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中国の大手動画配信サービス「愛奇芸(iQIYI)」が5月17日、2019年第1四半期決算を発表した。中でも、「その他の事業」による売上高が、前年同期比143%増の9億8000万元(約160億円)と目覚ましい業績を見せた。この「その他の事業」には、ライブ配信事業やゲーム事業が含まれる。なお、事業全体の売上高は前年同期比43%増だった。
「その他の事業」が急成長を見せた背景には、ゲーム開発・配信企業「天象互動数字娯楽(SKYMOONS)」を買収したことが挙げられる。しかし、愛奇芸はなぜゲーム事業を手がけるようになったのだろうか。
愛奇芸の財務状況が芳しくないのは以前から周知の事実だ。事実、2018年の純損失は91億元(約1500億円)に達している。競合他社の「優酷(YOUKU)」がアリババグループ(阿里巴巴集団)に、「騰訊視頻(テンセント・ビデオ)」がテンセント(騰訊控股)に資金面で支援を受ける一方、愛奇芸にはこれといった後ろ盾がなく、一刻も早く自力で収益化を実現しなければならない。こうした中で、ゲーム事業に着手したのもうなずけるところだ。
2018年第3四半期、愛奇芸は天象互動の海外事業部「Skymoons」と天象互動数字娯楽の両社株式の100%を取得し、本格的にゲーム事業を傘下に入れた。
なぜゲーム事業なのか?
同社がゲーム事業に活路を求めたのは、以下の理由によると考えられる。
■マネタイズが容易
36Kr傘下の分析機関「智氪研究院」がモバイルゲーム企業の大手5社を対象に概算した売上総利益率は、2016年の60%から2018年には71%に伸びている(数値は5社の平均値)。中国のゲーム業界では、関連当局によるライセンス認可凍結の影響で現在もやや減速傾向が見られるものの、売上総利益率がマイナスで推移している愛奇芸からすれば、やはり「金の生る木」と映るだろう。愛奇芸の2019年第1四半期の売上総利益率は-4.1%だった。
■事業多角化での挫折経験
主要事業である動画配信サービスにかかる巨額のコンテンツ調達資金を補てんすべく、これまで収益化への道を探り続けてきた愛奇芸だが、これまで手がけてきた事業で目覚ましい成果は得られていない。
モバイルインターネット関連調査会社「QuestMobile」による2018年12月時点のデータでは、愛奇芸メインアプリ(動画配信)の月間アクティブユーザー(MAU)が5億4800万人であるのに対し、電子書籍アプリ「愛奇芸閲読」が1270万人、短編動画アプリ「納逗」が580万人、幼児向け教育アプリ「愛奇芸巴布」が120万人と、いずれも振るわない。
■映像作品とゲームの連動コンテンツで成功
実のところ、愛奇芸にはゲーム関連の事業で実績がある。2014年から現在まで、同社が配信に関わってきたゲームは約5000タイトルだ。とくに、連続ドラマ「花千骨(はなせんこつ)~舞い散る運命、永遠の誓い~」のゲーム化に成功したことで、「ドラマ・映画のゲーム化」に新たな可能性を見出している。ただし、現時点では「花千骨」以降、目覚ましいヒットを記録した作品はない。
映像とマンガ、ゲームコンテンツで強いのは?
アプリデータ分析「七麦数據(qimai.cn)」やアプリストア「Tap Tap」の調べによると、愛奇芸および天象互動が開発、配信に携わるタイトルの多くが、ストーリー性に重きを置くRPG(ロールプレイングゲーム)だ。映画やドラマを原作とするゲーム、あるいは、後に映画・ドラマ化できるゲームとしては適している。今年5月12日時点で、愛奇芸傘下のRPGは176タイトルで、全体の74%を占めている。
愛奇芸が買収する前の天象互動も、映画やドラマを原作とするARPG(アクションRPG)が主体だった。両者の親和性がうかがえる。
■ゲームとの連動にはマンガが最良の選択か?
愛奇芸に限らず、近年、映画やドラマ作品と連動で制作されたゲームに、大ヒット作は見られない。替わって、マンガやアニメとコラボした作品がブームの兆しを見せているようだ。
「Fate/Grand Order」や「アズールレーン」の中国での配信権を握るビリビリ動画(bilibili)は、RPGを中心としたゲーム事業で大きく躍進した。同社のゲーム事業売上高は2017年に83%、2018年に71%の成長を記録している。2019年第1四半期には、モバイルゲーム部門の売上高が8億7000万元(約140億円)となった。
ここで、映像作品とコラボしたゲームと、マンガ・アニメ作品とコラボしたゲームの売上高を比較してみよう。モバイルアプリ分析「Sensor Tower」の調べでは、前出の「花千骨」は、発売5年目となる今年4月、売上高は3万ドル(約330万円)だった。一方で、漫画・アニメと連動している発売3年目の「Fate/Grand Order」の同月の売上高は500万ドル(約5億5000万円)だった。その差は歴然としている。
映画・ドラマをゲーム化(あるいはその逆)するには、登場人物を実写映像からバーチャル映像に(あるいはその逆に)転換する工程が生まれ、そこに高い再現性が問われる。しかし、マンガやアニメの場合はそのまま移入すればよく、プレイヤーにとっても違和感がない。当然、売れ行きも見込める。
愛奇芸もマンガ・アニメコンテンツのゲーム化には着目しており、アニメ化もされている日本のスマホゲーム「Re:ゼロからはじめる異世界生活」の開発に着手している。配信はまだだが、Tap Tapでは5月7日時点で予約件数が39万件に上っている。
■アニメ原作のゲームは愛奇芸を救えるか?
ビリビリ動画で公開されたアニメシリーズが再生回数1億7000万回を記録した「Re:ゼロから~」は、果たして愛奇芸にとって大いなる救いとなるだろうか?
前述で示した通り、モバイルゲーム事業の売上総利益率が2018年時点で業界平均71%だったことを鑑み、愛奇芸の同年の売上高を基に概算すると、「Re:ゼロから~」を配信することで、愛奇芸の事業全体の売上総利益率は7.4~8.7%にまで改善される。
ただし、愛奇芸が解決すべき問題は他にもある。マクロ経済の影響を受けて広告主の予算が縮小したことにより、広告事業にも一定の影響が懸念されることだ。また、当局による監督・管理の影響で、ドラマやバラエティなどの動画コンテンツも一部で配信に遅れが出ている。これも広告主離れを引き起こす原因となる。
ゲーム事業が同社の売り上げに貢献することはもちろん重要だが、愛奇芸が乗り越えるべき壁は決して低くない。
(翻訳・愛玉)
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