燃料電池を航空機に 中国政府も後押し、2030年に11兆円市場に

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水素を用いた燃料電池を航空機向けに開発する「済美動力科技」がエンジェルラウンドで約1000万元(約2億円)を調達した。出資したのは険峰長青(K2 Angel Partners)で、源合資本(Yuanhe Capital)が単独で財務アドバイザーを務めた。調達した資金は製品開発や商業化推進に充てる。済美動力は2021年9月に設立された。

燃料電池を手がける企業で真っ先に航空機への実装を目指すケースは少数だ。しかし、これには中国の政策が作用している。中国国家発展改革委員会は3月23日に「水素エネルギー産業の発展に関する中長期的計画(2021〜2035年)」を発表し、その中で「燃料電池を航空機分野で活用していく試みを積極的に進め、水素エネルギーを用いた大型航空機の開発を推進していく」と述べている。

済美動力を創業した宋珂氏によると、既存の航空エンジンやリチウムイオン電池を使用した場合と比べ、燃料電池はエネルギー効率のほかCO2排出量削減や安全性でも優れており、より必要性の高い応用シナリオだという。

航空エンジンは機械的エネルギー変換を用いるもので、システム効率が50%を超えることは難しい。騒音や振動という問題を抱えるほか、二酸化炭素や窒素酸化物などの温室効果ガスを排出することにもなる。リチウムイオン電池を航空機に搭載するには重量や容量面で限界があり、航続距離が短いという問題もあるため、大型航空機に用いるのは難しい。

一方で燃料電池の利点は水素ガスの発熱量が石油の3倍、リチウムイオン電池の180倍に達することや汚染物質を排出しないこと、ガスの充填が速いこと、安全性も比較的高いことが挙げられる。

しかし、航空機用燃料電池の開発は燃料電池の中でも最も難易度が高いものとなる。宋珂氏によると、航空機が飛行中に遭遇する環境は多元的で、飛行高度を上げる過程で温度や湿度、酸素濃度などが著しく変化する。そのため、航空機に搭載する燃料電池は重量や動的適応能力、エネルギー密度などで高度な条件をクリアしなければならない。

これらの課題を解決するため、済美動力はセルスタックとシステム構造から着手。まずは既存の燃料電池の基礎ユニットを改良していった。車載用燃料電池のセルスタックは一般的に出力100kW(キロワット)以上だが、航空機用燃料電池もkW規模の出力で、その構造は大きな改良の余地がある。

改良の一例として、これまでの燃料電池は負極にエアコンプレッサーを取り付け、電池内に空気(酸素)を取り込む必要があったが、済美動力はエアコンプレッサーをより軽量な特製ファンに取り替え、送気に加え放熱も行えるようにすることで一貫性のある熱管理システムを形成した。

さらに燃料電池の正極は従来型の場合、一般的に水素供給循環システムを取り付けるが、済美動力はこれを簡素化して排気口に閉鎖式処理を施し、水素ガスの使用量を必要に応じて調節できるようにした。

燃料電池システムは普通、セルスタック、酸素供給システム、水素ガス供給システム、液冷管理システム、制御システムで構成される。済美動力はこれらのサブシステムを引き算方式で減らし、軽量化しながらエネルギー密度を上げ、航空機への活用により適応させていく。

宋珂氏が考える同社の競争力の一つは、電池をモジュール化し高度に改善できるシステム統合力だ。バイポーラプレート、セルスタックなど燃料電池のコアパーツに関する知的財産権も取得しており、これらを基盤とした開発力も有する。

すでに軍事用ドローンメーカーと戦略提携を結び、複数のeVTOL(電動垂直離着陸機)メーカーとの提携も協議中だ。燃料電池の搭載規模が拡大するにつれ、コストもより圧縮できる可能性がある。データによると、航空機用燃料電池の市場規模は2030年までに910億ドル(約11兆5200億円)にまで成長する見込みだ。

宋珂氏によると、航空機の商業化が進めば、長期的な計画として航空機向け燃料電池で積み上げてきたモジュール化のノウハウを自動車や船舶、分散型電源に流用していくという。

現在試みているのは、「積み木を積む」ように小出力のモジュールを集積して高出力の電池本体を造ることだ。「分散型」の構造ならば、実際の稼働状況に応じて必要な数のモジュールを起動できるため、構造を簡素化しながらも全体の効率を上げられる。

創業者の宋珂氏は同済大学自動車学院で自動車工学の博士号を取得し、同校で燃料電池研究所の所長を務めた。その他の多くのコアメンバーも同済大学自動車学院で学び、多くが水素燃料電池業界で15年以上のキャリアを積んでいる。
(翻訳・山下にか)

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