【特集】急成長の中東EC市場、その商機と課題を探る 

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中東に抱くイメージが黒いベールで顔を覆う女性の姿や豊かな石油資源にとどまっている人は多い。しかし、中東の現実はこのイメージを大きく超えている。中東ではここ数年、EC(電子商取引)市場が急速に成長しており、そのスピードは世界で一、二を争う勢いを見せている。本稿では、中東EC市場が成長を続ける理由と今後の成長に向けた課題について紹介する。

中東とは

中東とは一般に、地中海東岸の中近東と南岸の北アフリカを含む面積約1500万平方キロメートルの地域を指す。23の国が位置し、地域全体で4億9000万人の人口を抱えている。

中東はアジア、欧州、アフリカと接し、大西洋およびインド洋に面している。東西交通の結節点として古くから戦略的に極めて重要な場所とされ、貴重な淡水資源と石油資源をめぐる争いが絶えない地域としても知られてきた。

成長する中東EC市場

欧州格付け大手フィッチ・レーティングス傘下の市場調査会社「BMI Research」のリポートによると、過去2年の中東EC市場全体の成長率はいずれも20%を超えており、今後数年間は同程度の成長率を維持するとみられる。独市場調査会社「Statista」 は、中東EC市場の規模は2014年以降拡大を続けており、今年は287億ドル(約3兆1000億円)規模に達すると予測している。これらのデータからは、現在の中東EC市場は依然として草創期にあり、今後に巨大な成長の可能性を残していることが分かる。

中東諸国におけるEC市場の規模(図版は「Statista」提供)

中東EC市場が成長を続ける主な理由として、高い所得水準と巨大な若年層人口が挙げられる。加えて、コロナ禍も成長の契機となるだろう。

高い所得水準

サウジアラビアのサルマン国王が2017年に訪中した際、金のタラップが備えられた金の専用機に搭乗し、1500人以上の随行員を従えていたことは極めて印象的だった。その様子を「大富豪がやってきた」と面白半分に報じる中国メディアもあった。

中東は豊かな石油資源に恵まれている。世界の石油埋蔵量の66%が中東にあり、石油備蓄量ランキングでも中東の国々が10位以内に名を連ねる。石油で財を成した大富豪も珍しくなく、富裕層の数が非常に多い。

中東主要国は1人当たりの可処分所得が多く、消費能力も非常に高い。オンライン百科事典「ウィキペディア」(中国語版、2018年)掲載のデータによると、1人当たりの国民総所得(GNI)はカタールが6万ドル(約650万円)で世界5位、アラブ首長国連邦(UAE)が4万ドル(約430万円)で20位、サウジアラビアが2万ドル(約210万円)で34位となっている。高所得ゆえの高消費を背景に、中東市場での商品取引では高い利益を見込むことができる。

巨大な若年層人口

中東は世界的にも若年層の多い地域として知られる。地域全体の総人口1億800万人のうち、15〜29歳の人口が28%以上を占める。在ヨルダン中国大使館の経済商務処がまとめた2020年のデータによると、エジプト、イラク、レバノン、モロッコ、オマーン、チュニジア、ヨルダン、アルジェリア、サウジアラビアなどでは、15〜24歳の人口が全体の約20%を占めている。若年層が多い中東社会では新しいものが受け入れられやすく、新技術の参入障壁も低い。中東各国では現在、デジタル化が大きく進められている。市場調査会社「智研咨詢(Intelligence Research Group)」がまとめた2019年のデータによると、UAEやサウジアラビア、エジプトなど一部主要国ではスマホとモバイルインターネットの普及率が世界平均を大きく超え、70%以上となっている。

コロナ禍による消費行動の変化

昨年は、コロナ禍の影響でオンラインショッピング利用の動きが世界中で加速した。中東も例外ではなかった。中東の消費者は従来、代金引換を好む傾向があったが、感染リスクの恐れからキャッシュレス決済の利用が増加し始めた。このこともEC市場の成長に有利に働くだろう。

EC市場成長に向けた課題

中東EC市場の成長に向けて、解決すべき課題も存在する。

物流システムの未発達

中東地域は砂漠と丘陵が多いため、物流拠点の開設コストが高くなる。また、顧客の住所情報が不明確な上、代金引換を好む消費者が多いことも、中東における物流システムの発展を阻んでいる。しかし、ここ数年は各EC事業者が物流システムの改善に多額の資金を投入し、政府もEC業界の発展を重視していることから、物流面の大幅な改善が期待できる。

キャッシュレス決済の未普及

中東では依然として現金決済が習慣化しており、クレジットーカードの利用率にもばらつきがある。こうした消費者習慣が変化し、キャッシュレス決済とオンライン決済の利用が広がる可能性を示す事例がある。中東最大のECプラットフォーム「スーク・ドット・コム(Souq.com)」は、ショッピングイベント「ホワイトフライデー」でクレジットカード決済をした場合は10%割引を適用するキャンペーンを実施した。結果的にユーザーの半数が代金引換ではなくクレジットカード決済を利用したという。

文化・宗教上の禁忌

中東諸国の大多数はイスラム教国家で、商品そのものはもちろん、パッケージデザインにも多くの禁忌事項がある。女性の肌などの過度な露出をはじめ、イスラム教の精神に背く図案をパッケージに利用することは禁止されている。

以上のように、中東のEC市場はチャンスと課題に満ちている。商機をつかみ、いくつかの壁を乗り越えられれば、起業家たちの目の前には大きな可能性が広がるだろう。
(翻訳・田村広子)

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