Grabへ7億ドルの大型出資 三菱UFJ、フィンテック投資で世界に目を向けた理由

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Grabへ7億ドルの大型出資 三菱UFJ、フィンテック投資で世界に目を向けた理由

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世界的な影響力を有する日本の投資機関や投資家は、なにもソフトバンクや孫正義氏にとどまらない。

日本の投資界ではコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)の実力も軽視できない。日本市場ではベンチャー企業への出資者の約8割がCVCで、米国とは真逆であるほか、CVCによる出資割合が平均3割というアジアとも大きく差がある。日本のメガバンクを代表する三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)も近年になってCVCを立ち上げている。

三菱UFJイノベーション・パートナーズ(MUIP)は今年2月、他VCファンドと共同で東南アジア最大のスーパーアプリ「Grab」へ7億ドル(約740億円)の戦略的出資を行った。

そのMUIPを率いるプレジデント兼CEOの鈴木伸武氏がこのほど36Krの取材に応じ、Grabへの出資をはじめとした東南アジア市場の展望を語った。

MUFGは2016年から世界のベンチャー企業に食指を動かしており、同年から2019年までの3年で傘下銀行を通じ15社のフィンテック企業へ出資してきた。フィンテックやブロックチェーン関連のベンチャー企業へ出資し、協業することで日本最大のメガバンクとして事業の刷新を図っているのだ。

当初は投資の対象を米国と日本に絞っていたが、MUIPを設立してからは世界に視野を広げた。過去1年に手がけた8割が海外案件だ。Grabの他にはマレーシアの中古車取引プラットフォーム「Carsome」、インドネシアのフィンテック企業「Investree」などに出資してきた。

MUFGのような大手金融企業はどのようにCVCを運営しているのか。出資先と自社事業との提携状況は?中国市場への評価は?さまざまな疑問に鈴木CEOが答えた。

――日本最大手の金融機関が設立したCVCとして、投資事業とMUFG本体の金融事業とをどのように擦り合わせていますか。

「MUIPを設立してからはグローバル市場に照準を定め、フィンテック分野に注力していく方針だ。CVCが出資をするからには、案件は自社の利益に符合するものでないとならず、MUFGにメリットをもたらすものでなければならない。MUIPの第1号案件は個人資産管理サービス『MoneyTree』だったが、同社の事業はクレジットカードを手がける子会社の三菱UFJニコスと連携させた」

――東南アジア市場に注目したのはいつですか。

「2014年に化粧品やスキンケア用品を扱うシンガポールのECプラットフォーム『Luxola』に投資した。これは独立系VC『グローバル・ブレイン』在籍当時の案件で、自身にとって初めての東南アジア案件だったが、Luxolaは1年後に世界最大手のファッション系コングロマリットLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)に買収された」

「東南アジアの経済成長は速い。中間層の多くがみるみる豊かになっている。彼らがより良質な化粧品を求めるようになるのは自然の流れだ。このように東南アジアではユニコーンが続々と誕生しており、外資の流入もますます増えている。起業家の質もどんどん高まっている」

――Grabに大規模な出資を行いましたが、今後の成長をどうみていますか。

「7億ドルといえば確かに大型出資だが、Grabは配車サービスの他にフードデリバリーや金融サービスも兼ね備えたスーパーアプリだ。今回の出資により、GrabはMUFGにとって東南アジアでよりスピーディーな事業拡大を実現する足がかりになるとみたからだ。すでにタイでGrabの配達員に向けた融資サービスなど、一部事業の試行が始まっている。Grabは東南アジアの複数の国で事業を展開しており、こうした地理的な強みを活用できると考えている」

――フィンテック業界における日本と東南アジアの違いは。

「日本の金融業界は数十年の歴史がある。東南アジアはまったく異なり、金融の歴史が浅く、スマートフォンを介したサービスが主流だ。スマートフォンが金融機関の営業所やATMの役割を担っている。また古参の銀行と新興のインターネット銀行やフィンテック企業が衝突することもあまりない」

「日本ではそうはいかない。日本の銀行は実店舗とATMを多く抱えていて、オンライン業務を行いたくともオフライン業務とのバランスをとる必要がある。日本のフィンテック企業に投資して気づいたが、彼らの多くは国内市場しか見ていない。東南アジアのフィンテック企業は自国市場だけではなく海外市場やグローバル化も見据えている」

――日本の資本は東南アジアで一貫して強い力を持つ一方、中国系のVCがますます東南アジア進出を進めていますが、競争への懸念は。

「日本と中国の投資機関は競争関係にあると考えていない。一つの企業に日本と中国双方の出資者が名を連ねるのは当たり前のことであり、それぞれがおのおのの利益や需要に基づいて出資しているだけだ」

――中国市場に投資する日本の投資機関も多いですが、MUIPではこれまで中国案件を手がけていません。中国のフィンテック企業は先進的でベンチャーも数多く存在しますが。

「中国に投資をしてこなかった理由は複数ある。自社事業や関連政策の影響で、MUFGとしてはそう簡単に中国のベンチャー企業と提携できるわけではないというのが一番の理由だ。MUFGは米国や東南アジアでは現地の中小企業向け業務を行っているが、中国では現地の中小企業や個人との事業上のかかわりが薄く、中国のフィンテック企業との協業が見えてこないということもある」

――フィンテックといっても多くの分野に細分化されていますが、特定の分野に集中していますか。

「投資の方向性としては4種類の企業をターゲットとしている。一つ目は、中小企業や消費者をターゲットとしたフィンテック企業だ。二つ目はGrabのようなプラットフォーマー型企業で、彼らがサービスを通じて収集した大規模なデータがMUFGの各種金融サービスに活かせると見込んでいる。三つ目はブロックチェーンや暗号通貨を手がける企業で、彼らの技術によって資産管理にかかるコストを削減できると考える。四つ目はデジタル決済を手がける企業だ」

――新型コロナウィルスが投資業務におよぼした影響は。

「投資家本人が直接現地へ赴いてターゲット企業を訪問できないことや、企業側では資金調達の際に過去の出資者に依頼する傾向が強まることなどだ。新規出資者ではデューディリジェンスに時間がかかってしまうからだ」

「投資のスピード感は鈍くなっているが、コロナ禍において、フィンテックの実用化はますます重要性を帯びてきている。キャッシュが使われることがなくなり、銀行の営業所が利用されることもなくなってきている。そこで、我々はオンライン化や自動化を推進できる企業により注目するようになった。MUFGとしては自社のデジタル化を実現したいこともあり、MUIPには世界のフィンテック企業に投資することでMUFGを刷新させるというミッションがある」

(翻訳・愛玉)

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