世界初のL4クラス自動運転バスが量産体制へ、開発元のバイドゥ(百度)をどう評価するか?
2018年7月4日、中国最大のサーチエンジンを運営する「バイドゥ(百度)」は同社主催のAI開発者集会で、世界初の量産型自動運転バス「アポロン(阿波龍)」が正式に量産体制に入ったと宣言。これは、バス車両製造で国内最大手のキンロン・バス(金龍客車)と共同開発したL4クラス(高速道路で自動運転可能なレベル)のバスである。
世界初の自動運転バス、開発元は中国最大の検索エンジン
バイドゥはちょうど1年前の2017年7月、自動運転車の開発連合「アポロ計画」を立ち上げたと発表した。同プロジェクトには米・フォードモーター、独・ダイムラーをはじめ、自動車やITの世界大手がこぞって参加している。そして1年後の現在、バイドゥCEOのロビン・リー(李彦宏) 氏は、AI業界の中心に立ったと言える。しかし、深く突っ込んで見れば、現段階のアポロ計画では、彼の公言した壮大なプランはまだ完全に実現したとは言えない。
今年の同集会で、ロビン・リーCEOは、アモイ金龍の代表取締役・謝思瑜(シエ・スーユー)氏とライブ中継をつなぎ、100台目のアポロンが生産ラインに入るのを見届けた。「自動車製造とパワーポイントの資料づくりは違う。自動車製造は常に納期が遅れるものだ。それでも今日、我々は有言実行を果たしたのだ」と、リー氏は誇らしげに語った。
中国製自動運転バス、初の輸出先は日本
北京、深セン、武漢(湖北省)、雄安(河北省)、平潭(福建省)などでまもなく営業運転に入るアポロン。実は、中国製の自動運転EVとして初めて海外輸出されることになっている。その輸出先は日本。一部原子力発電所内での人員輸送や、東京の高齢化団地で住人の足として使われるという。
アポロ計画が発表されて1年。その成果は確かにすばらしい。
まずは協力パートナーを増やすことが急務だった。バイドゥ副総裁にしてインテリジェントドライビング事業グループのマネージャー・李震宇(リー・ジェンユー)氏によると、アポロは既に22万に及ぶコードを開放し、1万人を超える開発者たちがアポロのオープンソース使用を推奨、エコシステムのパートナー数は116企業に達したとのことだ。
3ヶ月に1回の頻度で更新されているアポロ計画。このほど発表された「Apollo3.0」は、「安価な解決法」をコンセプトとするApollo2.5に続き、「量産に向けて」とのスローガンを謳っている。
現実問題、アポロンの自動運転は成り立つのか?
今回発表された「自動駐車(Valet Parking))「無人作業用ミニカー(Micro Car)」「自動運転シャトルバス(MiniBus)」の3つの自動運転スキームは、開発者や協力者たちがわずか3ヶ月で自社開発の「アポロン」を作り出すのに大いに助けになったという。
バイドゥは自動運転とAI分野の最前線を走っていると言える。それでも、「リー氏の掲げる壮大なプランはいまだ実現していない」と言えるのには、以下の理由がある。
まず、今回の自動運転は封鎖された敷地内で実現したものに過ぎず、実際の公道で同じことをするとなれば難易度が全く違うということが挙げられる。封鎖された生産基地の敷地内であれば、クラウドコンピューティングも高精度地図も必要なく、走行スピードも速くはない。運転環境もまったく違う。多くの乗用車が行き交う高速道路上や市街地での自動運転を考えるなら、アポロンに搭載された技術はまだ「少年のようなもの」だ。
当然、現在の政策法規や技術的環境条件などが不十分であることもL4クラス車の量産が難しいことと関係がある。あのテスラでさえも、現段階ではL2クラス(渋滞時の衝突防止可能レベル)の搭載にとどまっており、自動運転というよりはあくまで運転補助機能としての位置づけにいる。

量産にはほど遠い現実
次に100台余りの台数を「量産」と呼べるかどうかという問題だ。実際、これは様々な見方がある。
確かに概念の面から言えば、50台以上を生産したら「量産」と定義できる。しかし、多くの自動車メーカーではプロトタイプ車ですら100台以上は製造する。今回のアポロはせいぜい「少量生産」であるとしか言えず、大規模機械化生産にはまだほど遠い。ちなみにバイドゥやキンロン側から、現仕様のアポロを大規模生産するという発表は未だにない。
安全性の担保など、山積する課題
これらの他、多くの問題にバイドゥはまだ明確な回答を得ていない。
ひとつ目の問題は、アポロンの安全性。バイドゥ側は、中国国家客車質検センター重慶試験場による安全認証やISO 26262の認証などを取得済みだと強調し続けてきたが、ここにもいくつか疑問がある。
前者は車全体について、例えば衝突や排気ガスについての安全認証だ。後者のISO26262は、公開された資料によると「自動車の特定の電気機器、電子設備、プログラマブル電子デバイスなど、電気・電子分野での機能安全についての国際規格」だ。2011年に正式公布された、主に「車両とシステムの機能性への安全要求」であり、故障診断や故障時処理の信頼性、システムの確保あるいは製品への信頼性、デザインによるコストの増加抑制などに関する安全システムと製品の合致に必要な安全性全ての等級を表すものである。
しかし、自動運転そのものに関連する機能は数年後も安定しているものだろうか?例えばハードの耐久性や信頼性について、バイドゥは多くの情報を公開していない。レーザーレーダー、webカメラなど自動運転に必要な感知システムは、車両本体と同等の耐用年数を持っていると言えるのか?1台の車は10年、20年というスパンで乗るものだ。しかし、自動運転に搭載するハード系は現在のところ3~5年ほどの寿命しかない。技術の進歩を繰り返してはじめて、車両そのものと同等の耐用年数に達するものだろう。
ふたつめの問題は、さらに重大な問題にまで発展する可能性がある。量産前の試験段階でアポロンはどのぐらいの走行距離をこなしたのか?過酷かつ極端な環境下でのテストはどの程度行ったのか?故障率と事故率はどうなっているのか?もし一部のシステムがダウンしても、乗客の安全を保障できるのか?これらに対する確証がないことは問題だ。
AI開発者集会の後、バイドゥの李震宇氏は取材に応じてこう発言した。「人を運ぶ車は、人間自身が予備のシステムとして機能するものだ。危険が起こった時に、人は緊急ブレーキをかけることができる」。
高コストと収益化への障壁
3つ目の問題は、アポロンの運営効率についてのことだ。
アポロン1台の価格について、ある関係者が36Krに漏らしたところでは、およそ100万元(約1700万円)ほどになるという。別の関係者は「それ以上の価格になる」とも言った。生産台数の少なさ、自動運転システムのハード面や技術を考慮に入れたといても、これは適当な価格とは言えない。
もしこのような価格で、しかも現在公表されているような都市で運用する予定ならば、1台当たりの使用コストは非常に高くなるはずである。バイドゥ側は「アポロの買い手はある」としているが、たった100台あまりを中国各地ばかりか日本でも運用するのは、まるでアポロンの「大規模な試運転」のようである。
また、後続の運営は誰が行うのだろうか?バイドゥがどのようにデータ収集を進め、次段階の研究開発を終えても、明らかにならないだろう。
4つ目の問題は、この自動運転システムで利益をどうあげるか?だ。
長期にわたってバイドゥはこの話題について明確な回答を出したことは一度もない。今回も「2020年に60~70%の車は全てネットワーク・カーとなっているはずだ。テレマティクス上でなら収益化もさらに早くなるはずだ。この分野に関してバイドゥは優位にある」と述べるにとどまった。李震宇氏は、「自動運転はまだ初期の段階だ、商業化はそれほど急いでいない」とも発言している。
バイドゥの自動運転開発は評価に値する成果だが、過大評価は禁物
乗用車の分野でバイドゥはこれまでずっとプロジェクト進行を加速してきた。韓・ヒュンダイとの過去の提携関係もそうであるし、今回の集会で宣言した国内EVメーカー大手・BYD(比亜迪)との提携プロジェクトもそうだ。車両認証プラットフォームを開放する計画で、BYD側はバイドゥに一部のセクションを開放し、バイドゥが更なる深層データを取得できるようにするとのことだ。
将来、自動運転を行うAIを作り上げたら、バイドゥは利益分配方式を採用して営業収入を得ることに成功するかもしれない。しかし、その道に到達できるかどうかはまだ観察の必要がある。
この1年間、バイドゥが自動運転分野において相当な収穫を上げたことは確かだ。しかし、一部メディアがトヨタやBMW、テスラなどの無人運転車量産計画と比較して、「バイドゥが一歩先を行っている」とするのは過大評価と言えよう。
今の段階で言えることはひとつ。ロビン・リー氏の“大言壮語”は、まだ実現の途中にあるということだ。