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中国人がコーヒーを知るきっかけとなったのはスイスに本社を構える「ネスレ」だろう。1980年代に中国市場に進出したネスレはコーヒーの代名詞としてその名を知らしめ、中国におけるコーヒー文化を形作ってきた。1999年にスターバックスコーヒーが中国に進出するまで、多くの人々にとってコーヒーと言えばネスカフェだった。
その後、中国のコーヒー市場は天地を覆すほどの変化を迎える。2010年代には洗練されたコーヒーショップが林立、より上質のコーヒー製品が爆発的にヒットし、かつては流行の最先端だったネスレのインスタントコーヒーは「安物」として脇に追いやられてしまった。
2019年の「双11(ダブルイレブン)」セールでは、インスタントのスペシャルティコーヒーを販売する「三頓半咖啡(Saturnbird Coffee)」の売上高が大御所ネスレを超え、ECプラットフォーム「天猫(Tmall)」のコーヒー部門で売上トップに輝いた。2020年の双11にも首位を保持し、売上高は1億元(約16億円)を超えた。
コーヒーをめぐる投資も活発に行われるようになる。2020年2月以降に資金調達を行ったのは、公表されているだけでも三頓半、「沃欧咖啡(Wow Coffee)」「時翠咖啡(Secre Coffee)」「永璞咖啡(Pu Coffee)」の4件に上る。三頓半は9月初めにシリーズBで資金を調達し、現在の評価額は8億元(約127億円)を超えている。
注目に値するのは、コロナ禍が新興コーヒーブランドの成長に一役買ったことだ。感染症流行期間中は販路を絶たれたカフェやテイクアウト専門のコーヒーに代わり、インスタントのスペシャルティコーヒーが脚光を浴びるようになり、新たな消費者層を引きつけた。統計によれば、天猫のコーヒー部門の売上高はコロナ後に100%以上も増加、スペシャルティコーヒーのインスタント製品に限っては前年同期比1000%も増加したという。
品質重視、オンライン中心の戦略
これらスペシャルティコーヒーの新興ブランドは若者の多様なニーズを正確につかみ、それをデザインやマーケティングに反映させてきた。
デリバリー・テイクアウト専門のコーヒーチェーン「luckin coffee(瑞幸咖啡)」がドリップコーヒーをリーズナブルに提供するという革命を起こしたのに対し、手軽に楽しめるインスタントコーヒーはその味で勝負をかける。
加工技術が進歩し、フリーズドライや濃縮コーヒーなどコーヒー本来の風味を損なわない製法が生まれたことで、各ブランドともドリップコーヒーに近い味わいを再現できるようになった。
またパッケージデザインにも工夫を凝らし、従来のスティックタイプとは一線を画すミニカップを採用。愛くるしいデザインが若者たちの心をがっちりつかみ、存在感を増している。価格はドリップコーヒーと一般的なインスタントコーヒーの中間の5~10元(約80~160円)に設定されている。
オンラインで勢力を伸ばしたブランドだけに、マーケティングにも通じている。三頓半は情報発信の影響力が大きい「KOC(キーオピニオンコンシューマー)」を活用する戦略で、中国の人気レシピサービス「下厨房(Xiachufang)」で人気に火をつけた。永璞はスヌーピーなど400ブランド以上とのコラボ商品を次々と打ち出すことで、知名度を向上させた。
市場は巨大でも楽観視は禁物
中国のコーヒー市場のポテンシャルは非常に高く、新しいタイプのインスタントコーヒーの大ヒットは氷山の一角に過ぎない。
ロンドンに本部を置く国際コーヒー機関(ICO)の調べでは、中国のコーヒー消費量は毎年15%増加しており、全世界の増加率2%を大幅に上回っている。2025年には中国のコーヒー市場規模が1兆元(約16兆円)に達する見込みだ。
この巨大市場と計り知れないポテンシャルを前にして、無数の企業がチャンスをうかがっている。ケンタッキーフライドチキン、コスタコーヒーなどオフラインのコーヒーブランドが、続々とインスタント製品のオンライン販売に参入している。ケンタッキーのコーヒーブランド「K COFFEE」ではフリーズドライ製法のインスタントコーヒーを3種類リリースした。
一方で、長年コーヒーに関わってきた上海啡越投資管理の王振東董事長は、インスタントのスペシャルティコーヒーは急成長分野だが、複数の大手ブランドを支えられるほど大きな市場ではないと指摘する。
中国の消費者はコーヒーのクオリティーを重視するようになっており、品質や安定性を確保できなければリピートに至らない。そうなれば、ますます上昇するトラフィック獲得コストをまかなうことは難しくなる。
またメインターゲットの若者たちは新しい物好きだが、熱しやすく冷めやすい。若者に受ける商品はヒットしても長くは続かないのだ。
世界的に見ると中国のコーヒー市場は急成長を遂げており、あらゆるチャンスに満ちている。勢いに乗ったこれら新ブランドがリードを保てるのか、後半戦の行方が注目される。
作者:新零售商業評論(WeChat ID:xinlingshou1001)、何意
(翻訳・畠中裕子)
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