配車業界のセキュリティ改革に挑む「T3」  国有企業と超大手IT企業6社が強力バックアップ

36Kr Japan | 最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア

日本最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア。日本経済新聞社とパートナーシップ提携。デジタル化で先行する中国の「今」から日本の未来を読み取ろう。

スタートアップ編集部お勧め記事注目記事

配車業界のセキュリティ改革に挑む「T3」  国有企業と超大手IT企業6社が強力バックアップ

7月1日より、これまで36Kr Japanのメディアで提供していた記事のうち、一部スタートアップ企業に関するニュースについては、有料コンテンツサービス「CONNECTO(コネクト)」の会員限定で提供します(初期段階では無料会員も対象とします)。まだ登録されていない方は、ぜひそちらをご利用ください。

原文はこちら

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録

続きを読む

中国のモビリティ業界は過去1年以上にわたる激動期が続いた。一昨年は乗客が犠牲となる事件が2件発生し、業界で最も早く大手の座に上り詰めた「DiDiモビリティ(滴滴出行)」ですらも危機に陥った。業界を挙げてのセキュリティおよびコンプライアンス改革が進み、政策の締め付けも強まる中、需要に供給の追いつかない状況が深刻化している。

業界の成長率や投資規模も鈍ってきている。米コンサル企業ベイン・アンド・カンパニーのリポートによると、中国のオンライン配車業界の年成長率は2018年に25%まで落ち込み、月間アクティブユーザー数(MAU)は5%減少した。予想では2019年の年成長率は5%を割り、モビリティ業界全体への投資額は48%の縮小、オンライン配車業界への投資規模は約90%も落ち込むとされる。

反面、モビリティ業界に新たに参入してくる企業も多い。自動車メーカーだ。

2019年に創業した「T3出行(T3 Mobility)」の崔大勇CEOは、ライドシェア業界の原則が根本的に変わったことが参入続出の背景にあるという。「配車サービスは従来は価格だけが問われていたが、現在はコンプライアンスやセキュリティ、マネジメントが重視されるようになった。こうした新しい業界ルールのもと、新しいプラットフォームが台頭するのは必然だ」と分析する。

T3出行はこうしたオンライン配車業界で「台風の目」となり得る存在だ。単独でモビリティ業界での勝負に挑む大多数の自動車メーカーとは異なり、T3の背後では「東風汽車(DONGFENG MOTOR)」「中国第一汽車(FAW)」「長安汽車(CHANGAN AUTOMOBILE)」と国有メーカー3社がバックアップする。さらにアリババ、テンセント、蘇寧易購(Suning.com)の超大手IT企業も参画し、6社で合わせて100億元(約1600億円)近くを出資しているのだ。

また、T3は従来のモビリティ業界では例のないストーリーを隠し持つ。T3は大手自動車メーカーにとってのモビリティ事業の実験場となっているのだ。

T3は主にセキュリティ面で革新的なソリューションを打ち出している。B2Cで展開されるオンライン配車事業はIoV(車のインターネット)によって改善され、ドライバーは配車要請から目的地への移動、運賃支払いまでの一連の乗客とのやり取りを(スマートフォンアプリ経由ではなく)車載モニターを通じて行う。さらにドライバーの経歴調査、車載カメラによる撮影、セキュリティ・レスポンス・センターとの連携などにより乗客・乗員双方の安全を確保する。車両にはADAS(先進運転支援システム)が搭載され、高精度地図関連のデータ収集や道路データの更新を行い、将来的には自動車メーカーだけでなく代理販売業者にまで接続する。

36Kr編集部は崔大勇CEOに詳しく話を聞いた。以下はその抄訳。

スマートフォンが安全を脅かす元凶だ

ーーT3出行の1日の受注件数、保有車両の数は。

「昨年12月中旬時点で南京、武漢、重慶、杭州、長春、広州の6都市で1万2000台を運営している。1日の受注は20万件を超す」

ーーセキュリティはT3出行の最大のセールスポイントですが、どのように実現したものでしょうか。

「大方の配車サービスは乗客がスマートフォンを使って配車を要請し、ドライバーもスマートフォンを使って要請を受ける。我々はこうしたC2Cモデルがセキュリティやコンプライアンスの限界を生んでいると考える。このやり方ではセキュリティ状態の確認も管理もできない」

「配車サービスを手がける主要企業はトラブルの予防ではなく、トラブル後の対応策しか考えていない。緊急時の対応は迅速にできるようになったかもしれないが、トラブルの最中に介入することができない。これは安全上最大のリスクだ。T3を設立した根本的な理由がここにある」

「T3の基本理念は、従来スマートフォン間でされてきたやり取りを解決するところにある。スマートフォンこそが安全を脅かす元凶だからだ。T3では配車要請を受けるのも、乗客と通話するのも、受注内容を確認するのも、支払いもすべて車載モニターを通じて行う。ここが最大の差別化ポイントだ」

T3出行の車載モニター

ーードライバーと車両との紐づけはどのように行うのでしょうか。

「ドライバーの経歴を調べ、犯罪歴なども確認する。こうして採用されたドライバーにはまず顔認証システムに登録してもらい、ドライバーと彼が乗務する車両の完全一致を徹底する。乗務車両を解錠するのはドライバーの顔だ。スキャンした顔が登録したものと一致しなければ運転席に座ってもエンジンすらかからない。乗車後も60秒に1回、ドライバーの顔はスキャンされる。Aピラー(フロントウィンドウの左右にある柱)に設置されたカメラがずっと認証作業を行っているのだ」

ーー乗客がドライバーに危害を加えるケースも多発しています。

「全車両に2台のカメラが設置され、一つはドライバーを捉えているがもう一つは車内全体を映し、車内の全員の動きを記録している」

「安全モニタリングセンターには必ず2人以上のスタッフが入り、24時間体制で監視を行っている。車両にはワンボタンで通報できる機能が搭載され、ドライバーや乗客の手の届きやすい位置に合計4カ所設置されている。これが押されるとモニタリングセンターに車内画像が映し出される。最も大事なポイントは我々のIoVシステムが自動車メーカーと連携していることで、全車両を遠隔管理できるのだ」

参入が殺到するモビリティ業界

ーーT3出行はアリババ、テンセント、蘇寧と資本提携する以外に何らかの協業は行っていますか。

「各方面から出資のオファーは非常に多かったが、我々の方でも戦略的に出資者を選んだ。最終的に選んだのは我々の事業をエンパワーしてくれる存在で、たとえばアリババからは傘下の地図サービス『高徳地図(amap.com)』、テンセントからは傘下の決済サービスを我々のIoVに導入させてもらった」

ーー自動車メーカーがモビリティ事業に参入したら、将来的には輸送能力を提供するのか、あるいはプラットフォームを提供することになるのでしょうか。

「輸送能力を提供することが理想だ。プラットフォームは難しい。我々が思うに、モビリティ市場には寡占企業は現れず、百家争鳴の様相を呈するだろう。市場はさらに細分化し、より多くの選択肢が生まれると考える」

B2Cを資産軽量型のアセット・ライト・モデルで

ーーIoVを通じて安全を保障するB2Cモデルは資産を多く抱えるアセット・ヘビー・モデルと思われますが、現行のスキームと事業拡大ペースをどのように両立しますか。

「B2Cは必ずしもアセット・ヘビーではない。(T3の出資者である)三大自動車メーカーは、傘下に無数の販売代理店を有している。その多くは我々の運営をオフラインで受け持ってくれる。一部の大規模な代理店集団とはすでに提携関係にあるが、彼らは車両を買い上げるか金融商品によって車両を保有し、我々のプラットフォームに登録してくれている。つまり、ドライバー側の車両管理・運営のほか、車両のアフターサービスや保険関係など車両にまつわる業務が自己完結できるのだ」

ーーIoV設計ソリューションはレンタカー会社や販売代理店の車両にも導入されていくのでしょうか。またIoVソリューションが備える機能は具体的に何でしょうか。

「もちろん、多くの車に我々の設備を搭載するよう求めていく。現在は1万2000台が我々のソリューションを導入して運営中だ」

「システムの中核を成すのは、フロントヤードで運転の記録を行うADASだ。これらのデータを収集する核心要素は、道路の安全状況が判断できるようになるということだ。将来的には高精度地図のデータ収集にもつながる」

「T3に出資する自動車メーカー3社は自動運転技術の開発も行っており、そのシステム開発を行うための最良のアプローチがデータによるトレーニングだ。T3のビッグデータは先天的に強みを持つばかりか、将来的には自動運転やスマートシティの領域に活かせる。未来の自動運転にとって最大の応用プラットフォームになるだろう」
(翻訳・愛玉)

7月1日より、これまで36Kr Japanのメディアで提供していた記事のうち、一部スタートアップ企業に関するニュースについては、有料コンテンツサービス「CONNECTO(コネクト)」の会員限定で提供します(初期段階では無料会員も対象とします)。まだ登録されていない方は、ぜひそちらをご利用ください。

原文はこちら

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録

関連記事はこちら

関連キーワード

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録