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アダルトグッズをオンラインで販売する中国大手企業「春水堂」は2003年に開業し、2014年には当初の小売業から自ら商品開発を手がける業態に転身した。2016年9月には中国のベンチャー向け市場「新三板(New OTC Market)」に上場し、さらにはそこから1年も経たずしてラブホテルの運営に乗り出す。加えて、性の健康を管理するスマートデバイスの開発にまで着手した。さらには自社工場を構え、ラブドールの製造も始めている。
36Krはその創業者兼CEOである藺德剛氏を取材した。以下はその抄訳。
――アダルトグッズ業界はあまり表だって展開できず、ターゲットも限定されてきますが、この業界に携わるようになったきっかけは。
「もともと物理を専攻する『理系男子』だったわたしは、自分の能力と自らが予想する未来図を礎として春水堂の事業を開始した。2000年ごろにはインターネットやオンラインショッピングの持つ可能性に着目していた。(ECで中国最大手の)淘宝網(タオバオ)は2003年5月に創業している。つまり、春水堂はタオバオよりも早く開業したのだ」
「Eコマースは(通常の小売りに比べて)よりプライベートな領域の商品も売れる。当時、アダルトグッズを販売する店といえば路地裏の小規模な店ばかりで、経営力にも欠けていた。しかし性に対する中国人の観念が徐々に変わり、アダルトグッズへの需要も高まってきている。こうした背景から、アダルトグッズを扱うオンラインショップの起業を考えた」
――17年の歴史の中で春水堂はオンラインショップからオリジナルブランドへ、そして自社工場まで持つに至りました。手がける事業もアダルトグッズ販売からラブホテル経営、スマートデバイスやラブドール開発まで広がりました。こうした方針転換の背景は。
「一企業の持つパワーには限りがある。これまで長年にわたりアダルトグッズを中心に手がけてきたが、現在ではこうした商品よりも性の健康やラブドール、セックスボットといった分野に攻め込んでいる。事業は攻めと守りの二本立てだ。事業拡大を目指してがむしゃらに攻め、同時にコストや価格、技術面では足固めを進めている」
――アダルトグッズのオンライン販売を縮小する理由は。
「中国のEコマース業界はアリババやJD.com(京東商城)といったプラットフォームが独占しており、特定の商品を取り扱うバーチカルな業態にはお鉢は回ってこない」
「ヒット商品を決定づける要素は商品力と宣伝力の二つがある。しかしアダルトグッズは宣伝するにも限界があり、商品の差別化も難しい。差別化商品があったとしても、広告を打って声高にアピールするわけにもいかない。間断なく新商品を出し続けるしかないのだ」
――性の健康に関する分野を攻めるとのことですが、現状はいかがですか。
「骨盤底筋を修復し鍛えるダンベルを発表し、米国のアマゾンで好調なセールスを記録している。2014年末に発売した商品だが、現在は6代目にまでバージョンアップした。商品力、技術力ともに充実した商品で、昨年は10万個売れた。今年はほぼ20万個になるだろう。海外では70ドル(約7400円)で、中国国内では400~500元(約6300~7900円)で販売している」
――ラブドールの開発を考えはじめたのはいつ、どのような背景でですか。
「2017年5月には開発に着手していた。3年間の開発期間を経て今年9月に正式発売している。ラブドールを手がけるようになった理由は複数あるが、第一に販売価格が高いということだ。欧米製や日本製のラブドールはいずれも5万元(約80万円)以上はする。第二に、ラブドールの製造には一定の技術力が必要で、中国国内でこれを作れるのは6~7社しかない。つまり競合が少ないということだ。それ以外には、AIを搭載できる可能性がある製品ということで、将来的な展開も期待できる」
――ラブドールをめぐる市場の現況は。
「製品には二つのタイプがあり、一つは空気を充てんする数百元(数千円)のタイプ。安いがリアルさとはほど遠い。二つ目はTPE(熱可塑性エラストマー)やシリカゲルを用いた本物そっくりのタイプ。世界で年間200万体売れているタイプだ」
「TPE製ラブドールの製造工場はほとんどが広東省深圳市か東莞市に集中している。中国国内では小売価格3000~5000元(約4万7000~7万9000円)で、月5万体ほど売れる。欧米や日本では小売価格1000ドル(約10万5000円)ほどで、世界で月15万体売れている」
「しかしTPE製ラブドールには欠点も多数ある。TPEでは可塑性に限界があり、人物のディテールを再現するには物足りない。植毛もできないため、頭部にはウィッグをつけ、眉は描き足す形になり、リアルさに欠ける。さらに寿命は6カ月と短く、使用を始めて2~3カ月後には変形しはじめる。また、重すぎるため、ユーザーが自ら運んだりポーズを変えたりするのが難しい。一方、液体シリカゲルは素材としてTPEの約6倍の価格だが可塑性が高く、製品寿命も10年で、変形もしない。塗装も剥げず、植毛も可能だ」
「ラブドールの日本最大手はオリエント工業で、一体50~70万円で年間2000~3000体が売れる。販売額のうち3分の2が利益だという」
――こうした現状の打開策は。
「いくつかの要点がある。一つ目は見た目の美しさ、二つ目は肌質や毛穴、浮いた血管まで追求するリアルな感触、三つ目は重すぎないことだ」
「春水堂では2018年に9カ月をかけて素材・モールド・製造技術の総合的な融合を図り、ラブドールのフォルムを損ねない前提で軽量化を実現させた。身長165センチで体重40キロだったものが、最終的には3割の減量に成功した。また、シリカゲル製ラブドールの価格相場が中国では1万5000元(約24万円)、欧米・日本では7000ドル(約74万円)だったところを、春水堂では国内価格6000元(約10万円)、海外価格2000ドル(約21万円)にまで抑えている。我々のモットーは『シャオミ(Xiaomi)の価格でiPhoneを売る』だ」
――その他に事業拡張計画はありますか。
「我々はラブドールを『生体工学的ロボット』と位置付けている。『生体工学的』とは物理的なサイズや触感、硬さなどを含んだ概念だ」
「我々は医学部の人体解剖学の授業向けに本物の人体と遜色ないほどの解剖模型を提供できる。それ以外に、ヒトの行動を再現したり感情を表現したりすることも念頭に、商業施設でコンシェルジュを務めるロボットなども考慮している。車両の衝突安全実験に用いる人体ダミーも多くの自動運転開発企業から需要がある。実験には身長・体重が本物のヒトと同等で、触感も同じダミーが必要だ。一部企業は韓国からこうしたダミーを輸入しているが、価格は60万元(約940万円)ほどする」
「中国のある水族館では2600万ドル(約27億4000万円)を投じてAIを搭載したイルカを導入したそうだが、こうしたものも我々の製造技術で作れる」
――将来的にラブドールにもAIを搭載するのでしょうか。
「会話のできるセックスボットが11月にも量産に入る。来年の6月には視覚センサーも搭載される予定だ。ラブドールの顔に視覚センサーが内蔵されると、ユーザーが抱き寄せるなどのアクションを起こした時に反応して言葉を発するなど気持ちの交流が加わる。視覚センサーによってユーザーの感情や姿態も検知し、悲しい時に慰めの言葉をかけてくれるといったことが実現する」
「3~5年後にはAIをVR(仮想現実)・AR(拡張現実)とかけ合わせた機能も開発できるだろう」
(翻訳・愛玉)
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