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中国の動画配信サイト「愛奇芸(iQiyi)」会員業務および海外業務グループ総裁の楊向華氏は先ごろ、会費の引き上げを検討しているが、実施する時期は決まっていないことを明らかにした。
愛奇芸の有料会員数は1億人を超え、業界における限界値に近づいている。また、会費の引き上げは会員の流出につながる恐れがある。中国の動画配信業界で先駆者となる「騰訊視頻(テンセント・ビデオ)」と「優酷(Youku)」は赤字状態にあるにもかかわらず、今のところ会費を引き上げるという情報は伝わっていない。
中国の動画配信大手は数年来の赤字
現在、中国の動画配信業界では愛奇芸、騰訊視頻、優酷が「三つ巴」の争いを続けており、それぞれのバックにはバイドゥ(百度)、テンセント(騰訊)、アリババというインターネット大手3社が君臨している。
しかし、大手各社は売り上げとユーザー数が急速に増えたにもかかわらず、損失が減らないという苦しい局面にぶつかっている。黒字決算を発表しているのは準大手の「芒果TV(Mango TV)」のみだが、その会員数は大手3社を大きく下回っている。前出の楊氏によると、愛奇芸の2019年第3四半期(7~9月)決算で、売上高は前年同期比6.98%増となったものの、増収率が低下すると同時に赤字も拡大し、純損失は36億元(約570億円)に上ったという。
中国の調査会社「QuestMobile」によれば、2019年6月時点でオンライン動画配信の月間アクティブユーザー数(MAU)は9億6400万人と、前年同期の9億4200万人からほとんど増えていない。中国市場の競争のポイントが会員の獲得から会員数の維持へと移る中、この競争が激化するにしても、愛奇芸のように海外市場で新たな会員の獲得を目指すにしても、さらにかかるコストは増えるだろう。
正確な収益モデルが見当たらない
愛奇芸の龔宇CEOは「20元(約320円)という会費は安過ぎた」と不満げに話したことがある。
愛奇芸の会費は、2011年に当時流行していた1枚5元(約80円)の海賊版DVDを基準として月額20元(約320円)と定められてから7年間変わっていない。中国の平均会費は、米国のプラットフォームに比べ約5分の1にとどまっている。
問題は、中国の動画配信企業が利益をなかなか計上できない原因が会費の安さだけなのかという点だ。
元アリババ動画配信部門総裁の楊偉東氏は、「優酷、愛奇芸、騰訊視頻の赤字の原因は、過当競争とビジネスモデルの2点」と指摘している。
「コンテンツがメイン」の時代では、質の高いコンテンツが最も強い競争力の源となるが、動画配信ユーザーはロイヤルティーが低く、コンテンツに応じてプラットフォームを選びがちだ。貴重な資源となる人気番組の版権を争って購入したため、優酷、愛奇芸、騰訊視頻がコンテンツに充てるコストは年々増えている。2019年第3四半期に愛奇芸がコンテンツに充てたコストは62億元(約980億円)に急増し、売上高に対する割合が84%、総費用に占める割合も76%に達した。このような状態では、売り上げでコストをカバーすることすら難しく、利益を計上するのは不可能だ。
コストの高さに加え、トラフィックをどのように収益に結び付けるかもカギとなる。
業界には現在、2つの収益モデルがある。トラフィックを広告収入に結びつけるやり方と、人気コンテンツによってユーザーから視聴料を取る方法だ。「2018年中国広告市場回顧リポート」によると、広告主は2018年以降、広告予算を厳しく抑制しており、エレベーター内広告やショート動画配信の「抖音(Douyin、海外版は「Tiktok」)」「快手(Kuaishou、海外版は「Kwai」)」など投資効果が目に見えるメディアで広告を打つ傾向が強まった。
現在主流の単純な収益モデルに頼っていると、動画配信大手が損失を埋めて利益を計上するのは難しいかもしれない。
中国版Netflixとなるために
世界的にみても、会費の引き上げは利益の確保につながる典型的な手法となる。米国の動画配信大手「Netflix(ネットフリックス)」は2019年1月、会費を13~18%引き上げると発表した。
Netflixは資金の大部分をオリジナルコンテンツの制作に充て、それによって成功の礎を築いた。一方、中国の動画配信サイトの多くは「YouTube」の模倣から始まっている。優酷、愛奇芸、騰訊視頻はいずれもNetflixのようにコンテンツの自主制作へとシフトし始めているが、Netflixが配信するようなハイクオリティなコンテンツを制作するには至っていない。
コンテンツのほかに、Netflixのサービス技術「レコメンドエンジン」も成功の切り札となった。Netflixは、同技術を通じてパーソナライズされた正確なレコメンドを提供し、膨大な動画タイトル視聴の利便性を向上させている。
中国の動画配信企業もここ数年、技術面での競争を始めている。騰訊視頻がインタラクティブ動画技術の開発に取り組んでいるほか、愛奇芸はAI活用というコンセプトを、優酷もエコシステム活用の方針を打ち出した。しかし、こうした技術の大規模な応用はまだ実現していない。
作者:「鋅刻度」(Wechat ID:znkedu)、許偉
(翻訳・神戸三四郎)
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