条件でもコストコの指標に及ばない小売企業には、同社に比肩する「高品質低価格」は実現できない。サプライヤーからしても、「取引先リストの中からコストコ一社と取引できればそれで充分」となる。
7)商品の中核要素に独自性があり、ブランドや商標に依拠しない商品はPB商品として展開できる。消費者はブランド力のある商品を選ぶものだが、ノーブランドでも価格以上の価値を持つ商品なら独自の発言力を持つことができる。
8)以上に挙げた核心条件を満たした上で、他の小売企業が実際の売り場で提供する副産物的な顧客体験――商品の品質や価格に直接反映されないビジュアルコミュニケーションなど――について、コストコは「無駄」として省いている。これらに関わるコストは会員に転嫁されるもので、コストコの価値を落とすからだ。
9)コストコの売り場に並ぶ商品品目と顧客にもたらされる購買体験はいずれも家庭の一般的な需要に基づいて展開される。買い物に付随して発生する付加的需要、例えば給油やカーメンテナンス、レンタカーなども同様だ。ただ、こうした会員向け付加価値サービスは中国の初店舗では導入されていない。
10)家庭の一般的な需要に基づく商品、買い物に付随して発生する付加的需要の二つはコストコでのショッピング体験や会員が享受する価値を形作っており、以下二つの事業上の特性を生んでいる。
一つ目は、ばら売り生鮮食品の計量や袋詰めは顧客にセルフで行ってもらい、マンパワーを削減するとともに、売り場での会計や商品引き渡しを効率化すること。二つ目は、会費による現金収入が移転支出に属することだ。
以上がコストコの事業モデルを簡潔に説明する10要素だ。
「現地化必須」を掲げるALDI
コストコの中国初店舗ではグローバルモデルをそのまま維持したのに対し、ALDIの中国店では小規模店舗・厳選された商品ジャンル・地域コミュニティに即した事業モデルを掲げ、中国市場に深く寄り添った戦略、もとい各店舗周辺の地域の特色に密着した戦略を採っている。
上海で展開するALDIの業態は、地域の顧客からすれば大型のコンビニエンスストアに近いかもしれない。
現在、ALDIは上海市内に5店舗を開業している。いずれも店舗面積は600平方メートルほどで、厳選された1000品目ほどを取り扱う。お弁当やサラダ、搾りたてジュースなどの調理済み食品は地域の生活に密着した商品展開だ。周辺の人口構造や飲食店などの分布状況、動線設計に合った適応策を探っている。
1)ALDIはもともと欧州で地域コミュニティ向けに小~中規模のスーパーを展開しており、コストコのように車でアクセスするのではなく徒歩で来店する傾向が顕著だ。中国ではさらにその傾向を強めている。
2)調理済み食品の数を増やし、頻繁に来店してもらう動機づけを行っている。
3)毎日来店してもらうために、宝山区の店舗ではもともと狭い店舗に10平方メートルのベーカリーを設けている。ドイツパンの焼ける香りが調理済み食品の存在感をアピールするともに、通行人へ来店を促す効果をもたらす。新たに開店した3店舗では生鮮食品の商品棚に十分なスペースを割いている。
4)海外のALDI店舗では商品棚、特に食品の商品棚において、最も売れ行きの良いスペースに価格競争力の高い商品を置き、その次に売れ行きの良いスペースに最も粗利率の高い商品を置く。しかし中国の店舗ではこれを行っていない。その理由は、中国の店舗では取扱品目が他国より多く、限られたスペースでより多くの品目を陳列する必要があるからだ。また、中国ではパッケージ食品の消費量が多くなく、家族全員が毎日のように、あらゆるシーンで消費するほどの需要はない。
5)中国現地の消費習慣に適合するため、各商品とライフスタイルとの相関性や人口構造を考慮する以外に、商品の引き渡し・決済方法も大幅に現地化している。店頭ではセルフレジを増やして中国に広く普及するモバイル決済に対応するほか、会計時の行列を解消している。また、限られた店舗環境で動線設計を工夫し、既存の方法論に固執していない。
6)新設した3店舗ではセルフレジを設けるほかに、微信(WeChat)ミニプログラムのオンラインショップ経由で注文を受け付け、フードデリバリーアプリ「餓了麼(Ele.me)」で自宅配送サービスを行っている。家庭単位、個人単位で日々発生する消費の需要に照準を絞り、限られた店舗で坪効率を最大限に活用するというのがALDIの全体方針だ。
グローバル規模で展開する小売り大手二社が中国進出を果たしたわけだが、両者の戦略は正反対だ。しかし、その背後にある強みは「最強のサプライチェーンから調達する高品質・低価格商品」「PB商品」と共通している。両者の違いは収益モデルの設計が本質的に異なるということだ。
作者:新零售老板内参 万徳乾
原文記事:https://mp.weixin.qq.com/s/-JBe9IR7iylDVdN8Gvrnig
(翻訳・愛玉)
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