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急激にロボット企業とその関連企業の資金調達のニュースが出ている。36kr研究院のロボットレポート『2020年中国服務機器人行業研究報告(中国サービスロボット業界研究レポート)』と「2020年中国餐飲配送機器人行業研究報告(中国配膳ロボット研究レポート)」を引用しつつ、中国ロボット業界の現在を俯瞰していきたい。
ロボットといっても多種多様で、一つの企業が全てのロボットをカバーしているわけではなく、各種ロボットに特化した企業が台頭している。36kr研究院はレポートの中で、以下のようにロボットを分類している。
- 工業用ロボット:溶接ロボット・包装ロボット・倉庫内運搬ロボットなど
- サービスロボット:家事ロボット・子供用教育ロボット・老人介護ロボット・建物内の案内ロボット・食事配送ロボット・販売ロボット・医療用手術ロボット
- 特殊ロボット:軍事用ロボット・極限作業用ロボット・救援ロボット
中国電子学会のレポートによれば、2021年の世界ロボット市場規模は365億1000万ドル(4兆円弱)で、年平均12%の成長をしている。このうち工業用ロボットが181億4000万ドル(2兆円弱)、サービスロボットが131億4000万ドル(約1兆4500億円)、特殊ロボットが52億3000万ドル(約5700億円)だ。現在中国ロボットの販売額は世界のロボット販売額の20~30%程度である。
この中のサービスロボットの中でも、中国での新型コロナウイルス感染拡大時に医療現場で活躍し脚光を浴びた運搬ロボットはシェアが大きく、かつ今後成長が期待されるロボットだ。なおサービスロボットの中でも家事ロボットと運搬ロボは比較的シェアが大きいが、家事ロボットを代表する掃除ロボットはやや飽和しており、伸びしろは小さいとレポートでは分析する。
対して運搬ロボットのニーズは大きい。国家統計局によると、2019年の飲食やホテル勤務者は2413万人で、平均所得は3940元(約66500円)でさらに上がり続けている。一方中国全土には800万超の食堂・レストランがあり、このうち10.8%にあたる86万4000店が50席以上となる。これらの店が2台の運搬ロボットを導入するとなると、中国国内だけで172万8000台の市場がある。1台あたり5~8万元なので、1000億元を超える潜在的な市場がある。導入している飲食企業では海底撈火鍋が知られているが、今後海底撈火鍋のようにロボット導入が進んでいく可能性は高い。
運搬ロボットのほかにもオフィスやホテル、病院、空港、博物館などで来客など人の顔を認識し、音声応答や案内を行ったり、ガードマンの代わりに巡回したりするロボットも伸びが期待されている。
ロボットそのものの製造は「普渡機器人(Pudu)」や、「雲跡機器人」などが台頭しているが、その背景にはロボットの基幹部品の製造についても中国企業が徐々に台頭していることがある。例えばモーターや減速機は日本企業が強く、コントローラーについては外国企業が強いが、レーザーレーダーやロボット用カメラセンサーでは「速感科技」や「奥比中光」などの中国企業も台頭し、その影響もあってロボット自体のコストダウンが加速している。
また人とのコミュニケーションに必要な技術としては、視認技術にはAI四小龍の「依図(イートゥ)」「商湯(センスタイム)」「雲従(クラウドワーク)」「曠視(メグビー)」が、音声認識技術には「科大訊飛(アイフライテック)」や「百度(バイドゥ)」などが、またロボットに必要なSLAM(Simultaneous Localization and Mapping、 自己位置推定と環境地図作成を同時に実行する機能)についても中国企業が力を強めている。こうしたことから中国企業が製造したロボットは単に安いだけでなく、様々な企業の技術の重ねあわせにより、高品質なロボットが安価で製造できる状況だ。
ロボット系スタートアップ企業への投資は件数、金額ともに2018年をピークに下がっている。絞られた主要プレーヤーが中国政府の政策によるバックアップの下、磨きがかかった各社の技術がロボットに搭載され、強力な国際的価格競争力を武器に中国国内で、そして世界に向かって展開されることになる。
作者=山谷剛史
アジアITライター。1976年東京都出身。東京電機大学卒。システムエンジニアを経て、中国やアジアを専門とするITライターとなる。単著に『中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?』『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』などがある。
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