8億ドルを一瞬で溶かした中国新興EV「バイトン」、その崩壊の舞台裏(上)

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8億ドルを一瞬で溶かした中国新興EV「バイトン」、その崩壊の舞台裏(上)

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中国の新興電気自動車(EV)メーカー「BYTON(騰)」(以下、バイトン)のダニエル・カーチャート(Daniel Kirchert)CEOは6月29日、中国本土での事業を7月1日から一時的に停止すると従業員に通達し、一部の従業員以外に自宅待機を求めた。

このニュースに驚く人はいなかった。バイトンは86億元(約1300億円)の負債を抱え、すでに北京と上海のオフィスを閉鎖、北米とドイツのオフィスは破産を申請、南京本社も事業を停止。全従業員数を約1500人から約100人まで激減させていた。

中国新興自動車メーカーの生存競争は想像以上に過酷だった。バイトンは初の市販EV「M-Byte」の量産を実現することなく競争から脱落していった。

多額の資金調達をするも新型車の発売に至らず

バイトンCEOのダニエル・カーチャート氏(バイトン公式サイトより)

バイトンの経営幹部には、BMWでプラグインハイブリッド車「i8」の開発を率いたカルステン・ブレットフィールド(Carsten Breitfeld)氏や日産自動車の高級車ブランド「Infiniti」の中国法人総経理を務めたカーチャート氏をはじめとする豪華な顔触れが並び、彼らの下にはアップルやグーグル、BMW、フォード、マツダ、テスラなどから優秀な人材が集まった。

バイトンは2018年、シリーズBで車載電池最大手の「寧徳時代(CATL)」から5億ドル(約540億円)を調達。シリーズCでの資金調達以前に累計8億ドル(約860億円)を調達したことが明らかになっている。

同社初の市販モデル「M-Byte」は、ダッシュボードに搭載した48インチの大型ディスプレーや回転可能なフロントシートなど、先進的なデザインで注目を集めていた。

高級ブランドを目指したバイトンは、サプライヤーの選定において「最も高価なものが最も良い」とする原則を崩さなかった。情報筋によると、1億元(約15億円)近くを投じ、自動車部品世界最大手の独「ボッシュ(Bosch)」に車両制御ユニット(VCU)の開発を委託している。VCU開発費の相場は数百万元(数千万円)であるにもかかわらずだ。

バイトンの高級志向はこれにとどまらなかった。上海初のショールームを開設した際は、従業員の制服をドイツ製のオーダーメードとした。中国エリアの従業員の名刺も輸入エコ材料にこだわり、1箱1000元(約15000円)のコストをかけた。ちなみに中国国内の相場は1箱約300元(約4500円)だ。従業員数約300人の北米オフィスでは、軽食代だけで年間700万ドル(約7億5000万円)をかけた。従業員1人が年間2万ドル(約210万円)分の軽食を食べたことになる。

バイトン従業員の名刺(取材協力者提供)

結果は見ての通り。資金は底をついた。けれども車は未だに出来上がらない。

資金繰りに窮したバイトンは、スタンダードチャーター銀行の担当者に出資者との調整を依頼した。だが、すでにタイミングを逸しており、好ましい結果は得られなかった。バイトンの幹部社員は「公表していたシリーズCでの調達額は5億ドル(約540億円)だったが、実際に契約に至ったのは2億ドル(約210億円)未満、入金があったのは5000万ドル(約54億円)未満だった」と明かした。

バイトンが公表したシリーズCの出資者のうち、丸紅はバイトンと資本業務提携し、EVバッテリー事業などを推進するとしていたが、出資額は数百万ドル(数億円)だった。韓国の自動車部品メーカー「MS Autotech」の子会社「Myoung Shin」は、予定していた出資額の1割を入金した後、出資を中断している。

カーチャート氏は6月1日の社員総会の席上、中国エリアの従業員約1400人の給与、総額9000万元(約14億円)の遅配を認めた。消息筋によると、北米オフィスの従業員は500人未満だが、今年3月の人件費は中国エリア全体の3倍だったという。

バイトンをむしばんだ「大企業病」と幹部同士の不和

輝かしい経歴を持つ経営幹部らは、バイトンという新興企業に「大企業病」を持ち込んだ。

ブレットフィールド氏にもカーチャート氏にも創業者としての使命感と緊張感が欠けていた。外国籍の経営幹部らは最前線で何が起きているか全く理解していなかった。仕事のペースは緩く、週末にはほとんど出勤せず、一部の経営幹部は新型コロナウイルスの感染拡大期間に「所在不明」になっていた。

早期に入社した従業員の多くは当時を振り返り「本当の意味で会社のために責任を取ろうとする幹部はいなかった」と述べている。より深刻な問題は、ブレットフィールド氏とカーチャート氏の摩擦が日増しに激しくなったことだった。両者の関係は当初は良好だった。だが、立場も性格も異なる両者の矛盾が徐々に明らかになり、最終的には足の引っ張り合いにまで発展した。

2018年の春節、並んで取材を受けるカーチャート氏(右)とブレットフィールド氏(左)(バイトンの「微信(WeChat)」公式アカウントより)

ブレットフィールド氏は、中国国外における自身の勢力拡大を狙っていた。バイトンのCEO就任後は米国の人員を急速に増員し、同社の自動車に関する技術や研究開発、サプライチェーン、製造など中心的な事業を掌握した。

野心的なブレットフィールド氏とは対照的に、カーチャート氏はためらいがちで温和な性格のため、権力を手にすることはなく、当初は中国エリアにおける市場・求人・財務関係の業務のみを担当していた。バイトンの社員によると、2018年6月に開かれたエレクトロニクス製品の見本市「CES ASIA」の準備期間中、両者はセダンタイプのコンセプトカー「K-Byte」の世界初披露における発言時間の長さや発言の順番で争い、互いに一歩も引かなかったという。

ブレットフィールド氏とカーチャート氏の争いの過程では多数の派閥ができ、社内の求心力は低下した。正常な組織運営が妨げられ、部門間の協力も難しくなった。

両者の争いはブレットフィールド氏の敗走で幕を閉じた。昨年1月25日付けの社内文書でカーチャート氏のCEO就任が発表され、ブレットフィールド氏に近い複数の幹部が数カ月以内に離職することが明らかになった。当然の結果としてブレットフィールド氏もバイトンを離れることとなった。

バイトン南京工場(今年5月撮影、撮影者提供)

残念なことに、同年4月にブレットフィールド氏が離職して以降、バイトンは管理職の人事刷新や管理制度を再構築するチャンスを逃してしまった。カーチャート氏が以前にも増して中国籍以外の社員を信任するようになったため、外国人管理職の割合が高くなり、中国人社員の発言力が弱まった。しかも、各部門同士や上司と部下の間の意思疎通を図るためのチャネルや有効なメカニズムも欠けていた。

8億ドルを溶かして崩壊した中国新興EV「バイトン」、存続の目はあるか(下)

(翻訳・田村広子)

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