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深センといえばハードウェアとテンセントなどの都市であり、杭州といえばアリババの企業城下町。では流行の最先端を行く大都市上海は、IT方面では人工知能が強い。
上海では2020年に人工知能関係の企業を集めた展示会「世界人工知能大会(WAIC)」が開催された。中国ではこの大会に限らず、中国企業をメインに外国企業も呼びよせる展示会「世界~大会」を多数開催している。たとえばビッグデータの展示会は過去に北京と貴陽(貴州省)で、VRとARの展示会は南昌(江西省)で開催されている。貴陽はビッグデータ産業に、南昌はVRとAR産業に力を入れていて、そこで国内国外企業を集めて展示会を行った。つまり上海で人工知能の展示会が行われるということは、上海を人工知能産業の集積地にしようとしているわけだ。
AI企業といえば本サイトでしばしば紹介される「AI四小龍」こと「イートゥ(依図)」「センスタイム(商湯)」「クラウドワーク(雲従)」「メグビー(曠視)」に加え、「アイフライテック(科大訊飛)」が特に有名だ。このうち上海を本社とするのは画像認識技術のイートゥだけだが、他の各社もいずれも上海に拠点を構えている。著名企業だけでなく多数のAI企業があり、1100社の重点企業、10万人の人材が集中し、中国で人工知能産業が最も発展した一地域となっている。2020上海人工智能産業発展報告によれば、上海での人工知能企業は2010年から増え続け、設立ブームは2015~16年がピークとなり、現在では上海の中でも五角場と曹河涇開発区と張江高科の3カ所にAI企業は集積している。こうした集積の結果、最近では3月30日には中国初の人工知能を活用した環境保護を目指すコンソーシアム「人工知能環衛智能化産業聯盟」が誕生し70社が参加するなど、企業の横のつながりも強化されている。
もちろん上海市政府もAI産業をバックアップする。昨年末に発表された上海市の2025年までの第14次五か年計画と、2035年までの長期計画目標についてまとめた『中共上海市委関于制定上海市国民経済和社会発展第十四箇五年規劃和二〇三五年遠景目標的建議』によると、今年の上海市の経済について6%アップを目標とし、産業別では人工知能とICと生物医薬を特に強化、つまり関連企業に金銭的なバックアップを行う。ちなみに2020年の上海市の人工智能産業規模は2000億元弱とのこと。
上海市はただAI企業をバックアップするだけでなく、上海市や市内各区が人工知能関連企業と提携して共同で研究開発を進める。「1つのファンド(当初は100億元程度での運用だが将来的には1000億元クラスに)」「3カ所の研究所」「8つのAI創新プラットフォーム」「8カ所のAI創新センター」をあわせた上海モード(上海模式。こういう言い方は中国ではよくある)で各社が上海の各政府と提携して伸ばすとしている。
上海モードの具体例なプロジェクトをいくつか挙げていく。
・アマゾンと上海市(経済和信息化委員会):「アマゾンAWS上海人工智能研究院」
・JD(京東)と上海市(経済和信息化委員会):「スマートシティプラットフォーム」
・テンセント(騰訊)と徐匯区:「テンセントAI創新プラットフォーム」
・ファーウェイ(華為)と青浦区:「ファーウェイAIクラウドプラットフォーム」
・アリババ(阿里巴巴)と浦東新区:「アリババ(上海)R&Dセンター」
・バイドゥ(百度)と揚浦区:「バイドゥ(上海)創新センター」
・アイフライテックと長寧区:「アイフライテック(上海)AI及び脳科学研究院」
・マイクロソフトと儀電集団と徐匯区:「マイクロソフト上海研究院 AI創新院」
・センスタイムと徐匯区:「商湯上海人工智能スパコンセンター」
・小鵬汽車と静安区:「小鵬汽車自動運転スマート研究センター」
ここに揚げたほかにも奉賢区で自動運転試験区が開園し、中国企業では自動運転で一番強いバイドゥのApollo関連の200億元超32プロジェクトがここで進むとしている。AI四小龍の上場が進まず、AIビジネスの商用化でうまくいってないという報道もあるが、当面は上海が一部バックアップをすることで、AI企業は力をつけ続ける。その結果上海からAIを活用した新しい取り組みが出てくるだろうし、上海から学ぶ案件も増えていくだろう。
作者=山谷剛史
アジアITライター。1976年東京都出身。東京電機大学卒。システムエンジニアを経て、中国やアジアを専門とするITライターとなる。単著に『中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?』『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』などがある。
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