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中国のSNS業界では、このところ新形態のサービスが登場している。その筆頭は、メッセンジャーアプリ「子弾短信(Bullet Messaging)」。トレンドの移り変わりが激しいモバイルインターネットの世界で、新しいサービスや新しいアプリは常にユーザーの注目の的だ。「とりあえず試してみよう」と食指が動くユーザーも少なくない。
WeChat(微信)とは異なり、見知らぬ人同士を結び付けるマッチングアプリも脚光を浴びている。モバイルインターネット専門の調査研究会社「貴士移動(Quest Mobile)」の調べでは、位置情報サービス(LBS)に紐づけたマッチングアプリ「陌陌(MOMO)」や「探探(Tantan)」が人気だという。従来型の変わり映えしないサービスに飽き飽きしているユーザーには新鮮な存在だ。
そのような中、さらに新しい形態のSNSが注目を集めつつある。「位置情報SNS」といわれるジャンルだ。ユーザー自身や友人の所在地、状況などをリアルタイムで地図上に表示する機能が売りだ。2014年にはすでに登場していたジャンルだが、当時はまだニーズが熟しておらず、普及には至らなかった。多くのユーザーが地図機能に求めるのはナビゲーション程度だったからだ。
ところが2017年に入ると状況は一変。地図機能は大幅に拡張する。配車を依頼したドライバーと自分の距離を確認したり、デリバリー配達員の現在地を確認したり、シェアサイクルの設置場所を確認したりと用途が広がった。
中国の新興地図アプリ
そこで、中国で最近ローンチされた位置情報SNSを3つ紹介する。
1) Spot
友人の現在地をリアルタイムで確認し、アプリ内で交流ができるサービス。ショート動画やスタンプ、音楽データなどを共有できるほか、自分自身の現況や所在地を地図上で公開することができる。友人は微信、QQ、アドレス帳から招待できる。UIデザインに優れ、地図を拡大すると3Dで表示されるのが魅力だ。
2) Alice(ベータテスト前段階)
性別とハンドルネームを登録するだけで利用できるサービス。地図上の任意の位置にチャットルームを開設できるほか、現在地に近いチャットルームを人気順、新着順などで表示できる。各チャットルームでは近隣に関する情報交換をしたり、イベントや関連の話題を共有できる。古くなった情報を排除するため、それぞれのチャットルームは設立後100秒で閉鎖される。
3) 大茄来
居住エリア付近の住人とつながることができる「ご近所SNS」。居住地だけではなく、よく行く場所でも登録できる。各コミュニティで地域の情報を共有できるほか、自身の趣味や関心をタグ登録しておくと、同じ嗜好の仲間を探せる。
位置情報SNSの将来性
Spotによく似たサービスに、2015年に欧州で広まった「Zenly」がある(翌年にSnapchatが買収)。Spotの運営会社「深圳那個什麼科技」も同年に設立され、創業当初にシードラウンドでテンセントなどから150万ドル(約1億7000万円)の出資を受けている。2018年3月にAppStoreでローンチしたSpotだが、ダウンロード数400万を超えたZenlyほどユーザー数が伸びないのは、海外のサービスをそのまま移植しても中国の実情にマッチしないからだろう。
中国にはあらゆる機能を網羅したWeChatが君臨している。位置情報、音楽、動画、決済などあらゆる機能を結集し、すでに生活インフラになったと言っても過言ではない。WeChatからの乗り換えを成功させるためには、WeChatでは代替できない機能を呼び水とするしかない。WeChatがボイスチャットを導入してからわずか1カ月で60倍の成長を見せたのがいい例だ。既存の機能を拡張した程度では起爆剤にはなり得ない。
また、パーティーや集まりを好む欧米のユーザーと異なり、中国のユーザーは内向きの「オタク気質」が多い。友人が今どこに集まって、何をしているかにはそれほど関心がないのだ。さらに、Zenlyのような地図に特化したアプリがSnapchatなど写真共有系のアプリに勝てないのは、地図機能がそもそも独立したアプリに適した要素ではないからだろう。地図機能はあくまでSNSの中の一機能と位置付けたほうがユーザーの利用習慣に合致する。
位置情報SNSはリアルタイム情報を共有するには向いているが、情報の蓄積には向いていない。見知らぬ人同士が知り合うきっかけとしては新鮮だが、互いを深く知り、関係を深めるための仕掛けがなければ、アプリの利用率は上がらないだろう。
「Alice」のように、現在地情報の交換を軸とするサービスは、その場で需要を満たせる即時性や匿名性に優れるが、交友関係を育むのには適していない。徐々に構築されていく交友関係がユーザーを惹きつけられないなら、アクティブ率を上げるには、各ユーザーの利用頻度やユーザー分布の密度を上げていくほかない。
知りたいことや解決したいことがあったとき、知人ではなく、見知らぬ人に助けてもらいたいと思う頻度は日常でどの程度あるだろうか?仮にSNS上に質問を投げても解決に至らなかったら、そのSNSは「役に立たない」と思わないだろうか?こうしたユーザーの期待に応えるには、相当数のユーザーに登録してもらわないとならないが、それは可能なのだろうか?こうしたさまざまな問題をクリアできなければ、ヒットさせるのは難しいだろう。
居住エリア限定のネットワークが構築できる「大茄来」には、継続性があるかもしれない。ハッシュタグで趣味の近い仲間を探すことができるほか、近所の人同士で食事に行く、物を貸し借りするなどリアルな交流に発展する機会も多いからだ。また、人は自身の居住エリアに対して関心が薄れることはない。こうした要素も継続利用につながっていくだろう。米国の類似モデル「Nextdoor」ではここからさらに発展して、家事代行やベビーシッターなど、多くの地域密着型サービス業者がプラットフォーム上で営業活動を行っている。
大茄来の創業者によると、同社のフィールドセールスによる顧客獲得率は6~12%で、このペースを維持すれば、次回の資金調達後1カ月以内に北京市内で80万人の新規ユーザーを獲得できると見込んでいる。ただし、これを他の都市で広く実施する場合、障壁は大きい。
位置情報SNSの大きな利点は、広告媒体としての強みだ。これまで大手の媒体に見過ごされてきた小規模事業者にとって、地図上に掲載される広告は、近隣の潜在顧客にダイレクトに届く頼もしいツールだ。位置情報SNSは、収益構造としては潜在力のあるプラットフォームと言えるだろう。
(翻訳・愛玉)
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